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つきうさぎ

作者: notomo


 「月には、うさぎさんが住んでいて、おもちをついているんだよ」

 るるちゃんは、ウサギさんが大好きな小学三年生。もちろん、学校でも飼育係をして、大好きなウサギさんのお世話をしています。

 「望月、またいってるー」

 「月には、生き物がいないって、証明されてるんだよ」

 クラスのみんなはるるちゃんの言うことを馬鹿にしますが、そんなことはおかまいなしです。

 るるちゃんは、お勉強も、運動も苦手なので、よく男の子たちからからかわれるのです。お洋服も、うさぎもようの、小さすぎるTシャツで、みんな、そのことでもよくるるちゃんをからかいました。

「おまえのいえ、ママいないのかよ。毎日、おんなじ服じゃんかー」

「運動会も、参観日も、誰も来ないもんね」

 るるちゃんは、下を向いてしまいます。確かに、学校の行事に、ママが来ることはありません。パパも、お酒を飲むのに急がしくて、来られないのです。

「ママ、ママは、月にいるんだもん」

 るるちゃんは、小さな声で言います。

 「また、月かよー俺のママが言ってたぜ、望月のパパが、仕事しないから、ママが出て行ったってー」

 「うちのママも、るるちゃんのお家は汚いから、遊びにいっちゃだめだって」

 るるちゃんは、学校があまり好きではありません。でも、朝と夕方、大好きなうさぎさんのお世話ができることと、給食だけが楽しみでした。

 お家に帰っても、パパはいたりいなかったりです。たとえ、お家にいても、お酒臭くて、るるちゃんはあまりパパが好きではありません。でも、お酒を飲んでいないときのパパはすごく優しくて、

「るるはかわいい、ずっと俺のそばにいてくれよ」

 と言って、やさしく、膝に乗せてくれたりするのです。パパに優しくしてもらうと、昨日、お酒を飲んで暴れて、るるちゃんを蹴ったパパは、偽物だったような気がしてくるのです。

「きっと、優しいパパが本当のパパなんだ」

 るるちゃんは、信じています。ママが月にいることを教えてくれたのも、優しいパパでした。

 「るる、ママは、月で、僕たちを見てくれてるんだよ。うさぎさんと、幸せに暮らしてるって。だから、寂しくても、月を見れば、いつもママに会えるから」

 だから、偽物のパパが暴れたときや、パパが何日もお家に帰らなくて、くらいお家がさみしくてたまらないとき、るるちゃんはこっそり学校の飼育小屋に泊まることがありました。うさぎさんは、るるちゃんにキャベツや人参を喜んで分けてくれましたし、そこからは、ちょうど、お月様が特別きれいに見えるのです。ママと、うさぎさんがいれば、るるちゃんは、暗い夜も、へっちゃらでした。

 るるちゃんのお世話しているうさぎさんのお腹が、大きくなり始めました。

 「病気になっちゃったのかな?」

 心配になったるるちゃんは、先生に相談に行きました。先生は、

 「赤ちゃんが生まれるのよ。望月さん、うさぎが大好きですものね。楽しみね、しっかり、うさぎさんをまもってあげてね」

 るるちゃんは、うれしくてたまりません。毎日、今まで以上に、一生懸命に、お世話をしました。うさぎさんは、はずかしがりやなのですが、るるちゃんのことは大好きでした。なかなかクラスのみんなとはうまくおしゃべりできないるるちゃんも、うさぎさんになら、何でも話せたのです。心が通じ合っているお友達を守るために、強くなるんだと、るるちゃんは決意しました。

 いつも通り、お家から返ってくると、ひどいお酒のにおいです。また、偽物のパパがやってきているのが、すぐに分かりました。今までは、おびえていただけのるるちゃんでしたが、今は違います。

 「偽物がいるから、本当のパパが帰ってこない。今日こそ、偽物をやっつけてやる」

 るるちゃんは、台所にあった包丁をさっとつかみました。偽物は、お酒を飲んで、何やらわめいているので、気がつきません。そろそろと、近づいていきます。

「グサリッ」

 るるちゃんは、偽物の背中を、思いっきりさしました。でも、小さな女の子の力です。偽物は、倒れるどころか、るるちゃんに向かってきました。

 「いてえ、なにしやがる、くそガキ。あばずれの娘は、やっぱりとんでもねえことをしやがる。親をさすなんてなあ」

「にせものめ、わたしはあばずれの子供なんかじゃない、ママの子よ。本当のパパを返してよ!」

「なに分けわかんねえこと言いやがる、おめえのママは、よその男と逃げたんだよ、おめえのママが、あばずれなんだ」

 るるちゃんは、わけがわからなくなりました。

「ママは、月にいるんじゃないの?ううん、偽物が言ってることになんか、だまされないもん」

 るるちゃんは、考えているうちに、包丁を手から落としてしまいました。それを、偽物に拾われてしまったのです

「おめえみたいな、あばずれの分身は、いらねえんだよ!」

 るるちゃんは、背中がひどくあついような感覚を覚えました。自分の背中を触ってみると、手が真っ赤に染まりました。

 るるちゃんは、よろよろと、おうちをでました。

 「ざまあみろ」

 という、偽者の声が、後ろで聞こえていましたが、るるちゃんの耳には、届きませんでした。ただ、強くなれなかった自分が悔しくて、情けなくって、飛び出してしまったのです。背中は、相変わらず、すごくあついし、るるちゃんは、無意識に、学校の、あの場所へと向かっていました。

 途中、何度も倒れましたが、なんとか、学校につくことができました。校門の下をいつものようにくぐって、到着です。

 「カチャリ」

 持っていた鍵で、うさぎさんのところへ行きます。でも、きょうのうさぎさんは、なんだかいつもと違います。るるちゃんに、お話をしてくれるのです。

 「いつも、おいしいご飯をありがとう。」

 「きれいにお掃除してくれるから、安心して赤ちゃんが産めるわ」

「ぼくたちみんな、るるちゃんが大好き!」

「でも、あたし、弱いの。偽物だって、やっつけられない、お勉強もできないし、だめな子だよ」

「ぼくらは、るるちゃんのやさしいところ、いっぱい知ってるよ。ここのみんな、そんなるるちゃんのことが一番大好きなんだよ」

 るるちゃんは、うれしくてたまらなくなりました。背中の痛みも、ひいていきます。

 「月にいる僕らの仲間が、るるちゃんと暮らしたいんだって」

 「もうすぐ、お迎えにくるよ。もちろん、君のママも一緒にね」

 ちょうどその日は、満月でした。月から、きれいなきれいな光が降ってきて、るるちゃんを包み込みます。光のむこうでは、うさぎさんと、写真でみた通りの優しい笑顔のママが、手を振っています。るるやんは、うさぎさんに手を取られて、光と一緒に、月へと上っていきました。

 翌日、学校にやってきた校長先生が、うさぎ小屋のまえで、冷たくなっているるるちゃんを見つけました。るるちゃんのお顔は、とってもやすらかで、わずかに差し込まれた手が、お母さんうさぎのお腹を、優しくなでているようでした。

                 おわり


 私自身、親が怖くて、駅や公園に泊まることがありました。るるちゃんのようなこどもが、一人でも多く幸せになりますように。大人が、子供を守る、そんな社会がやってきますように。

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