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異世界と性犯罪者が嫌いです。〜ざまあごときじゃ済まさない〜  作者: 小村ユキチ
工船

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3

 凪の神殿『センター』の前に、巨大な人影が立っている。赤黒い肌の色はケンタウロスたちの下半身に似ているが酷く貧相だ。大きさは10mほどだろうか。奇妙なことに首だけが異様に長く、その上に乗っている頭は不自然に小さい。センターを支えに立ち上がろうとして失敗すると同時に片足がへし折れ、不快な歯ぎしりを響かせていた。


「……なにか、わかる?」


 いちおうだが、テツジはうららに聞いた。


「わからないですけど、多分、また凪さんが何か作ったんだとは思います」


 彼女の声は冷静だった。


「見に行きますか?」

「うん……行きましょうか」

「はい」



 重ねていちおうだが、小走りでセンターへ向かった。


「こういうこと、何度かありました?」

「大きいものを作ろうとしていたのは初めてじゃないです。いつもうまくいかなくて、いっぱい死なせてましたけど……」


 会話はこれだけだった。


 辿り着いたセンターの入口(崩れたままで、乾いた竜の血の痕がまだ残っている)の石段に、凪が座っていた。いつも通り汚れた皮エプロンを着ていて、ブツブツと何事かを呟いている。


 くだんの巨人はすでに立っていられず地面に転がっていて、寄りかかられた若木が哀れな角度でしなっていた。唸りもやんでいたが、風は少し強くなっている。巨人は近くで見るとなおのこと貧相だったが、それでも一匹の生き物としては破格のサイズである。どうやって作ったのか想像もつかない。


「凪さん?」


 うららが最初に声をかけた。


「ん? ああ、すまん。そりゃ見に来ちまうわな。心配はない」


 答えた凪はどこか上の空だった。


「これは……なんですか?」


 テツジは大雑把にそう質問した。他に聞き方もなかっただろう。

 凪は自分の左手をじっと見つめながら答える。


「魔物の作り方がわかった」

「え?」

「口で説明できるものじゃないんだが……色々やってるうちに、掴んだ・やっぱりゴブリンも大蜥蜴レプタイルもボスも、この改造魔法で創られたものってことだろう」

「……魔物は元は人間って話ですか?」

「それはピンとこないんだよな」


 呟きながら凪は腕を組んだ。


「この仕組みなら、どちらかというと動物を改造したと考えた方が自然な感覚がある。奴隷魔法は人以外にゃ効果がねえはずだが、逆に言えばそれさえ解決できれば……いや、生き物の知性次第なのか? 犬や猫ならあるいは……うーん…………」

「……今、話しかけないほうがいいですか?」

「ん?」


 ようやく凪はこちらを向いた。


「ああ、いや、そんなことはない。コミュ障で悪いな。二人一緒だったか」


 にやりと笑うが、その頬には手術中に飛び散っていたのであろう血と膿の汚れがべっとりこびりついている。


「あの、私、新月のみんなに説明に行きます。心配いらないならないって伝えてこようかなって」


 うららが言った。凪はまっすぐ彼女を見つめる。


「……そうか。じゃあ、頼む。ありがとう」

「はい」


 うららは頷いた後にテツジを見て何か言おうとしたが、結局頭だけ下げて、小走りで町の方へ戻っていってしまった。


 しばらく凪と二人で見送った。


「何を作ってたんですか」


 テツジは改めて訊いた。


「というか、こいつも改造した奴隷ってことでいいんですよね?」

「おう」


 凪は立ち上がって遠くを見つめる。目線の先には緑に包まれた丘陵があって、その先に古いRPGのようにわざとらしく城の残骸が放置された山がかすかに見えた。


「作っていたのは歩く監視塔だ。この島の奥はまだまだ森が深いし魔物もうろついていて調査が進んでいない。どっかにダンジョンがあるのは確実なんだが……最近、妙な魔物の死体がいくつか見つかっててな」

「妙ですか」

「俺たちが殺していない死体だ。どの死体も獣みてえな噛み跡がある。共喰いや仲間割れのたぐいだとは思うが、んなの人にとっても危ねえだろ?」

「それは確かに、気になりますね」

「調査に行くのに『高い視点』があると便利だとドラゴンを見て思ったわけだが、別に飛べなくても目ん玉の標高が高いだけでも価値があるからな」

「魔物の作り方がわかったというのは?」

「人体の接着と変形だけじゃない、遺伝子レベルでの書き換えができるようになった。形状だけではなく機能ごと人外に変えられる。おかげでわざわざ共食いさせなくても、この巨人みたいに、死体を直接接着させてサイズを増やせる目処めどが立った。今までは血液型があわないと直接二体をくっつけるのは無理だったからな。作業を見るか」

「はい」

「そうか」


 凪の大きな手がかすかに光る。奴隷の男たちが駆け出して、倒れた巨人を若木からズルリと引きずり落とした。巨人は動かない。


「こいつは……死んでるんですか?」

「まだ生きてるが、そもそも貧血だ。長くはない。さっきはその解決策を考えてた」


 奴隷たちがノコを使って、まだ生きていた巨人の解体を始める。ビクンビクンと痩せた体が震えて泡を吹いたが、未だ凪の奴隷である巨人は抵抗せず、最後の力を振り絞って懸命に声を絞っている。噴き出す血の量は確かに少ないが、そのせいで引きちぎられていく肉の断面がハムのように生々しかった。


 この一週間で、こんなショッキングな映像にも見慣れてしまったものである。


「うららとは仲良くできてるか?」


 不意だった。

 出し抜けに凪が、そんなことを聞いてきた。テツジは振り返って凪の顔を見つめる。質問自体は自然だったが、声からいつもの調子とは少し違うものを感じられた。顔は相変わらず傷まみれなこともあって表情は読み取れない。


「さっき、元の世界の思い出話をしてました」


 彼は答えた。


「なによりだ。もしかして邪魔しちまったか?」

「うららちゃんは、僕と仲良くしたいんでしょうか」

「あ?」

「いや、すいません。そうですよね、元の世界の人間なんですから当たり前か」

「それもそうだが……」


 凪は片目を吊り上げる。


「お前、鏡見たことないとか言わねえよな?」

「僕、イケメンですか?」

「殴るぞ」

「凪さんだってイケメンだと思いますが。背も高いですし」

「ズタボロのスクラップじゃねえか。もとがポルシェでも関係ねえわ」

「うららちゃんの見た目は……ちょっと、ずば抜けてますね」

「ああ」

「多分、日本一可愛い女の子、ってことなんですよね」

「……その指定で呼び出されたって話なら、ちょっと違うな」


 凪は目を細めた。


「指定は多分……日本一可愛い〝処女〟だ」


 グラッと頭に来るものを感じて、テツジは一瞬目を閉じた。


(なるほど、だから14歳で……)


「わかるよ。気持ち悪いなんてもんじゃねえよな」


 凪はそう言うとセンターを振り返り、中へ歩き出す。


「また、ちょっとだが性犯罪者を呼び出す。調査のためにもう少しケンタウロスの頭数が欲しい。召喚も見ていくか?」

「……はい」


 テツジは再び頷いた。


 新たに召喚されることになる男が何者かがわかっていれば、きっと少しは躊躇できていたことだろう。

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