4
これまでの銃声とは比べ物にはならないくらい暴力的な、列車の衝突事故のような凶悪な音響が空気を震動させ、彼の耳にキーィ……イ……ンンと甲高い余韻を残した。
狼の前脚で弾が爆ぜ、関節から先が吹き飛ぶ。
同時に一人の『柵』の体が、一発でで、頭からザクロのように真っ二つに裂けた。
そのまま二発、三発……六発。
一発ごとに大砲のように大気が揺れ、狼の肉片が飛び散り、柵を構成する男の体も一発につき一人ずつ果物のように弾け飛んだ。
あっという間だった。
かつて巨大な狼だった肉塊が、地面に散らばった。
「…………臓より……命を弾に……威力も上がる」
麻痺したテツジの耳に、少しずつ凪の声が浸透してくる。銃口から立ち上る硝煙から焦げた匂いが漂う。凪は銃をおろし、おもむろに振り返って彼の肩に手を置いた。
「終わりだ。簡単なもんだろ。できの悪いゲームの攻略なんてこんなもんさ」
ゲーム。
まさにそれだとテツジは思った。きっと本来は限られた数しか撃てない想定のチート銃を、いくら死んでもいい奴隷を大量に用意して、挙げ句肉壁や囮として利用しつつ、遠距離から一方的に撃ち続けて、ダンジョン内のモンスターを外から処理する……。
まさしくこの出来損ないの異世界にふさわしい、古いゲームのように身も蓋もない攻略法だった。
*
ほどなく魔物の殲滅は完了した。残党に向けて凪とリタは銃を撃ち続け、クロエともう一人、まだ名前の知らない新月機関のメンバーは弓を使って的確にゴブリンたちを射抜いていた。うららも手元に身長くらいの大きさの弓を携えているあたり参戦する予定だったらしいが、彼女はずっとテツジを心配そうに見守っていた。それくらい凪たちにとってはいつも通りの、大したことのない戦場だったのだろう。
昨日まで平凡な日本人であったテツジにとっては、それでも十分すぎるほどに凄惨な血の池地獄だった。
どこもかしこも血まみれだった。人も魔物も通う血の色は同じらしく、空が青いように草原は赤く染まっている。生き残っていた人間の『ケンタウロス』たちがカラスを追い払いながら人と魔物の死体を拾い上げて、コブだらけの自分の背に乗せている。
雌の家畜から採取した悪臭は相変わらず辺りにもうもう立ち込めていて、一瞬だけ降ったにわか雨のムッと来る湿気が、血と肉の匂いを気化したスープの中に撹拌していた。風がそれを何度も顔に叩きつけてきた。
この30分足らずで何人死んだのだろう。
そんな地獄絵図を冷静に眺められている、そんな自分がテツジには信じられなかった。
最初の「吐き」が想像以上に効いたのか、あるいは死んでいる人間がみな間違いなく悪人であるという情報の影響も大きかったのか……。自分が何かしたわけでもないのに、どこからかあふれる危うい高揚感が、彼の理性を正気と狂気の狭間で奇跡的に繋ぎ止めていた。
「……どうするテツジ。ここで待ってるか?」
クロエに渡された革袋から水を飲んでいたテツジに、凪が後ろから声をかけてきた。
「え?」
「今から俺たちは魔物が沸く穴を塞ぎに森の中に行くが……休んでるか?」
「いえ、行きます」
アドレナリンがそう答えた。
「そうか」
凪は左手を顎に当て、笑ったような引きつったような、表情になり損ねた不思議な色を顔に浮かべた。
「じゃあ少しだけ覚悟しておいてくれ。こっからちょっと、〝画〟が汚いんでな」
「……はい」
「ムカデって、わかるか?」
「ムカデ? 虫ですか?」
「いや……まあ、大した話じゃないさ」




