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砂漠の町ルフィルスタウン12

「そこまで驚かれるとは思ってなかったな」

 久しぶりに、一緒に朝食をとるトモとニード。想像以上のリアクションが見れたのでトモは上機嫌だ。

「だって、初めてだったんだもん」

 コーヒーをすすりながら、いまだ信じられないといった様子でニードは呟いた。しかし、トモの晴れやかな笑顔に気付くと優しく微笑む。ニード本人は無自覚だろうそれは、兄として、トモの唯一残った家族として染み付いたものなのかもしれない。

 ニードが望むのは、昔も今も、トモという妹の幸せのみなのだから。

「その様子だと、気持ちの整理が付いたようだね」

 ニードの言葉に、トモがうなずく。

「ニードはさ、ここにいて、お帰りって言ってくれるんだろう?」

 昨日とは打って変わって、いつもの余裕のある笑顔でトモは笑った。ニードももちろんうなずいた。

「なら、問題ないよな」

「そうだね。そうかもしれないね」

 トモは旅立つことを選んだ。それは、帰る場所があるが故の選択だ。トモは初めて、ニードを兄として信頼したのかもしれない。旅立っても、ここで待っていてくれるという安心感が、トモの心の中でくすぶっていた自由の風を解き放った。それほどまでに、この兄妹の絆は強い。血ではなく、一緒にすごし、支えあってきた時間が作り上げた強固たる絆を二人は持っている。

「今なら、父さんの気持ちがわかる気がするんだ」

 トモが、不意にそう言った。

「父さんはさ、オレ達がここでお帰りって言って迎えてくれるって信じてたから命を張ったんだろうな。死ぬつもりも、町を守るつもりもなかったんだろうさ。行ってきますって父さんが逝ったあの日、行ってらっしゃい、帰ってきてねって俺らが言ったから父さんは、命張ったんだよな」

 ニードの目を見て、確信を持ってトモは言い切った。トモの中で、イサクの死はずっと疑問だった。いくら領主が悪政をしていたとしても、命を張れるものなのかと。

 領主と対峙しようと、家を出たあの日、どうしてあんなに堂々としていられたのだろうかと。

 一部の人々は、イサクが起こした反乱と思い込んでいるが、実際はヴァンパイアのメンバーがイサクを焚きつけて起こしたもので、最初はイサクも談判で済ますつもりだった。しかし、メンバーの一人がイサクの制止の声を振り切って領主に手を上げ殺されてしまう。それに憤った他のメンバーが一斉に領主に襲い掛かり、領主を殺してしまう。イサクは必死で止めようとしたが、たまりにたまった怒りの矛先が変わることも、止まることもなかった。そのおかげで、ルフィルスタウンは今までどおりの生活を続けることができるのだが、罪という名の傷跡が残った。

 町のものには、イサクが領主を殺したと伝えたが、ニードとトモだけには真実が伝えられた。イサクは、悲劇を止めようとしたにもかかわらず、すべての責任を取って処刑されたのだ。

 それは、事が終わった時にイサクが望んだこと。イサクが領主を殺したことにして、メンバーの死刑だけは食い止めようと罪を被った。トモとニードがヴァンパイアのトップとして動いているのも、それをメンバーが全力で支えているのもそういった背景がある。

 そして、トモはずっとずっと疑問だったのだ。どうして、罪を被って死ぬことを選んだのかと。

 それが、今、トモは分かったような気がした。

「みんな、同じなんだな。帰る場所があるから、守ろうとしたんだ。帰る場所を守ろうとしてるんだ。イサクも、帰る場所を守るために命を張ったんだな」

 死んだとしても、イサクの帰る場所はトモとニードが待つルフィルスタウンだったから、それをなんとしても守りたかったんだと、トモはそんな気がした。

「オレも、帰る場所があるから行ける。父さんが守ってくれたこの場所があるから、オレはオレとして生きていける。オレさ、ずっとここにいちゃいけない気がするんだ。旅立って初めて、帰る場所ができる気がするんだ」

「なら、行ってらっしゃい」

 ずっと黙ってトモの話を聞いていたニードが、口を開いた。

「おれはここで待っていてあげるから。気がむいたら、帰ってらっしゃい」

「おう。ありがとう」

 トモがようやく搾り出した声は、涙を堪えているようにかすれていた。それでも、トモの顔は笑っていた。

 見回りに行って来る、と久しぶりに笑顔で家を出たトモをニードはいつものように見送っる。三人で住んでいた家が、二人で住む家になり、今度は一人で帰りを待つ家になってしまう。自分以外に誰もいない家をぐるりと見渡して、ニードはその静かな空間に目を閉じた。

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