表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者: 白州藍樹

「誰にも気づかれなくても

私は此処で待ちましょう

いつか貴方が通りすがって

私を見つけてくれるのを

ほんの小さな季節はずれの

紫色の菫の花です

いつ踏みつぶされて

果ててしまうかも知れない花です

それでも私が咲いたのは

私を見つけてくれる貴方に出逢うため

まみえて微笑を交わし合うためです

その邂逅が一瞬でも

貴方には大したことではなくても

たった一度垣間見えることだけが私の倖せ

巡り逢えることがこの儚い命の意味なのです」


なんて、綺麗な空想を教室の窓から空を眺めて考えて、すっかり新緑の桜の樹をぼんやりと見つめて、普通の女の子の私は今日もまた、つまらない勉強に励むのです。名前ばっかり、春野菫子と乙女チックで、それ以外なんの変哲もない学生の私は、本当に菫の花になって誰かに摘まれて、押し花に、ドライフラワーに、ガラスに嵌め込まれた永遠になって、いつまでもうつくしく咲き続けることを夢見ています。

それが貴方の手だったら。私を摘み取るのが、貴方のその大きな右手だったら。

隣の席のよく話す男の子の横顔を盗み見て想像します。

愛するひとに摘み取られたら、それは幸福でしょうか。

きっと幸福。きっと、きっと、幸福なのだと思います。

視線に気づいてか、さっとこちらを振り向く目がありました。私は恥ずかしくなって、また窓の方へ向き直ります。頬杖をついて、何気なく、普段のふうを装います。

顔が火照った気がします。赤くなってはいないでしょうか。見られないように、彼の目を避けて、もっと遠くの空を、流れる雲を見つめました。遠くを見る間視界に入った、グラウンドの外の小道を歩く菫色の日傘が、日の光でか数秒だけ、ピンクの薔薇色に輝いて見えました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ