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不思議な三人1

ようやく二章です……!


 深く、心地よい弦楽器のメロディーに合わせ、中性的で透明な歌声が砂漠の小さな町に響いた。素朴なその歌声に人々は足を止め、用事も忘れてその幻想的で美しい情景に魅せられる。

 その情景を作り出しているのは、白い布を頭から被り、弦楽器を弾きながら歌を歌う少女とも少年とも分からぬ、なんとも不思議な雰囲気を帯びた若者。それから、一見少年見間違うほどにしっかりとした体つきと端正な顔立ちをした、少女と言うには少々大人びた踊り子の二人である。踊り子は緋色の髪を砂漠の日差しに輝かせて、体に纏った布をひらめかせて一心に踊る。歌う若者は聞きなれない曲を弾く。イレギュラーな二人の作り出す歌と舞の芸術は変わらぬ日常を送っていた町の人々に永遠を感じさせるような不思議な感覚を与えた。歌は町中に響きすべての空気を支配し、舞は歌につられ足を止めた人々を幻想的な世界へと誘う。

 一通りの曲が終わり、最後に踊り子が深々と頭を下げた時、人々は覚めた夢に一瞬何が起こったのか理解できなかった。静寂の中、ゆっくりと踊り子が頭を上げる。とたんに沸きあがる歓声。何も無い箱を踊り子が遠慮がちにまわすとその中にはすぐにお菓子やお金やらがたまっていった。

 それからまたしばらくして、人々が何時もの日常に完全に戻っていった頃、二人は全身の力を抜いて道端に座り込んだ。

「ね、トモ。上手く行ったでしょー?」

 伸びをしながら、歌を歌っていた若者が、緋色の髪と瞳をした踊り子に話しかける。

「そうだな、ユキ。これで当分の路銀は確保できたか」

 首を左右に曲げ、関節を鳴らしながら踊り子は箱の中一杯につめられたお菓子やお金の類を見る。

 若者と踊り子、もといユキとトモがルフィルスタウンを出てから十と数回の夜が開けた。当然、持っていたお金はだんだんと減っていき、この町のひとつ前の町に着いたときにはすでに随分財布も軽くなっていた。そこで、ユキの考えた案は、歌と舞を見せお金をもらう旅芸人としての旅の仕方であった。ユキは自分の歌声や演奏技術にいくらかの自信があり、自警団として体を鍛えてきたトモの身軽さからして舞もできるだろうと見込んでのことだった。

 そしてその成果は箱一杯につめられた戦利品が示していた。

「残り少ない金を使って楽器と衣装を買ってきたときは本気で再起不能にしてやろうかと思ったけどな」

 周囲を片付けながら、ふと溢されたその一言にユキは苦笑する他なかった。

 ユキは思い立ったが吉日と言わんばかりにトモに相談もせず楽器と衣装を最後のお金で買い、危うくトモに買ったばかりの楽器で殴られそうになり、何とかトモを説得し、その場を凌いだのだった。見事に成功しお金がたまったから良いものの、この案が成功しなかったらとふと思い立ってユキは身震いする。笑顔で楽器を振り回すトモはトラウマになりそうなほどに怖かった。

 その恐怖を振り払おうとユキは片付けに没頭することにした。

 楽器を片付けている途中で、ユキはふと、自分とトモをじっと見つめる少年の存在に気付いた。演奏を終わらせた自分達に目もくれず行き交う人々の中で、一人佇むその少年は異様な空気を纏っており、まるで世界の流れからはじき出されているかのようであった。

 町のざわめきの中で彼の周りだけが静寂を保っていてユキは思わずまじまじと少年を見つめる。砂漠の埃っぽい風に、透き通る水を思わせる水色の髪をなびかせ、そこの見えない深い翡翠色の瞳に穏やかな光をともして少年はユキに向かって微笑を浮かべた。

 不思議な少年だとユキは思った。いや、ユキだけでなくトモも同じようなことを思ったようで、トモの眉間には皺が寄り、緋色の瞳は訝しげにその少年を映す。しかし、それは不思議に思うというよりは訝しげに思うといったほうが近い気もした。

 すっと目を細めトモは作業に戻ったが、さりげなく少年の様子を伺っていることをユキは感じた。相変わらず少年はニコニコと笑いながらユキたちのことを見ている。

 少年が気にはなったが、トモはもうほとんど片付け終わっていたためユキは急いで立ち上がった。

 その瞬間にユキはめまいに襲われた。吐き気を伴いながらフェードアウトしていく意識の中、トモの自分を呼ぶ声と踵を返して人混みの中に紛れ込んでいく少年の姿が強く残った。

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