喫茶店の午後
「へえ、ハカゼってニートだったんだ」
「元ニート、だっつの。内定昨日貰った」
2週間ぶりにハカゼがログインしたと思えば、メッセージが飛んできて、目の前に転送してきた。
---
木質の扉を開けると、カランと音が鳴る。この音が自分は好きだ。
ルキ島の喫茶店。足を踏み入れると、一度NPCの嫌な視線が此方に注がれた。が、それも束の間。喫茶店にはいつも通りのゆったりとした雰囲気に戻った。
オレは初めこの喫茶店に来ることを固く反対した。けれどハカゼがどうしてもここが良いんだと言った。
「おめでと。で、今日はそれを言うためだけにインしたの?」
「まあそうなんだけど、そうじゃないっていうか。まあなんだ」
もじもじと身体をくねらせるハカゼ。
言いたいことがあるならはっきり言え、らしくないぞ。
「変な奴」
「うっせえわ!」
声が喫茶店中に響く。オレは周りに客のいない席を選んだ。しばらくしてマスターのリンが奥から水持ってきた。
「それで、仕事はどんな?」
木製のメニュー表をハカゼに渡して、他愛のない会話を交わす。
「ああ、俺実は英語の教員資格持っててさ」
「嘘つけ」
「いやまじだって」
初めは気づかなかったが、彼の言動はただ単に馬鹿正直なだけなんだと思う。
だから、このことも多分本当なんだろうけれど。
彼が先生だなんて、全く持って想像出来ない。
「地元の高校が臨時の教員募集かけてて、運良く内定貰えたんだよ」
「へえ」
その高校がうちの学校じゃないことを祈りたい。切実に。まあ話自体も半信半疑だけれど。
カラン。と客がやってくる音がした。ふと目が入り口を見てしまう。と、そこには目を丸く見開いた少女が立っていた。彼女は例のNPCだ。不味いところに鉢合わせしたな、と思った。
少女とハカゼの目が合う。少女は小さな悲鳴を残して外に出て行った。
「今のって……」
ハカゼはその少女に見覚えがあったようだ。それでいて、彼はどこか寂しそうな顔をしたように見えたような。
「ごめんハカゼ、ちょっと待ってて」
このままだと駄目なんじゃないか、そう思って駆けた。
「ああ、いってら」
ハカゼはそっと声をかけてきた。
少女を追いかけて扉を押したとき、後ろから「またな」と声が聞こえたような気がした。
オレはただの空耳だと思った。そして右手を振って声をあげる。
「酒、内定祝いに奢るよ。飲んで待ってて」
なんでこの時ちゃんとあいさつをしなかったのか。
後でそのことを少し悔やんだ。