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砂漠の町ルフィルスタウン13

 その日もルフィルスタウンはにぎわっていた。本通りに並ぶ屋台には、様々なものが売られている。ルフィルスタウンは砂漠の最南東にある町だ。東には森が、南には湖がある。人々は、森の奥や湖の向こうには世界の果てがあると言って決してその向こうには行こうとしなかったが、果物や魚を採って食べたり、売ったりしながら生活していた。砂漠の町で数少ない自然に恵まれた町というのもルフィルスタウンを賑わせる一因である。

 そんなルフィルスタウンの人ごみの中、人々に挨拶をしながらトモは目を凝らしていた。本通りは一番広い道だが一番混む道でもある。人混みに紛れてスリが多発するのだ。

 そして、トモは見つけた。


 焼き魚を売っている屋台でユキは朝食代わりに焼き魚を買い、齧りついた。程よい塩気がおいしい。ふと、人混みに目をやれば目だった緋色の髪が見えた。ユキは声をかけようとして、逆に言葉を失った。

 トモが、誰かから財布を盗っていたのだ。

 慣れたようにトモはそのまま人混みの中に紛れた。盗られた相手が誰だかは分からなかったが、ユキはとにかくトモを探す。正直、ユキはショックだった。裏通りの人間といっても自警団をやっていて真っ直ぐに生きてる人だと思っていたのにと裏切られた思いでいっぱいになっていく。

 しばらく人混みの中を彷徨っていると財布がないという女性の叫び声が聞こえた。果物を売っている屋台の前だ。ユキは急いでそこに向かった。その女性の近くにトモが見えたのだ。

「トモ、財布を返すんだ」

 必死で人の流れを書き分けて、ようやくトモの方を後ろからつかんでユキは言った。ユキの言葉に女性は顔を真っ赤にしてトモを睨みつける。

「何の話だ、ユキ」

 特に驚いた様子もなく、トモは冷静にそう答えたがそれが逆にユキは癪に障った。

「とぼけるな! 僕は見たんだよ、君が誰かから財布を盗る姿を」

 つかみ掛かるようにして叫ぶユキを見て、女性がいよいよヒステリックに私の財布を返してとトモに向かって叫び始める。それでも、迷惑そうに顔をしかめるだけのトモに、ユキは怒りと、トモに裏切られたという悲しみや憎しみを憶えた。

 何も言わないままのトモに、ついに女性が殴りかかろうとしたとき、今まで見ていただけの果物屋の店主が口を開いた。

「アンタのポケットに入っているのは財布じゃないのかい?」

 ユキや、さわぎが気になっていつの間にか集まっていたギャラリーたちは一斉に店主が指差したものを見た。女性のポケットに入っている財布である。

「それはアンタのだろう? その子はこの町を守る仕事をしているんだ。あんたの財布を盗るなんてありえないねぇ」

 のんびりと果物屋の店主は女性に言った。ポケットの中の財布に気付いたその女性は怒りで赤くした顔を今度は羞恥で赤くして、トモに必死で謝り始めた。

 そんな女性に対して、ここは人が多いし財布が見当たらなかったら盗られたと思っても無理はない、それより本当に盗られてなくて良かった、気をつけて、よい旅を、と言ったトモを見てもユキの怒りは収まらなかった。

「でも、僕は見た。君は財布を盗ったじゃないか」

 思わずこぼれたユキの不満げな呟きに、果物屋の店主とトモは顔を見合わせた。

「その子はトモの知り合いかい?」

「まー、一応」

「そうかい。鋭い子だねぇ」

 ユキを置いて会話する二人にユキはなんだか納得がいかなくて、でも僕は見た、ともう一度呟く。果物屋の店主はそんなユキの様子を見て豪快に笑い出し、トモはいかにも面倒だといわんばかりの表情をする。それが今度は妙に悔しくて、フードの隙間から二人を睨んだ。

「そんな怖い顔をしなさんな。笑って悪かったよ。そうだね、お詫びに果物でも驕ってあげよう。トモ、果物でも食べながら、その子に説明してあげたらどうだい」

 そういって店主は果物を二つトモに渡した。そのうち一つをトモはユキに投げ、ユキは反射的にそれを受け取った。

「結論から言えば、まぁオレは財布を盗ったことになるな」

 果物をかじりながら涼しい裏通り近くに座ってトモは悪びれた様子もなく言った。そんなトモの態度に、ユキはますます、もやもやしたどす黒い気持ちを自分のムネの中に感じた。それが表情に出ていたのだろう。トモはユキのフードに隠れた顔を見てにやりと笑った。そして、続ける。

「が、オレが盗った相手は一般人じゃない。一般人から財布を盗った盗人から盗り返したんだよ」

「は?」

 ユキは、さっきまでのどす黒い気持ちを忘れて、思わず聞き返してしまった。

「だから、町の奴や旅人から財布を盗んだ奴や盗む現場をまず見つける。次にその盗人からオレがこっそり財布を盗み返す。そんで、財布の持ち主が分かるならさっきみたいにこっそり返す。分からなかったら役所に届ける。それが俺の主な仕事。あとは、その盗人を他の自警団の奴に報告して後はそいつを逮捕ってわけだな」

 完璧に真の抜けた顔になったユキを見て、トモはとうとう笑い出した。ユキは、トモが悪者だと思い込んでいたのでその事実を理解するのに時間がかかる。トモの笑い声に我に帰り、トモの言葉を一気に理解したとたん顔を真っ赤にして羞恥から声を上げた。それを見てさらにトモが笑うものだから、ユキは堪ったものじゃなかった。

 そして、ユキはある事実に思い当たった。

「それって……それって……」

 しかし、先ほどからの羞恥で声が震えて言葉にならない。それでも、トモはその言葉の続きが分かったので意地の悪い笑みを浮かべてとどめを刺した。

「あぁ、思いっきり仕事の邪魔してくれたな」

 耐え切れず、ユキは頭を抱えて本格的に叫んだ。

「うっわ、僕恥ずかしい! 超恥ずかしい! 何かごめん。凄くごめん」

「いや、お前のしたことは本来なら正しい行いだ。この街が少しばかり特殊なんだ」

 ルフィルスの自警団ヴァンパイアの活動はメンバーのほとんどが裏通りの住民であるということから少しばかり特殊だ。みんな、町を守りたいという一心から活動しているのだが、如何せん前科持ちや顔が怖すぎたり体中が傷だらけだったりと表立って行動するには問題がありすぎた。故に表にはほとんど出ず、裏からルフィルスタウンを守る。その活動を町の人以外が気付くというのは本当にまれなケースなのだ。表裏一体の町、ルフィルスタウンの奥深さをユキは垣間見た気がした。

「ま、ルフィルスの裏通りの奴全員が無害なわけじゃねぇし、自警団やつらだって決してカタギじゃねぇし、他の町をオレは知らんが安全ではないな」

 本通りを歩きながらトモはユキに少し自警団と裏通りと表通りについて説明していた。ついでということでトモがユキの観光案内役を買って出たのだ。町の話をするとき、トモは本当に楽しそうでその言葉の一つ一つから町への愛情がユキに伝わる。そのことをトモに言えば、トモは笑って此処がオレの帰る場所だからと答えたのがユキは妙に印象的だった。

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