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異世界と性犯罪者が嫌いです。〜ざまあごときじゃ済まさない〜  作者: 小村ユキチ
工船

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18/24

1

  被害者以外、加害者を恨んでないって思ってんだろ?

  教えてやる

  正常な人間が、お前らにどうなって欲しいのかを





 凪の奴隷たちは人権など完全に無視された扱いを受けているわけであるが、当然人間というか生き物なので食事がなければ動けない。彼らの寿命は基本は1年ほど(罪が軽いほど短い)であるらしいが、それでもその1年を食料源の限られたこの世界で採れた何かを食べて生きているということになる。まずテツジはそれが気になった。

 ろくな方法で解決しているはずがないことは調べる前からわかっていたが、それでもあらゆる判断を「知った後で」と丸投げしている以上追求は避けて通れない。

 これは、テツジが一週間ほどをかけて把握した奴隷たちの生活の概要を簡単にまとめたものである。



*凪工船*



 奴隷たちは、基本は全員が『屑籠』に収容されていた。農地を拡大する昼シフト組と警戒が主な仕事な夜シフト組に分けられているが、共通して彼らの食事は一日に一回、それもまともなパンなどではなく、水で無理やり麦や芋カスを練り合わせたような吐くほど不味いパンもどきがほとんどだった。便は何日も出なくて当たり前、海水で雑に洗われた肌と腰巻きにはダニやシラミが無数に巣食っている。病気にならないほうがおかしい環境だが、それでも彼らは転生者ゆえ非常に頑丈で、休日など一切なしの奴隷労働に()()耐えていた。

 だがそれでもやはりパン一片ひときれではまだ動かない。


 彼らの仕事の一つに、「蟹漁」というものがあった。いつ沈んでもおかしくない、大きさだけが取り柄のボロ船とイカダで海に漕ぎ出して蟹を取るのであるが、この蟹というのが、凪が海に投棄した死体を餌にして繁殖してしまったものだという。

 凪はそれらを奴隷に食わせることを考えた。

 晴れた日に奴隷(改造で体に網を埋め込まれている)に海を潜らせ、蟹の群れを見つけたら自らを生き餌に底まで沈み、引き揚げる。一度で50や100の蟹が当たり前に採れた。そうやって死体を循環させれば無駄がなかった。奴隷の肉を食って太った蟹なので町の住人たちは食べたがらないと、そう凪は言いながら雑に蒸した蟹をグシャグシャ頬張っていた。味は悪いらしい。


「凪さんって……浅川って名字でしたよね」

「イカにもだろ。カニだけどな」


 くだらない会話だが、仕方なく笑ってしまった。


 こういう強制労働をさせられている者の大半はレイパーだった。おぞましい話だが、ようするに全ての生きている日本人の中から「人生で一度でもその罪を犯した者」を(大変困ったことに)法的に裁かれたかどうか問わず集めているがゆえに〝十分な〟数が揃ってしまうようだった。

 中には痴漢や盗撮など比較的軽犯罪の男たちも混ざっていた。だが凪の辞書に軽めの罰などない。半世紀前の罪かつ司法で裁かれた老人もいたがそれも関係ない。彼らは一年以内に蟹の餌になるか凪の弾になるかして死ぬのである。テツジとしても「痴漢が罪状でこれは流石に……」と思ったので、時々何人かの奴隷に話を聞いてみたりもしたのだが、そのことごとくが同情する気を無くすような、人として悪質な犯罪者ばかりだったのには辟易へきえきした。凪の言っていた通り、彼らは本当に口を揃えて「仕方ない」とのたまった。現世ならもう少し人の皮を取りつくろえていたのだろうが、奴隷契約で正直を強いられると一人余さずそのざまだった。


「あんただって本当はやりてえんでしょ」

「犯してないだけマシじゃねえですか!」

「女の方が悪いんです! 凪の旦那にそう言ってくださいよ、俺は悪くねえ……」


 不自然な敬語(そう話すのも命令されているらしい)で彼らは一人残らず言い訳をした。女が悪いと言った男は50近い男で、相手は未成年である。凪は呼び出す人を「日本人の性犯罪者」以外に指定していないらしいが、全体的には悪質な人間が優先されているのかもしれないし、そもそもそういう人間だから性犯罪を犯すということなのかもしれない。


 ともかくはこの蟹のおかげで、この世界の人々の資源をできるだけ食いつぶさない奴隷の大量運用が叶っているのは確かだった。そうなれば次に気になったのは、彼らの存在が生み出す「リスク」についてである。

 早い話、どこかで凪が死んでしまった場合、この世界には奴隷魔法を使える大量の性犯罪者たちが野放しで放置されることになる。


「確かに、最初の一年、俺は絶対に死ねなかった」


 奴隷を改造しながら凪は語った。


「今は対策済みだ。新月機関が胸を切り落とさなきゃいけなかった理由を覚えてるな?」

「……奴隷の心臓に改造でもしているんですか?」

「お前ってホント頭いいよな」


 そう言って凪は手についた血をエプロンで適当に拭った。


「その通りだ。こいつらは全員、肺と心臓に腫瘍を植え付けてある。俺が死んだらこいつらも自由を取り戻す前に臓器が腐り落ちて死ぬだろう」

「自由?」

「あのゴミ……クソ勇者を殺したあとも、クロエたちはしばらく命令されていたルーチンから抜け出せなかった。長く魔法にかけられていた人ほど時間がかかった。治療目的でもなきゃ人に使っていい魔法じゃねえんだよ、これは」


 話しながら凪は慣れた手つきで奴隷の腹を切り開き、腸に何かを埋め込む改造をしていた。腹筋が閉じないよう腕を突っ込んで支えているのは被験者本人である。

 竜という未知の魔物が出現したことで凪はケンタウロスやムカデに続く新たな『改造個体』の必要性を感じたらしく、常習的な強姦魔や児童への強制猥褻のような重罪を犯した男たちを使ってひどく残酷な実験を試み続けていた。

 例えば、聖職者として極めて〝悪質〟だったというその男は自身の左腕を自らの口で食い尽くさせられた挙げ句、そこに人皮で作られたコウモリの翼のようなものを無理やり縫い付けられていた。気絶するたび他の奴隷に焼きごてを当てられ、悲鳴とともに覚醒し、泡と血に塗れた口で自らの右の指から爪と肉を引き剥がしていた。凪曰く、飛べるようになるとは思っていないが一応試してみているとのこと。


 他にも手足の生えた巨大弩砲バリスタと化している者や、風船のように腹を膨らませられた多臓器ストック等……。


 彼らは全員、改造を受けている間、狂ったような悲鳴を上げ続けていた。信じられないくらい痛そうだった。同情できない強姦魔が世にも恐ろしい苦痛を受けている、その様を見ているとテツジは自分の倫理観が混乱していくのを感じた。凪が彼らをいかに拷問し苦しめているかを深堀りしていくことに果たして意味があるのか。


 命題がHow much(どれくらい)ならば、結論はとうに出ているだろう。


 改造され人ならざる者へと変えられていく重犯罪者に比べれば、屑籠で暮らす奴隷たちはまだ穏やかな死を迎えつつある半亡者である。だが凪はたまたま目についたとか、そういうちょっとしたきっかけで躊躇なく彼らも改造手術に組み込んでいた。「罰が足りないのは許さないが、過剰な分にはなんの問題もない」これは凪の行動の基本原則である。


 もう一つ、些事といえば些事だが、語れることがある。


 そもそもだが性犯罪者という人種は、平均的な人間と比べ性欲が強すぎた人種というわけではなくとも、少ないということはあり得ない集団である。そんな種馬たちが強制的に女から遠ざけられ、自慰行為も全く許されていないまま何日も何ヶ月も過ぎていけば、行き着く先は当然夢精である。事実、それは毎日のことだった。何百人も男が集まっているのだから、夜ごと必ず誰かは夢精をして、それがまた屑籠を不潔な空間としていた。

 しかし凪は、彼らがそんな射精から一抹の快楽を得ることすら許してはいなかった。すなわち、ペニスの改造である。去勢ではない。あくまで機能は残したまま、射精そのものが尋常でなく痛いものになるよう、凪はわざわざ全員に改造を施していた。


 屑籠の中は昼も夜も悲鳴に満ちていた。


「ざまあみろだ、鬼畜気取りの愚図どもが……蟹の餌にする程度では済まさねえ。何もかも千切り取ってやる。お前らが少しでも早く死ねたらその都度舌打ちをしよう。せいぜい長く苦しめ。そうなることをどれだけ望まれているか、この世でキッチリ思い知らせてやるよ……」


 うわ言のように呪詛を吐き続ける彼に、奴隷たちは心底怯えていた。いつ気まぐれに殺されるかわからないまま、肉体の限界を超えるまで体を酷使され、気力も体力も絞り尽くされた挙げ句それでも半身に付きまとう性欲に苛まれ続ける……。


 それがこの世界の奴隷の一生である。




 

 数日の間に、テツジは以上のようなことを知った。とても不愉快な視察作業だったが、その三分の一くらいにうららがついて来ていた。流石に屑籠の中だけは絶対に入ろうとしなかったが……。

 彼女との清涼剤のような会話も、いくらか記憶しておく必要があるだろう。

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