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異世界と性犯罪者が嫌いです。〜ざまあごときじゃ済まさない〜  作者: 小村ユキチ
工船

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23/31

6

「ああ、なるほどな」


 テツジの言葉に、凪は両手を軽く広げて答えた。


「流石、現実的だ。確かにそいつは俺のせいで起きてる問題だ。正確に言えば足りないのは牧草地だな。おかげで羊や牛はいるんだが数を増やせてない。魔物がいつ現れるかわからん以上、使える土地は農地に変えているが実を言うとゴツゴツと岩ばかりであんま向いていないし、真水も不足してる。蟹で節約してるとはいえ奴隷の飯に俺が無駄な備蓄を消費してるのは本当だ」

「干拓地を作る手はあるかもしれません」


 ぽかんと、凪の口が開いたまま止まる。


「かん……何って?」

「しばらく見て回りましたが、この辺りの地形、湾が多いです。土地の確保としては一考の余地があるんじゃないかと思いました。使われていない船を解体すれば水汲み用の風車だってつくれるかもしれません」

「OK……ちょっと待てくれなインテリボーイ」広げていた腕を組んだ。「まずは高卒大工崩れの俺に干拓地の説明からだ。全くイメージわかないほど知らないわけじゃないが……」

「簡単に言えば、海や湖を水抜きして陸地にしたものです。海ならあらかじめ水門を作って、引き潮を待って門を閉じて作るのが一般的ですね」

「ほう」

「ぶっちゃけダイレクトな環境破壊なので、この世界の乏しい生態系に更にダメージを与えてしまう不安はあるんですが、少なくとも検討する価値はあると思います。危険を伴う作業も、この世界には、奴隷がいるなら……」

「テツジお前……協力してくれるのか?」

「もちろん協力はしますよ」


 テツジは答える。


「だって、どうせ僕ら、元の世界には帰れないんでしょ?」


 凪の表情が、初めて曇った。今まで見たことがないくらいわかりやすい変化だった。顔に手を当てて大きくため息を付き、沈んだ眼差しを彼に向ける。


「……本当にすまない」感傷的な声だった。「探してはいるんだが、正直、取り付く島もないってのが現状だ」

「凪さんが謝ることじゃないです。僕を呼んだのが凪さんなら、宝珠の数が合わないんでしょう?」

「ああ……そうだな」

「あなたは、この世界の英雄です。成し遂げたことは本当に偉大です。『方法はともかく』なんて言葉で倫理観を誤魔化す気もしません。凪さんがいなければみんな死んでいたんです」

「……それでも、すまん」


 気持ちを汲んで、軽く頭を下げた。


「すげえやつだな、お前」


 凪は寂しそうにも見える表情で微笑んだ。


「凪さんほどじゃ絶対ないです」テツジは答える。「ちなみに偉そうに干拓がどうとかぬかしてますが、僕の知識は大学のゼミで研究対象にしたオランダの歴史がほぼ全てです。こんなことならもっと土木の方を勉強すべきでしたね」

「それでも死ぬほど助かるさ」

「あと……さっきの復讐の話なんですけど」

「おう」

「相手が痴漢と強姦殺人とでは、流石に色々と話が違うんですが」

「ああ、そりゃそうだ」


 凪は吹き出した。


「確かに、聞くタイミングがズルかったな。すまん」


 ビリっと、近くで何かが破れる音がした。中年男の髪がちんころがしに毟り取られ、毛が付いた頭皮がこちらの足元に投げ捨てられた。凪は器用につま先でそれを掬って蹴り返す。


「流石に上に戻るか?」

「……そうですね」





「口だけであなたをここにいる性犯罪者と同じ生き物だと言うのはとても簡単です」


 階段を上りながら、テツジは凪とそう話した。


「神様がいるんならそう云うんでしょう。居てこれだけレイパーがいるなら、神様はきっとそういう性格です。そして僕が元の世界で学んだ道徳と倫理はその神様と同じものです。あなたはただの暴力的な犯罪者であることは間違いありません」

「おう」

「でも、そんなどうでもいい話をしたってしょうがないですよ。人を犯して殺す魔物がうろついていて、ご飯が足りてない状況で、最善かどうかはわかんないですけど少なくとも次善以上ではある行動を続けてるあなたに僕が何をグチグチ言うことがあるんですか。僕だってこの世界で少しかマシな生活がしたいです」

「次善か。面白いこと言うな」

「あなたは……この世界の状況と性犯罪者をはかりにかけて、性犯罪者千人の命を奪ってこの世界に『快適さ』をもたらすことを良しとした。その善悪のバランスが『完璧か否か』とか、そんなの後で考えます」

「そうか」


 会話はこれくらいだった。何もかも正直に話した訳では無い。テツジが凪に対し小なりとも性犯罪者たちへの扱いに意見するつもりがない理由は、本当にもっと単純なものだった。


 端的に言って保身である。


 この世界には、顔が見えている性犯罪の被害者が多すぎる。新月機関という元性奴隷の女性たちの献身に支えられているこの世界で、日の丸印の正義を信じて凪の行為を糾弾なんて、シンプルに怖くてできるわけがない。それくらいの不正義に悩むほどテツジは青くもなかった。

 ズルくても良い。

 どうせ帰れないのだ。

 凪もテツジもうららも……ここにいる、性犯罪者たちも。

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