〜言ってはいけないコト〜
3話〜できたてホヤホヤ3話〜。
美味しいよ…(´・ω・`)
3.警戒
私は、耳はいい方だと思う。
この無駄に大きいウサギのような耳が、少なくともこの村の中なら隅から隅まで細部に聞き取ることが出来る。
だけど、ここじゃ大して意味もなさない。
機械みたいに感情が欠如してる村人、自分を偽りまくってる村人、いつも凶器片手に誰かを殺すことばかり考えてる村人…。
確かに、この村に連れて来られる前までは自分と同じ境遇の人がいたなら、少しでもこの痛みが分かち合えるものだと信じてはいた。
だから、正直この村に隔離されると聞いて嬉しかった。
人間たちは私たち獣人を見下すけれど、同じ立場の人たちとなら友達になれる、自分たちを分かち合える、って。
でも、そうじゃなかった。
私もそうだけど…、人間の事はまごう事なく殺したいほど憎んでる。
だからこそ。
その感情が、結果狂気を招くことになってしまって。
そもそも、この村で村人達と話すのは、月に一度あるかどうかレベル。
後は食べ物を栽培して、それぞれの生活に効率のいい生活を心がけてる…ただそれだけ。
これじゃあ、ここに来る前となんら変わらない。
折角ここを監視する人間がなんでか知らないけど死んでくれたおかげで私たちの好き放題できるって言うのに。
誰か。
ここの村人たち全員の心を少しずつでもいいから…溶かしてあげてくれないものだろうか…。
自分の頭の中でそんな会話を繰り広げた後。
フッと1人鼻で笑ってしまう。
無理に決まってる。だってここは、外の世界とは完全に離れているんだから。
出ることも入ることもできない。
なのに、そんなことあるわけが無い。
ラットは薄汚れた低い天井にいつものように手を伸ばした。
もちろん手は届くはずもないけれど、いつかこの手が天井につくようになったら…私が、この村を変えよう。
まぁつまりはそれって、一生私には出来ないって言ってるようなものだけど…。
ラットの腕の三倍はあるであろう天井に、なにしたって届くはずがない。
だから…この村が暖かくなることも、ないんだ…。
眠ろう。また明日、こんな風に考えながら眠って、また朝が来るんだから。
何も変わらない。
なんの変哲もないただの人生なんだから。
…眠ろう。
目を閉じ眠気に寄り添って夢にでも遊びに行こうと意識を手放そうとしたなら。
村を囲う紐から、かすかに聞こえ続けていた電流の音が途絶えた。
「 …え……? 」
よく耳を澄ませば、聞いたことのない青年の声がする。
シャオンと、…だれ…ッ!?
眠気も忘れ、何も考えずただ家を飛び出した。
一刻も早く、声のする方へ。
なんの変わりもない、ただただ時間だけが過ぎていく村に。
少しでもいい…なにかがあったなら。
きっとそれはを…自分を変え、村を変え、人の心を変える変化になる。
そう、そのはずだから。
ラットは立ち止まる。
朝日がのぼり、ついさっきまでそこにあったはずの電流の紐がなくなって代わりに、美しく朝日を反射して輝く氷のカケラが風に舞って、ゆっくりと落ちていく。
唾を飲み、冷や汗すら出る。
何が、起こったのだろう。
ラットは、その景色から目を反らせなくなった。
その時見た景色を、ラットはきっと、一生忘れないことになるだろうから。
■ □ ■ □
ユキは、氷を操る力があるらしい。
見た限りだと、目の中の一部と髪が白く輝き変化する。
この村には、常人離れした力を持った奴ばかりだけど、ユキのように具現化する力を見るのは初めてだ。それに、こんなに綺麗なのも…。
ただの白さではなく、何か神秘的なものを感じる輝きがあって。
後ろで氷のカケラが光を放ち、落ち果てる。
そんな光に照らさるユキの白さは魅力的なんて言葉だけじゃ表せない。
「 ユキ…、さっきの事だけど…本当にいいの? 」
理性を取り戻し、さっきの質問に対してシャオンは答えた。
「 うん、もちろん。僕は君達をバケモノなんて思ってもみてない。それだけは…信じて。」
まっすぐ答えるユキ。
やっぱり、ユキという人は不思議な人だ。
…人なのかどうかはわからないけど…。
「 …わかった。信じよう。でも、村のみんながユキを受け入れてくれるかどうか…。きっと、村を隔離してたこの紐がなくなったことに気づいた人もいると思うし、誰かくると思う。でも、その時どんな反応するか…。僕も、最初は絶対人間だと思ったし… 」
んー…、と悩むシャオン。
ユキは、少し申し訳なさそうに眉を寄せた。
「 見た目は完全に人間だし、仕方ないか… 」
「 まぁ…でも、ここで悩んでいてもどうしようもないから、とりあえ…… 」
「 あのッッ!!!! 」
シャオンの言葉を遮る、少し高い少女の声。
反射的に振り返るユキとシャオン。
「 はぁ…っ、はぁ…、シャオン…ちょっと待って… 」
2人の目に映ったのは、白いウサギの長い耳を頭部から生やし、服がキツそうに張らざるをえないほど大きな乳を揺らして息を切らしながら立っていた少女の姿だった。
歳は、2人と対して変わらないようにも見える。
「 …ッ!やっぱり…紐が…。それに、氷の…結晶…? 」
少女はおそらく、思考がすぐに理解してくれないことに焦っているのだろう。
それもそうだ。
今まであったはずの、触ったら即バットエンド直行の電流が流れる紐が氷で固まり粉々に砕けて地に山積み状態、しかも見たこともない人間がいるとくる。
いくら見るからに頭が良さそうだとしても、これだけの一大事をいっぺんに理解しろと言う方が難儀だろう。
それを見越して黙っていた2人だったが、ラットがその沈黙を破る。
「 色々聞きたいことや確かめたいことは山ほどありますが…まずはじめに、あなたは…誰ですか…? 」
少女の瞳は暁に燃えていた。
これは、シャオンの時と同じ…人間を警戒している目だ。
「 僕はユキ。ちなみに…警戒されながら話すのもあれだから先に言っておくけど僕は人間じゃない。この粉々の氷のカケラを見てもらえればわかると思うけど、これは僕がやったんだよ。」
ユキは、足元にこんもりと積もる氷のカケラの中から手のひらサイズのものをとってみせた。
少女はわかりやすく目を見開く。
「 な…っ、貴方はどこからどう見ても人間でしょう‼︎ まさか、人間はそこまでわかりやすい嘘をつく馬鹿に成り果てたのですか⁉︎ 」
少女もまた…シャオン同様人間に深い傷を負わされたのだろう。殺意と敵意をむき出しにして叫んだ。
「 うん、人間は馬鹿だよ…。自分のためなら人をいくらでも傷つけ、裏切るんだ。………そう…僕も……誰かに… 」
そっと、ユキは自分の焦げ残る頬に手をあてそう呟いた。
頬に触れると思い出す、心に思い浮かぶ「なにか」。
それはあまりにも不快な感覚で、ユキの全細胞が思い出すな、考えるな。と叫んでいた。
ギリっと歯を強く噛み締め、恐怖とも言え、憎しみとも言える表情をする。
「 ……っ?な、なんで…貴方は人間…なのに…何故…私達と同じ…? 」
「 ラット、落ち着け。ユキは…この人は敵じゃない。ユキの頬の焼け焦げた跡も人間につけられたものだし、氷を使うのも本当だ。僕がこの目で見た。 」
困惑する少女をラットと呼び、声をかけるシャオン。
「 シャオン…、…ごめんなさい、取り乱しました…。しかし、まだ信じることはできません。例え貴方が今ここでその氷の力を使おうと、多分きっと、信じることはできないと思います。」
「 うん…それでもいいよ。とりあえず、他に聞きたいことはあるかな? 」
にこりと微笑むユキ。
その穏便な対応に、ラットは少し罪悪感を覚えてしまう。
姿勢をもう一度正し、ラットは何事もなかったように次の質問を繰り出した。
「 じゃあ…そうですね…何故この紐を…村を囲うこの紐を壊したのですか?もしかしたら、死んでしまうかもしれないのに。」
確実に怪しんでいるラット。
そういえばシャオンが言っていた…、この隔離には人間が関わっていたとか…、もしかして、その類の奴らだと思われているのだろうか。
「 これは…そう、シャオンが隔離させられてるっていうから、僕の力を知ってもらうのと同時に壊したんだ。少しでも、僕が敵じゃないことを信じて欲しくて… 」
これが嘘ではないことは、シャオンが頷いたことで裏付けられていた。
「 …そうなのですか。それは、感謝いたします…けど… 」
ラットは言葉を止めたが。
“ けど信じることはできない ”
そう言いたがっていることは明確だった。
そんなラットの警戒具合にユキは肩をすくめて苦く笑った。
「 いいよ、無理しなくて。これからゆっくり、僕のことを知っていってもらえればそれで十分だからさ…ね? 」
ラットはその言葉に、少し心を許してしまうような気がした。
「 ユ、ユキさん… 」
一歩近づいて、今度は警戒とは違う、他の言葉をかけようとした瞬間に。
直後、ラットはユキの発した言葉に少しでも心を許そうとした自分を悔やみ、恨んむことになる。
「 でも、ラットも僕も、みんな最初は人間だったのにね。」
あ…、と。
シャオンの口からつい出てしまったその一文字。
反射的にシャオンが冷や汗をかくほど言ってはいけないことをユキは言ってしまったのだ。
明らかに。
空気が変わり、憎悪がラットから溢れ出るのがわかる。
「 ラ、ラット…落ち着いて…ね…? 」
シャオンが焦り、ラットに近づこうと試みたが。
「 シャオン、黙ってて。」
いつも丁寧な言葉しか使わないはずのラットがそう吐き捨てた。
ラットの暁の瞳の先には、ユキがいた。
シャオンは頭を抱えるほかなく、次の瞬間、ラットはユキに向かって飛び込んだーーーー。
ウサギって、どっかの国でライオンを殺したことがあるそうですね。




