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傭兵と小説家  作者: 南海 遊
Part 1. The Soldier and The Novelist.
13/83

〈幕間〉悪夢が喉元に触れた日

 いつだって青い空が見えた。


 たとえ雨が降っていても、その雲の向こうに青を感じられた。


 朝、母親の声で目を覚ます。


 頬に感じる陽光の暖かさ。


 朝食を食べ終わる頃には、父親は既に仕事に出ているのが常だった。


 顔を洗いなさい、という母の小言を背に、迎えに来た少女と外に飛び出す。


 雨の日ですら、俺たちには関係が無かった。


 俺たちはもっぱら、木剣を振り回して遊び回っていた。


 情けないことに、結局、俺は彼女に一度も勝てなかった。


 彼女はいつだって得意げに笑いながら、俺を見下ろしていた。


「あなたが弱いんじゃない、私が強いのよ」


 そう言われるたびに悔しい思いをした。


 同年代の仲間の中でも、彼女はいつだって中心にいた。


 俺はいつだって彼女の背中を追っていた。


 それでも彼女は、どんどん先に行ってしまった。


 でも、俺の口から「待って」とは言えなかった。


 言いたくなかった。


 そう言ってしまうと、すべてに負けてしまう気がした。


 そういう時、決まって彼女は立ち止まり、振り返って俺に手を差し伸べるのだ。


「ほら、早く行きましょ」


 向けられる、あどけない少女の微笑み。


 悔しさと、安堵。


 俺は力を振り絞り、その微笑に追いつこうと手を伸ばす。



 ―――そこで、世界が暗転する。



 微笑むその顔が、血で染まる。


 足下には、変わり果てた友人たちの姿。


 血溜まりの中に、母親の骸も転がっている。


 むせかえるような血の臭い。


 どうして、と何度も繰り返す。


 哄笑。嗤い声。叫声。


 俺は逃げる。


 どこかで何かを間違えた。


 俺が間違えたのか?


 それとも世界が間違えたのか?


 分からない。わからない。ワカラナイ。


 ……それは今も、解らない。



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