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砂漠の町ルフィルスタウン3

 その頃、裏通りへと走っていったトモはそのまま裏通りと表通りの境にある留置場へ向かった。

 留置場には先ほど捕まえたいかにも悪そうな男達と、銀髪の青年がいた。

「お手柄だったじゃないか、トモ」

「なんだ、もう来てたのか」

 ヘラっと笑って手を振る青年とは裏腹に、トモは渋い顔をして聞こえるように舌打ちを打つ。

「ずいぶんと手馴れてるから捕まえるのに苦労したな。……どうやって見つけたんだ?」

 青年は、そんなトモの様子を気にもせず笑顔でトモに話しかける。

「別に。たまたま現場で大声を出してくれたやつがいたんだよ」

「へぇ、旅人?」

「多分な。そろそろ交代の時間だ。無駄口叩いてないで見回りいってこいよ、ニード」

 青年、もといニードはもっといろいろ聞きたそうなそぶりを見せたがトモに睨まれしぶしぶ留置所を出る。トモはそれを確認し町の役人が到着するのをまった。

 男たちが喚く中、トモは助けた旅人の自分を見たときの表情を思い出していた。

 見慣れた、驚きの表情。人とは違う、異質の髪と瞳の色はトモのコンプレックスだった。鮮やかな緋色は、トモにとって孤独を感じさせる一要因でしかない。どんなに綺麗だといわれても、トモはこの色を好きにはなれなかった。

 あの旅人も、この髪と瞳の色を見て気味が悪いと思っただろうか。異質だと感じただろうか。

 自虐的な考えばかりが頭に浮かぶ。

 その間も男達は喚き続けていて、その声が妙に癇に障った。

 うるさいなぁ、と窓の外から空を見上げれば、三日月が輝いているのが見える。そういえば、あの旅人の名前を聞きそびれたと何故か少し悔しい思いを感じた。

「また、捕まえたんですか! いつもありがとうございます!」

 自分の世界に引きこもっていたトモを現実に引き戻したのは、役人の声だった。

 やってきた五人の役人は、男達を役場へと連れて行く。そして、彼らを審判に掛け罰を決め国の留置所に連れて行くのだ。

 手際よく連れて行かれるのをトモは無感情に見送った。

「いつもいつも、ありがとうございます。自警団ヴァンパイアのみなさんのおかげで本当に助かってるんですよ」

 男たちがいなくなった留置所で役人の一人が親しげに話しかける。トモは、適当に相づちを打つ。

 役人はその後も、形式ばったお礼を述べていたがトモはそれを聞き流した。

 しばらくしてその役人も出て行き、留置所にはトモ一人が残った。

 さっきまでとは打って変わった静寂に、ゆっくりとトモは息を吐き出した。

 こんなときは、自分は何故こんなところでこんなことをやっているのだろうかと、どうして自分は町を飛び出して、旅にでないのかと、時々思う。

 言い訳がましい理由なら腐るほどある。そして、決して無視できない胸のうずきも感じている。

 旅に出たい。

 いつからかその胸に芽生えた思いは、事あるごとにトモを途方もない思考の渦へと誘った。

 今日助けたあの旅人は、どんな思いで旅を始めたのだろう。探している奴にあったらどうするのだろう。

 誰もいない留置所で、トモは一人思考の渦に飲まれていきそうになる。仕方がないので、トモは自分がこの町に止まる理由と旅にでたい理由を考えることにした。いつも、答えが出ない考え事をするときに、トモが使う方法だった。

 自分の分かってること、知ってることを感情とはなるべく切り離して思い浮かべていく。

 この方法は最後には、自分がどうしたいのかにたどり着く。感情から切り離そうと考えれば考えるほど、知ってることとわかってることと感情がわかりやすく結びついてくれるのだった。

 知ってること、わかってること。

 ふいに、風が吹いた。

 留置所は、実質罪人の受け渡し所なので簡素なつくりになっている。当然、寒い砂漠の夜をここで過ごすには無理がある。

 トモは、考えることを止めて、裏通りにある我が家へと帰ることにした。

 どうせ、答えは出ないのだからと、何度もたどり着いた結論を無理やり飲み込んで。


「おかえり。おそかったね」

 トモが家に帰ると、留置所にいた青年、ニードが出迎えた。

「お前もやけに早いじゃないか。飯は?」

「オレはもう食べたけど、トモの分は残ってるよ」

「って、オレが作った昼飯の残りじゃねぇか」

 呆れたようにトモがニードを見やると、ニードは笑顔を返し、トモをさらに呆れさせる。

 それでもトモが、夕飯、もといトモが作った昼食の残りを温めている間にニードはアップルティーの用意を進めていた。きちんとタイミングを見て、トモが席につく頃にカップに注いでテーブルに置く。

 トモが黙々と食事を進めている間、ニードは何をするでもなくその様子を眺めていた。

 トモは、それを気にした様子もなくさほど時間をかけずに食事を全部平らげ、ちょうどよくさまったアップルティーに口をつける。

「ねぇ、トモが助けた旅人ってどんな人だったんだい?」

「ん、んー。なんか、変わってたやつだったなぁ。フードかぶってたし、顔わかんなかったし」

 そこまで言うと、トモの動きが止まる。

 ニードも、不思議そうな顔をして首をかしげる。

「なにか?」

「いや、なんでもない」

 そういって、トモは俯いた。自然と顔がこわばってくる。

 逃げてしまったけど、気持ち悪がられてるかもしれないけど、明日会いに行こう。話を聞こう。トモは、決心した。そんなトモを、ニードは不安そうな瞳で見つめた。まるで、籠の中から必死で逃げ出そうとする鳥を見つめるように。自分の手の中から逃げないで、とでも訴えるように。


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