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「結局、入部することになりそうね」

離空と映天と別れた後、新紅はそう話した。

「まぁ、僕らの邪魔はしないって言うし、あの2人ならいざって時には逃げられるだろうけど……」

そんな簡単に信じていいのかな……と、新藍は言葉を呑み込んだ。

「新紅は、何か楽しそうだよね」

一歩前を歩く姉に、新藍は問いかける。

「そうかしら?」

「そうだよ。……僕だけじゃ、足りない?」

玄関の鍵を回し、ノブに手をかけたまま新紅が止まる。

「新藍は、そういうこと考えなくていいのよ」

「でも新紅は」

「私は」

振り返り、小さく微笑む。

「私は、お姉さんだから」

不満そうに俯く新藍にクスリと微笑み、新紅はドアを開けた。

「……?」

「新紅、下がって!」

家の中に何者かの気配を感じ、新藍は先に玄関をくぐる。

「新藍……」

「うん、絶対誰かいた……?」

そこまでで意識が途切れた。






「じゃあ、こっちのこと、よろしくね」

長い夢から覚めたばかりのような、ぼうっとした頭で姉の言葉を聞く。

「ちょっと(アオ)、しぃ姉の話聞いてる?」

「え、あ、聞ぃてるよ。ごめん(ハク)

「もう、こんな時ぐらいそのふわふわ頭をどうにかしたら?」

幼いころからの友人が小ぶりの耳をピコピコ動かして溜息を吐いた。

「紺、お前こそその憎まれ口をどうにかしたらどうだ?」

ふわふわの大きな尻尾を一振りして、長身の(サエ)が横からたしなめる。

「ふ、2人とも、喧嘩はだめだよぅ」

藍が慌てて2人の間に割って入る。

いつも下がり気味の眉をきゅっと寄せ幼馴染みを止める妹に、(シャオ)はくすくすと笑い声をこぼした。

「あ……おねぇちゃん」

「藍……」

言葉が続かないまま見上げる藍に、紫はかがんで手を差し出す。

「すぐ帰ってくる。だからそれまで、藍が預かってて?」

「っおねぇちゃん、これ……!」

「必ず、帰ってくるから。じゃ、もう行くね」

藍の手に握らせると、返事を待つことなく紫は翼を広げて飛び立った。

「気を付けてね、しぃ姉!」

「いってらー!」

碧と蒼が空を仰ぎ手を振る。

「絶対……絶対だから、待ってるから!」

それは、小さな花をあしらった、可愛らしい髪留めだった。






高く晴れた空の下、目を閉じて大きく深呼吸する。

清浄な空気が心地いい。

「べ~に~!」

朱衣(しゅい)

静かな空間に元気な声が響き、同時に背中に重みがのしかかる。

肩越しに振り返ると、自分に掃除を押し付けた少女の満面の笑みが広がった。

「えへ、そーじ、ありがとね」

左右に括った黒髪を揺らし、朱衣が礼を言う。

「で、どうだったの?」

「あー、『紅羽(あかば)殿によろしく』って言ってたよ?」

「朱衣……」

「……何?」

しらばっくれる朱衣に、紅羽が詰め寄る。

「そういうことじゃなくて。私が代わってあげたんだから、何も進展なかったなんて言わないわよね?」

「えー……それ聞く?」

「当然」

「馬に蹴られるよ」

「邪魔はしてません」

「ん~……」

朱衣がくるりと背を向ける。

「好き……っぽいことは言ってくれるけど、相変わらず、遠慮されてるって言うか」

困ったように笑い、朱衣は俯く。

「え~、緋炎(ひえん)も男らしくないなぁ。もっとガツンといかないと」

「ちょ、ちょっと!いいんだってば、私はあの方の傍にいられるだけで幸せなんだから……」

「そんなこと言ったって……」


「紅羽様!」


突然の声に振り返ると、祖母の側人が慌てた様子で立ち尽くしている。

「どうしたというのです?」

「大巫女様が」

「わかりました、すぐ行きます。……朱衣、あとよろしく」

ただごとならぬ空気に、朱衣も緊張の面持ちで頷く。

紅羽は祖母のいる奥社へと、速足に向かった。



「大巫女様?」

「紅羽か?そこへお座り」

社の戸を開けると、薄暗い祭壇の前に座る祖母の姿があった。

戸を閉め、静かに正座する。

「何か、良くないものが?」

「……そこの水晶を、覗いてごらんなさい」

祖母が指す祭壇の上に、薄紫色の水晶が鎮座している。

大巫女が占に使うためのものだ。

その水晶を覗くということは、紅羽が大巫女に就くことを意味する。

「おばあ様!」

「良いから、視るのです」

促され、そっと水晶へと近づく。

「……これはっ!」

そこに映ったものは、紅羽が見たものは。

「このままでは……世界が終わると、言うのですか……!?」







「おねぇちゃん!」

「おばあ様!」

叫んで飛び起きると、そこは玄関だった。

「新紅?」

「新藍?」

2人で顏を見合わせる。

何やら長い夢を見ていたような、そんな気がした。

「あれ、朝……?ちょっと新紅、どうなったんだっけ??」

立ち上がり、きょろきょろと辺りを見回す新藍。

しかしどこを見ても自宅で、窓からは柔らかな明かりが差し込み、雀の鳴き声がこだまする。

「映天と離空と別れて、帰宅して……それで?」

呆けたように座り込み、記憶を辿る新紅。

……罠?

誰かに嵌められたのだろうか。

しかし目的も、何をされたのかさえわからない。

「……とりあえず、警戒しておく必要がありそうね」

「うん……でもその前に」

「……その前に?」

「制服しわくちゃだから着替えよっか。急がないと、遅刻する」

新藍が指さした壁掛け時計は、既に8時を回ろうとしていた。

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