もし何かが変わるなら
ひい、ふう、み。よ、いつ、む。なな、や、ここ。とお。
ゆっくりと、落ち着いて。穏やかに、健やかに。
数え終えて、目を開く。
別段それで、世界が変わったりなどしない。目を開けばそこには、当たり前のように閉じる前見た世界が広がっている。
それでも僕は、目を閉じ数える。
ひい、ふう、み。よ、いつ、む。なな、や、ここ。とお。
呼吸を整え、気を落ち着かせ。
世界は何も、変わらない。
世界は光りに満ちあふれ――なんてこともなく。かといって真っ暗なわけでもない。
ただ当たり前に、世界は続く。
何も変わらず、世界は続く。
だから僕は、目を閉じ数える。
ひい、ふう、み。よ、いつ、む。なな、や、ここ。とお。
不変の世界が、目の前に広がり。
ああ、誰か。誰か助けてよ。
弱い僕は、願うしかない。
もう、疲れたよ。
そして僕は、目を閉じ数える。
ひい、ふう、み。よ、いつ、む。なな、や、ここ。とお。
もし、今日とは違う明日があるなら。
目を閉じ、耳を塞ぎ、数を数えてそれを待とう。
ひい、ふう、み。よ、いつ、む。なな、や、ここ。とお。
目を開けば、変わらぬ今日。
わかっていたさ。何も変わりはしないことは。
だから僕は、溜め息一つ。
諦めて、切り捨てて、飲み込んで。我慢して、やり過ごし、拳を握り。夢を見ず、希望を抱かず、全てを諦め。さあ――
目を閉じて、数えよう。
ひい、ふう、み。よう、いつ、む。なな、や、ここ。とお。
目の前には、変わらぬ世界。