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着地まで時間がかかった。
うららを抱いたままテツジは、段差下まで落下するみたいに飛び込んだ。全身に強い衝撃が走る。相当痛かったが、それでもなんとか体を起こした。
センターの壁に、竜が首を突っ込んでいた。翼の先端が凪とうららの目と鼻の先にまで迫っている。その血まみれの嘴から、銃を握った凪の真っ赤な右腕が覗いていた。
「な、凪さ……っ!」
テツジはまた叫ぼうとした。
やにわに紫色の光が、竜に辛うじてぶら下がっていた5人ほどの奴隷の体から迸った。
男たちの悲鳴。
奴隷の体が、変わる。どう変わったのかははっきり見えなかったが、とにかくその肉体がまるで吸い込まれるように竜の鱗に強引に喰い込んだ。
ブチッと、巨大な膿が潰れたみたいに湿気った音。
テツジとうららの眼の前から、翼が消えた。透明な神の手が雑巾を絞っているように竜の体が無理にねじられ、耳を聾する咆哮が響き渡る。
開いた竜の口。
動いた凪の右腕。
すかさず銃声が3発。
血。
赤。
赫。
竜の首の肉が弾け飛び、最後は凪に片手で、引きちぎられた。凄まじい量の血が辺りを一瞬で朱に染める。
痙攣する竜の亡骸から、真っ赤な凪が現れた。目元だけを拭い、死骸を踏みつけながらテツジたちの方を見る。
「無事か!」
大きいが冷静な声。
「二人とも無事です!」
うららが答えた。無意識に彼女の体を抱きしめたままなことに気がついたテツジは慌てて腕を離す。
凪は竜の体に片足をかけ、空を見上げていた。もう一匹のドラゴンは空でずっと旋回していたが、途中で向きを変え、山の方へと飛んでいく。逃げるようだ。
(やっぱりあの竜には知性が……)
「耳をふさげ」
聞いたことのある気がする凪の言葉。
またしても間に合わなかった手のひら。
爆音が数発。
空気の波紋が竜の背後をかすめ通り過ぎ、そして……。
翼が付け根で弾けて、千切れた。
血と遠鳴りの咆哮を撒き散らしながらも美しい螺旋を描き、巨体が墜落していく。白い霧の軌跡を残しながら、わずかに地面を震わせ、ソレは木立の間に墜ちた。
当てた。
(まじ……?)
「……撃ってみるもんだな」
しばらくして耳が戻って、うららと一緒に恐る恐る凪に近づいたテツジが最初に聞いた言葉がそれだった。シャツが破けあらわになった肉体、その傷口から黒い煙が噴き出して、ハンダ付けのように痕を塞ぎ結合させているのが見える。
まるで怪物だった。
テツジは、竜が落ちた先を見た。遠くの平地にケンタウロスたちが群がり、瀕死で這いずっていた竜を槍のようなもので何度も突き刺している。
タタッと軽やかな足音を鳴らして、リタが戻ってきた。彼女は多少の息切れしている程度で怪我一つない。
「良し! なんとかなった!」
彼女は意外に爽やかな笑顔で、テツジを小突く。
「やるじゃんイケメン、見直したよ。昨日のザマじゃ全然ダメだと思ってたわ」
「まったくだ」血まみれの凪が竜の首を蹴り飛ばす。「昨日のことがどうとかじゃなくて、今日はテツジのおかげって話な。いい機転だ。助かったぜ」
テツジは、竜の体に巻き付けられている奴隷たちの体を見ていた。血と泥に塗れやはり良くは見えなかったが、恐らく骨がトゲのように変形し竜に突き刺さっているのだろう。どの奴隷も頭か背中が半分に裂け、脳漿と歯が混じった液体が不潔に鱗の上を流れている。つまり凪は彼らの命を〝弾〟にして、最後に空飛ぶ二匹目を撃ち抜いたということ。
生臭い血と内臓の匂いが風に乗ってやってくる。
「……よく当てるね、あんなの」リタが呟く。
「サイズがわかればな」
喋りながら、凪は竜の死骸を振り返った。弾にしそびれたのか翼の付け根に食い込んだ奴隷が一人まだ生きているようで、鼻に溜まった血をゴポゴポと鳴らしながら絶えかけの息を紡いでいた。
「よお、セクハラ教師」
凪が低い声で呟きながら、その男の頭を銃で小突く。
「苦しそうだな」
「だ……だずけ……で…………」
「誰が助けるか。せっかく苦しんでるのに、もったいねえ」
テツジは、尾の方に寄生した別の奴隷の死体を見ていた。目玉の抜けた半面と黒い髪が残った頭皮が、赤い鱗からドロリと地面に這い落ちる。
先ほどテツジとうららの前で本音を吐かされた男だった。
「テツジさん?」
うららの手が、昨日と同じようにテツジの背に触れる。
「あの、大丈夫で……」
耐えきれず地面に手をついた彼が吐ったことも、まるまんま昨日と同じ有り様だったろう。




