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異世界と性犯罪者が嫌いです。〜ざまあごときじゃ済まさない〜  作者: 小村ユキチ
ゴブリン

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6/17

5

 凪のあとに続き森(よく見ると竹林のようだ)に近づいていく。テツジはこっそり、まだ後ろを歩いているうららを振り返った。


「ありがとうございました」

「え?」

「付き添ってくれてて、助かりました」


 うららは少しびっくりしたように目を開いていたが、やがてぎこちなく微笑んで、なにか曖昧な返事をしようとした。だがそれは彼が足元の死体につまずいたために中断される。


「おっと……」


 ゴブリンに犯されながら死んだ奴隷のむくろだった。伸び放題の無精髭を生やした丸裸の男で、テツジが子供の頃に好きだったお笑い芸人にどことなく似た顔をしている。

 近くに歩いてきたケンタウロスの一体が、その死体の脚を引っ張り馬の背に載せた。そのケンタウロスの顔も、中学校の頃世話になった体育の先生によく似ていた。


 疲れた目でうららやクロエの背を追っていた馬男の目が、不意にテツジと向き合う。


 哀れな表情だった。


 男の肌は血と垢で汚れ、憔悴しきっており、ハァハァと何度も荒く呼吸をしている。肋の浮いた体や骨ばかりの腕とは対照的な馬の下半身は、しかしよく見ればぶす黒く変色しているものの人間の肌と筋肉で構成されており、蹄の代わりに爪が割れた人間の素足がそのまま露出している。なまじ上半身が普通の日本人なのが不気味でグロテスクな印象を更に強めていた。


 男は何かを訴えかけるようにしばらくテツジを見ていたものの、やがて恥じ入ったかのごとく目を伏せ、また息を切らせて死体の回収を始めた。


(おじさんだ……普通の)


「どれだけ疲れてようが、奴隷は『命令』があればどこまでも勤勉に仕事をこなす」


 凪の声。


「相手が人間なら、とんでもなく残酷な魔法だよ」


 湧いていたアドレナリンが、すでに半分くらい減らされた気がした。


 密集する竹林の前に立ち、凪は足を止める。新月機関の4人がまだかなり離れたところで立ち止まったのでテツジも自然とならった。


 凪が左手をかざすと、横で這いずっていた『反省部隊』の一人が慌てたように立ち上がって、よろよろと彼に近づいた。もしかしたらテツジより年下かもしれないくらい若い男で、小汚い尻と脇からドクドクと黒い血が流れ落ちている。


「あ……うあ……ま、待ってくれ、待ってください……」


 体を差し出すような仕草とは裏腹に、ガラガラの声で男は嘆く。


「おれ、おれはってない、犯ってない犯ってない犯ってないよぉ……」

「へえ……れてねえって言いてえのか?」


 凪の声は洞窟から響くように低かった。


「そ、そうですそうです! 俺はレイプまでしてない!! こ、ここ、こんなことされるほど、ひ、ひど……」

「こんなこと?」


 凪は男を見る。


「じゃあ、てめえが犯そうとしたその相手は、()()()()()してそんな目にあったんだ?」


 男は当然、答えられなかった。ガクガクと顎を震わせ、腕を掴む凪の手を猿のように凝視している。


「バチが自分に帰ってきて、思ったよりも痛いから、それでようやく公平さに頼るとは随分と都合の良い頭だ。俺が理不尽だと? そうさ、俺はお前らと同じくらい理不尽だ。だがそれでも()()()()()を跨いだのはお前らだろう。人がなぜその一線を越えないのか知ってるか?」


 凪の傷まみれの腕が、紫色に妖しく光る。


「ひ、ひぃ……や……」

「その線越えた奴はなぁ……何されても文句言う権利がぇんだよ!!」


 グチャッと、突然、男の体がねじれるように潰れた。


 ミチミチと湿気をはらんだ音を上げながら、脚の骨が剥き出しになり、刃の形に変形していく。筋肉が支えのように絡みつき、腕が持ち手になって、男はあっという間に巨大な斧かナタのようになった。

 死んだとテツジは思ったが、刃の下に冗談のように居残っていた人間の頭は未だ「いだいいだいいだいいだだだだだだっ!!」とムンクの絵画のような表情で叫び続けている。


 奴隷の『改造』魔法。


 テツジは息を呑んだ。


「俺は、てめえらが大嫌いだッ!!」


 男の唸りすらさえぎるほどの大音声だいおんじょうで、凪が吠える。


「てめえらは苦しめば苦しむほど正しい! ()()()()楽に殺してたまるか!!」


 吠えながら、片手でブンブンとナタになった男を振り回す。竹藪が次々切り払われ、その都度男の口から血反吐と悲鳴ですらない悍ましい声が上がった。


「ただ犯されて殺されるッ!! そうやって死んだ人がこの世にいるッ!! ならお前ら性犯罪者なぞ痴漢から死罪で十分だッ!! 苦しんで死ね! 後悔して死ね!! お前らがここに丈夫な体で転生した、これがその意味だ!! 永く苦しみ痛みで死ねッ!!」


 流石に見ていられず、テツジは目線を逸らした。


(メチャクチャだ……言ってることも、やってることも)


 転生者とは確かに丈夫なものなのだろう。よく見渡して見ると、死体だと思っていた男たちは、ケンタウロスの背中に担がれているのも含めて呼吸をしているものがそれなりにいるようだった。


 バキンと、致命的な音がした。


 恐る恐る視線を戻すと、直角にひしゃげたナタを、凪が森の中に放り投げたところだった。

 また、一人死んだ。


「……次」


 凪の呼び声に、また哀れな奴隷が悲鳴と嗚咽を上げながら近づいていく。


「や、やめてくれ!! 俺にはむ、息子が……」

「子ども作るまで人間のフリができた自分を恨むんだな」


 一切の慈悲なく、ミチミチと、男の体がナタに変形していく。


 悲鳴。


 カラスの鳴き声。


「たまんねえなあ……ハハッ、マジ、ざまあッッ!!!」

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