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AIR ACE  作者: 静水映
PHASE1
2/20

『season3トーナメント』準々決勝 ①

 仮想の観客ロビーには多くのアバターが溢れ返っていた。


――さて、トーナメントも中盤。観客の数も増えて盛り上がってきましたね!

――はい。半年の締め括りですからねえ。シーズンを通してレースを見てきた人たちにとって、これは見逃がせない戦いですよ。


 実況者たちの声が反響する観客席の正面には、スクリーンが映す青海が一面に広がっている。


――時刻は16時回りました。それでは予定通り、『AIR ACE』シーズン3トーナメント、準々決勝第1試合(ヒート・ワン)を開始します。これが対戦カードです!


 スクリーンに2つのプレイヤーアバターと、彼らの乗るプロペラ機が表示される。

 瞬間、観戦するアバターたちの期待と興奮が、文字(コメント)となって画面を埋め尽くす。


――先行。『ホークBC』搭乗機体『エッジ540V3カスタム』!


 黒い羽根と青い瞳を持った鳥人型のアバターがクローズアップされる。

 レーススーツと機体も黒と深い青で統一されており、纏まった容姿が戦績を伴うことで貫禄を作っている。


――後攻。『スカイウルフ』搭乗機体同じく『エッジ540V3カスタム』!


続いて、銀の毛並みを持った獣人型のアバターがクローズアップされた。レーススーツと機体は赤が中心。機体全体に牙や毛並みを連想さえる銀の装飾が施され、主翼では狼のマスコットが獰猛な笑みを浮かべている。


――準々決勝初戦から、現在シリーズポイント、トップタイ『ホークBC』の登場に会場は沢山のコメントで埋め尽くされています!

――はい。優勝候補筆頭と言って間違いないでしょう。加えて、対戦相手の『スカイウルフ』も非常に攻撃的なフライトで、一部ではカルト的な人気を誇るプレイヤーですからねえ。


 実況者たち共々、観客ロビーが盛り上がる一方で、大会参加者たちは冷静にこの対戦カード発表を見つめていた。



          ▲   ▼   ▲   ▼   ▲



「まあ、順当に行けばホークの勝ちだろうな」


 巨漢の猫型アバター『モッツァ』は、試合前で緊張感の溢れるロビーに一石を投じた。

 その小さな部屋は準々決勝に残った選ばれたプレイヤーだけが入れる、高級感溢れる内装の観戦用のロビーだ。ロビー内には初戦に出るホークとスカイウルフを除く、6名の準々決勝進出者たちが各々のアバターをくつろがせている。


「いや、俺はスカイウルフに一票だな」


 まず、ゴーグルを掛けた青髪の人型アバター『ドルフィン』がモッツァの言葉に反応した。


「相変わらず逆張りが好きだな」


 呆れるモッツァに対して、ドルフィンは原色の青いジュースを片手に笑みを浮かべる。


「別に根拠なしで言ってるわけじゃないぜ」


「ほう」


 モッツァは興味深そうに頷き、ドルフィンがタイピングを終えるまで待った。


「シーズンフィナーレでいくら優勝ポイントが高いとはいえ、ホークはこの時点で東京大会への進出が決まってる。それに比べて、スカイウルフは最低でも準決勝に残らなきゃ東京には行けない。試合に対するモチベーションの高さはスカイウルフが圧倒的に上だ。その証拠に、ベスト16でスカイウルフは『ユキト』に続く2位、ホーク相手に後攻を取れてる」


「なるほど」


「確かに、スカイウルフの無茶は上手く嵌った時が怖い」


 蝙蝠の羽と目に傷を持った色白の人型アバターを持つ『<bat>』(バットと読むらしい)は、ドルフィンの予想を聞いて表情を変えずに同意した。


「どうかな? さっきの試合、スカイウルフはバーティカルターンでオーバーG判定に救われている。ホークのプレッシャーを前にして、無謀なフライトが上手くいくとは思えない」


 一方で、くたびれたような犬の獣人型アバター『ジン172』はその意見に否定的だ。

 残る2人のアバターは放置されているのか、会話に参加する気がないのか、意見を言わなかった。


 その片方、中性的な純白の兎型獣人アバター・ユキトは、正面のスクリーンに映るスカイウルフのアバターを睨むような目付きでじっと見つめていた。



          ▲   ▼   ▲   ▼   ▲



――さて、準々決勝は『地中海』レベル4コースのタイムトライアルとなります。


 ホークの搭乗する黒いエッジが雲一つない空を飛行する。


 目前では青海に並ぶいくつものパイロン(空気で膨らむ巨大なカラーコーン)が、まっさらな水上に複雑なレーストラックを作り上げていた。


――選手はまず、スタートゲートを通りトラックを一周。その後、再びスタートゲートを通過した後にターンを行って逆向きにコースを1周。2周の合計タイムを競います。パイロンへの接触等の違反行為で2秒のペナルティ、スタート時の速度にも規定があります――。


――スモークオン! もう、準備は出来てますよ。


黒いエッジが青のスモークを焚き、空中に軌跡が描かれ始める。


――では、予定通り1605を持ってタイムアタックを開始します。


 ホークは二つのチェック柄のパイロン(スタートゲート)に向けて、機体をぐんぐんと加速させていく。

 瞬く間に、速度は時速300キロを超える。

――それでは『AIRACE』――。


 そして、速度が規定ギリギリまで到達したとき、機体はスタートゲートを水平に通過した。


――フルスロット!


 掛け声と同時にスタートゲートの花火が弾ける。

 スタートから数秒も立たないうちに、最初の関門である3連パイロン(シケイン)が見える。


「3、2、1」


 ホークは薬指でリズムを刻み、数百メートル手前から巧みに操縦桿を微調整し、テンポよくパイロンを交互に通過する。


――完璧な機体操作だ! パイロンを無駄なく通過していくゥ。


――いえ、これくらいは上位ランカーなら出来て当然ですよ。問題はこの次の難所ですよ。


 実況が盛り上がる最中にも、ホークは機体を大きく旋回させ、機体を水平にして次のゲートを通過した。

 すると、数百メートル先に右手と左手に2つの赤いゲートが見える。


――現実のレースでは廃止されたナイフエッジゲート。機体を垂直にして、二つのパイロンの間を通らなければなりません。――しかも、立て続けに二つ!


――タイム差を出すならここですね。


 ホークは神経を研ぎ澄ませ、操縦桿に力を込め、ラダーペダルを踏んだ。

 黒いエッジはまず右手のゲートに、このまま進めば左翼が接触するというライン取りで飛行する。

 左翼がパイロンに接触する2分の1秒前、ホークは操縦桿を切り返した。

 操縦桿を一瞬傾けるだけで、機体は即座に水面に対して垂直になるまで傾いた。

 操縦席頭上の窓ガラス、その僅か一メートル先を赤いパイロンが通過する。


 ゲート通過後、ホークは操縦桿を少しだけ戻し、機首を上げ、姿勢を保ったまま急旋回して2つ目のナイフエッジゲートを目指す。中央右手にあるGメーターが上昇するのが見える。

 ホークは極限の集中力を保ったまま、再び接触ギリギリのコースでパイロンにダイブする。

 実況者さえも言葉を失う中、機体は無事に2つ目のゲートを通過した。


――き、決まったああああ!! 準々決勝という大舞台で、コース最大の難関を最速ラップで通過したぁぁ!》


――……これは、タイムを見るまでもありませんでしたね。この時点では、同コースの歴代ベストに届く勢いですよ。


 観戦ロビーに観客の称賛コメントが溢れた。

 ホークは興奮を抑え、次のゲートを通過し、空中に浮かぶリングに向かった。


――ゲーム限定の障害エアリング。通過したら、ターンをしてコースを逆行します。


 ホークは操縦桿を後ろに引いて機体を上昇させ、空中に浮かぶエアリングを通過した。

 そして、そのまま機体を180度の宙返り(バーティカルターン)を成功させ、コースの逆走を始める。


(……まだだ。勝負はここからだ)


 ホークは機体を反転させる一瞬、気持ちを切り替えて後半戦に挑んだ。

 ホークの操縦桿捌きは依然として鋭く、逆方向のナイフエッジも難なく制した。

 行きよりも速いテンポで、最後のシケインを突破して、そのままゴールゲート通過する。


――タイムは1分11秒40! 対戦相手のスカイウルフどころか、この準々決勝でこのタイムを越えられる者は現れるのか?


――圧巻の操縦でしたねえ。これは……後攻にはプレッシャーですね。どこで追い抜けばいいのか私にはまるで見当もつきませんよ。


 ホークは観客に対するサービスとして、ゴール通過後に機体を2回転させ、止まない喝采を背に地中海の空へと消えていった。


          ▲   ▼   ▲   ▼   ▲



「流石ホーク。俺は信じてたぜ……」


 特別観戦ロビーのドルフィンはホークの圧倒的パフォーマンスを前に、引きつった笑みを浮かべた。


「予想が外れたな」


 モッツァ自身もこの展開が意外だったのか、呆気にとられた表情をしている。


「逆に消化試合だからこそ、思い切ったレース展開を出来たのかもしれない」


「ホークがそんな奴だったら、苦労はしないな」


「それな」


 バットの考察をモッツァとドルフィンが仲良く否定した。

 一方で、ジンは他の仲間から離れ、隅で寡黙に観戦を続けるサングラスを掛けた女性のリス型獣人『クリスティナ』に話し掛けた。


「クリスはどう思いますか? ホークのプレイヤー」


 ジンが話し掛けると、クリスティナはジンのアバターの方に向き直って微笑みかけた。


「彼がストイックで有能なプレイヤーであることは間違いない。でも――」


 クリスティナはそう言いながらスクリーンに向き直る。


「試合は終わってない。なにも、今のフライトに感化されたのはギャラリーだけじゃない」


 クリスティナの言葉に、一人スクリーンの前に立つユキトは内心で頷いた。


(そうだ。ホークの対戦相手はあのスカイウルフ……)


 ユキトは1カ月前の試合、会心のベストタイムを超越した赤い機体を思い出して、拳を握りしめた。


(あいつなら、きっとこの状況でも諦めない)


 スクリーン中央、観客がホークのフライトの余韻から抜け出せない中、地中海の青い空を切り裂くようにして赤い機体が現れる。

 主翼に描かれた銀の狼が、スクリーン越しに不敵な笑みを向けていた。

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