プロローグ
性犯罪が嫌いだった。
ただの暴力よりも、不完全な社会の隙間を無理やり接着している数多の理不尽よりも、手前に〝性〟とついたその存在が何より嫌いだった。
性犯罪者は純然たるゴミだ。
奴らは決して反省などしない。そんな機能を持っている心であれば、その一線は絶対に超えないはずの一線なのだ。
それがわからなかったのなら、反省も謝罪も、どうせ全ては自分のため。
ならば償いは苦痛と死をもって代替する他ない。
ハッキリそう信じていた彼にとって、この不愉快な異世界への転移はもはや使命と呼べるほどに待ち焦がれたものだったと言えるだろう。
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彼が転移した時点ですでに、その世界は終わりかけていた。人里として想定されていた大地は森に侵食され、それも美しい自然などでは決してなく、失敗したエコシステムさながらに名も知れぬ虫やゴキブリが這い回る不潔な繁殖力が田畑を蝕んでいた。どこからも嫌な匂いがした。
何よりも恐るべきは、ゴブリンを始めとする生態系外の魔物たちだった。その緑がかった薄茶色の猿は、おそらくは古典的なダークファンタジーあるいは非家庭用ゲームのように人間の女を襲う下等魔族として〝デザイン〟されたのであろう。しかし人間の雌だけを選んで犯すような不可思議な生態など獲得できるはずもなく、それは人だろうが牛だろうが猫だろうが豚だろうが雌の匂いを嗅げば等しく発情し、挙げ句に力の加減もできず殺しながら犯すだけの不毛な汚物でしかなかった。
何もかも失敗していた。ベータ版ですらない試作品の異世界。ダンジョンのつもりで穴をうがった地形は崩落して『宝箱』への道を失い、中央の『魔王城』は明らかに屋根もない作りかけで放棄されている。それなのにどういうわけかその土地には文化と言語を持った人間が取り残されていて、冷たい風が吹く海岸で、乏しい食べ物を頼りにガチガチと歯を鳴らしていた。
この世界を救わなければならない。
魔物を全滅させなければならない。
そのために男は考えた。転生者として与えられた膂力と魔力、そして説明もなく手に宿していた『人を意のまま奴隷にする』という安直で不快な能力を似て、この詰みを打破する方法を。
答えは呆れるほど単純だった。
相手が汚物なら、こちらも汚物を召喚すれば良い。
反省などどうせしない性犯罪者を、
人権に値しない下等生物を、
人に似た猿を、
彼が何よりも憎む性犯罪者を元の世界から呼び寄せられるだけ呼び寄せて、全員奴隷にして殺し合わせればさぞ愉しいだろうと。
浅川凪という一匹の転生者は、子どものように純粋にそう考えた。




