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不思議な三人2

 真っ暗闇の世界の中にぼんやりと浮かぶのは、獅子に鷲の翼を生やし蛇の尻尾を生やした生物だけ。

 相も変わらず威圧的なその姿にユキは盛大に舌打ちをした。何も体調が悪い時に現れなくてもいいじゃないかと、こみ上げてくる思いが苦い。ユキは半ば睨むように、自らの契約主であるその生き物、クェルツェルを見つめた。

「生きたいか」

 聞き覚えのあるセリフと、声。

「生きたいよ」

 返した自分の声は二重に重なった。よく見れば、彼の視線は自分ではなく別の方向に向けられていた。視線の先をたどって見れば、そこには重傷を負った黒髪黒目の少女がうずくまっていた。

「あぁ……」

 思わず、ため息にも似た声が出た。なんて悪趣味な。

「あたしは生きなきゃ、母さんの頼みを叶えなきゃ、生きなきゃ……」

 少女が発するのと同時にユキは同じ言葉を呟く。

 助からないのは分かっていたのに、自分自身を呪うかのように呟き続ける生への想いにユキは不快感を募らせる。本当に悪趣味だ。これは”ユキ”が生まれた日の――クェルツェルと契約を結んだ日の――。

 そこまで認識したとたん、世界にノイズが混じり、視界が白くぼやけていく。世界が切り替わるその瞬間、クェルツェルがユキを見た気がした。


 無意識に閉じていた目を開くと、そこは街中でもなく、クェルツェルのいる空間でもなく、見慣れない部屋の天井だった。ユキはそのままゆっくりと息をはいた。そうすれば胸にいまだ残る不快感も取れるかと思ったが、余計重くのしかかってくるだけだった。

 夢なんて最近見ていなかったが、悪夢の後の目覚めはこんなにも悪いものだったかと思わず悪態をつきたくなるのをこらえて、ユキはベッドから起き上がった。ぐるりと見渡した部屋は、ベッドが六つ置かれそれぞれ三つずつに分けられる簡単な仕切りがあるだけのいかにも安い部屋だった。

 ユキが寝ているベッドは一番窓側にあり、隣に見慣れた荷物が置いてあった。向かい側のベッドにも見慣れない荷物が置かれている。

「ユキ、起きたか!」

 ドアが開けられると同時に部屋に入ってきたのはトモだった。手にお盆を持っていて、その上には深めの皿が乗っている。

 お盆をベッドとベッドの間に置かれた台にいささか乱暴に置くと、トモは真っ先にユキに具合を聞いてきた。

「大丈夫。今はもうなんとも無い」

 そうユキがトモに告げると、安心したようにトモは少し笑った。それが思いの他優しくて心配をかけたのだな、とユキは思った。それから、おぼんをそのまま渡される。皿の中には野菜と古いパンを入れたスープが入っていた。

「食え……てるな。その分だと本当に大丈夫そうだな。まぁ、極度の緊張からの開放から来た軽い貧血だろ」

 トモが問いかける前に、おいしそうな匂いにつられてユキはスープに口をつける。少し味が薄いが、それが優しい。食べながらこっそりトモを覗き見ると、すでに優しい表情は消え完全に呆れていた。少し惜しいことをしたかもしれない。

 ユキが全部食べ終わるのを待って、とは言ってもほとんど一瞬で皿を空にしたが、しかもおかわりを催促してトモにあきれを通り越して半ば冷ややかな目で見られたが、それからトモが話し始めた。

 ユキが眩暈を起こして倒れた後、トモはうなされるユキを背負って急いで宿を取ったそうだ。部屋は相部屋で同室者はおそらく男女の二人組みらしい。

「おそらく、同室者も魔術師だな。髪も目も黒じゃなかったし、髪の愛子ってわけでもなさそうだった。オレみたいな奴がそうゴロゴロいるわけでもなさそうだしな」

 刺して興味もなさそうにユキは相づちを打った。というか、すでにユキは眠気に襲われていてトモの話もろくに聞けない状態だった。

「眠いんだったら寝ておけ」

 そんなユキに気付いたトモがそう言ってくれたから、ユキはその言葉に甘えてもう一度布団に潜った。最後に頭をそっとなでられたからだろうか、ユキはまぶたの裏にかつての家族の姿を見た。

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