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ネットとリアルの境


何処までも続く暗闇の中、ゲームへ続く扉が眼前に広がっていた。一歩足を進めると、それを中心に波紋が広がる。

 もう少し足を踏み出してみる。扉を潜ると、ぽーんと音が響いた。手元に簡単なアナウンスが表示される。

 

  -------


  GATE へ ようこそ


 [ユーザー名]  やどかり 

 [レベル]     158 

 [ギルド]    クラウン


  -------



「お、やど坊のINする時間帯か」

 

 離れていくルキ島の港を帆船の甲板から眺めていると、船長のおっちゃんが近づいて来た。


「今日も精霊バイトかい?」


 おっちゃんは陽に焼けて程よく焦げた肌とがっしりとした体格が口に咥えたパイプ煙草とマッチしている。彼とはもうすぐで2年の付き合いだ。だからかもしれないがオレの受注クエストも大体把握されていた。


「んや、今日は友だちの手伝い」

 

 [GATE]の中の世界は、1つの大きな大陸と4つの島から出来ている。プレイヤーは各職業によってお互いに違ったクエストをこなし、パーティやギルドに属して時には助け合ってゲームをプレイする。


 まあ、開発以来一度も手の加えられていないゲームだことで、全てのダンジョン、ステージは攻略されつくされ、今は全盛期の約2割にまでユーザー数が減ってしまったが。それでもなんとかレベル上限の無いこの世界に残って根気強くレベルの限界に挑戦する古株プレーヤーとバーチャル型を新しく始める新米プレーヤーに支持されて、今に至る。


 オレはそんなゲームに残る残等でもあり、過去のこのゲームを開拓して行ったうちの一人でもある。そんなオレがこのゲームに長々と居座っているのにもちょっとした理由があった。

 友だちの手伝い、みたいなことをするため。今日も今日とて普段からソロプレイしかしていない自分にはパーティを組める友だちなんて居ないに等しいのだけれども。



「あいつらか」


 そんな、いわゆる『友だちみたいな』彼らはおっちゃんとオレの唯一の共通の知り合いだ。彼らはルキ島の港にある酒場によく出入りしている賑やかな若者たち。そのうちの一人、酒場の料理人リンがオレに頼みごとをしてきた。


「カルカーノの特産物届けてくれってさ」


 あとラブレターも。そういって手元にあった白い封筒を見せる。これは港で船から下ろす荷物運びをしているアモンから預かったものだ。宛先はこれから行く大陸カルカーノの城下町に住む一人の女の子に宛てたものだった。


 おっちゃんの口髭から除く口がにっと開いた。


「そうか、あいつらエリアチェンジ出来ないんもんなあ」


 煙草を一度吹かして、遠くの水平線を眺める彼。どこか寂しそうな眼をしている。嫌な予感がした。


「なあ知ってるか、やど坊」


 いつもより声のトーンが下がるおっちゃん。


「一ヶ月後、ゲートが閉鎖されるってよ」


『GATEの、運営との契約期間は2年なんだ。契約終了後は二度とゲームをプレイを出来なくなる。それが来月だ』このゲームの開発に貢献した兄が、少し前にそんなことを言っていた。まさかとは思っていたがおっちゃんの耳に入っているとは。出来るならば、彼には知られたくないことだった。


 おっちゃんはいろいろな港を帆船と共に旅しているから耳が早い。例えば船に乗る冒険者たちの話や同業者、港で働く仕事人からそんな情報を仕入れているらしい。でも、時に情報は武器となり、両刃の剣となる。今は俄然後者だ。

 

 オレにその話を振ったあと、事実を否定しなかったオレを見ておっちゃんは顔をしかめた。



 別にゲームが終わるって言っても、他のゲームでレベルやアイテムの引き継ぎは出来る。なにより[GATE]には課金要素が無いので、別に普通のプレイヤーなら閉鎖ごときで大きな痛手を負うことはない。でもオレは違う。オレはこのゲームに他のプレイヤーとは違うちょっとした想い入れがある。


 その想い入れを共有するやつがいないから、多分自分にしかない悩みでもあるだろうけれど。それはオレが知ってること。オレしか知らないこと。

 

 おっちゃんも、リンも、アモンも、ルキ島の賑やかな連中もみんな、NPCだということ。そして彼らがみんな心を持っているということ。それとオレがそんな彼らの遊びに付き合っていること。




 ---




 

 ゲームをログインして目を開けると部屋は真っ暗だった。唯一カチカチと鳴る机の上の目覚まし時計を見ると、暗い中蛍光シールの貼った太針が8を指していた。


 両親ともに共働き。帰宅は大体日付が変わったころ。だから晩飯は仕事から帰ってきた兄といつも2人。気がつけば家族なのに会話なんてろくにしない日々が当たり前。それが少し寂し


かった。だから、少しでも温もりの感じるゲームの世界に逃げ始めたのかもしれない。


 一階のリビングの扉を開けると、兄がレンジで飯をチンしていた。職場の制服を着ている。多分さっき帰ってきたところだろう。

 


「なあ兄ちゃん、ゲートの閉鎖もうちょっと長引かせれない?」



 飯時、テレビを見ながらふと尋ねてみた。駄目でもともとだ。聞かないとやってられない。


 兄は名作[GATE]を作った張本人。今では大手MMORPG制作会社の開発部で売上トップを維持している若き天才。なんて謳われている兄も、家では普通の無口な青年だ。


「無理だ」


 きっぱりと断られた。これはいつものこと。言葉自体には傷つかない心。兄の言葉はいつだって、オレの耳に届かない。家族の愛が完全に冷めきっている。

 

「まじで頼むって」


 どうにもならない未来にもどかしさと焦りを感じているのかもしれない、オレ一人の意見なんて通るはずもないのに。そんなの知ってるのに。でも、『はいそうですか』なんて簡単に引き下がりたくもなかった。


「あのなあ。僕も運営の決まりには逆らえないんだよ」


 それっきり、兄弟の会話は途切れてしまった。


 中編物です。多分15話くらいで終わります。内容は大体考えてるんで、年変わるまでには書きれたらいいなあって密かに思ってます。

 これを書こうと思ったのは、昔ハマってたRPGゲームを無性に最近やりたくなったからです。まじで恋しいっす!

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