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プロローグ「祈りの残響(のこりおと)」第1話

──これは、祈りを代償に戦う少女の物語。


妹が遺した祈装──零号機《ARISA》。

唯一それを起動できるのは、姉である彼女だけ。


だがその力は、記憶を喰らい、感情を削っていく。

戦えば戦うほど、自分自身が“誰か”だった記憶さえも遠のいていく。


そして彼女は知らない。

その“祈り”の果てに、妹との最後の約束が待っていることを──。


祈りと喪失が交錯する、滅びの美学系バトルSF──

《祈装零号機 -シキガミコード:ARISA-》

ここに開幕です。



 世界は、砕けた。

 かつて高層ビルが立ち並び、人の喧騒が溢れていたこの場所は、今や広大な荒野と化していた。

地表は罅割れ、剥き出しの岩肌が、無残に抉られた地面から突き出している。

陽光は焼けるような熱を帯び、空気は砂埃と硝煙の匂いを纏い、微かに残る風音だけが虚しく響いていた。

そこかしこに散らばるのは、原型を留めない機械の残骸。

それは、かつて人間が築き上げた文明の、そして祈りの、無残な末路だった。――《祈りの残骸》。

そう呼ばれる瓦礫の山々は、まるで墓標のようにそびえ立っていた。


 その荒れ果てた景色の中に、銀の装束に身を包んだ少女がひとり、静かに立っていた。


 神咲アルネ。


 彼女の身を覆う純白の祈装は、荒涼とした風景の中で、まるでそこだけが時間を止めたかのように神聖な輝きを放っていた。

しかし、その表面を注意深く見れば、無数の細い亀裂が走っているのがわかる。

それは、幾多の戦いを潜り抜けてきた証であり、修復機構によって塞がれつつも、完全に消えることのない傷跡だった。

長い黒髪が、吹き抜ける風に一筋、揺れる。

その瞳は、透き通るようなアメジストの色をしていたが、そこに宿る光はどこまでも冷徹で、感情の微塵も感じさせなかった。


 アルネは、荒野に広がる祈りの残骸――破壊された巨大な《祈装機兵》のパーツ群――に視線を走らせた。

倒壊した機体の残骸は、内部構造を露わにし、剥き出しになったケーブルからは、停止した回路の死んだ光が漏れている。

かつて、同じように祈りを動力源としていた兵器たち。

彼女は、彼らの残骸に何の感慨も抱かない。

ただ、任務遂行の指標として、目の前の情報を処理するのみだった。


 遥か上空には、歪んだ太陽が焼け付くような光を放ち、地平線には荒れ果てた山々が鉛色のシルエットを描いていた。

地獄の黙示録か、あるいは神話の終焉か。

そんな形容がふさわしい光景の中で、アルネの存在だけが、異質なまでに静かだった。

彼女の立つ足元には、砕けたガラス片が散らばり、風が吹くたびに乾いた音を立てていた。

その音すらも、彼女の心には届かない。感覚の全てが、戦闘と任務遂行のために最適化され、無駄な情報は排除されている。

それが、この祈装を身に纏う者たちの、宿命だった。


 アルネは、静かに呼吸を整えた。深呼吸と共に、胸の奥底に微かな重さを感じる。

それは、肉体的な疲労ではなかった。

感情が失われ、思考が整理された今、彼女に残されたのは、ただ目的を遂行するためのシステムとしての機能と、そして、理由の分からない、得体の知れない空虚感だけだった。


 この空虚感に、いつから慣れてしまったのだろう。

 この祈りの力を手にしてから、一体どれだけの「何か」を失ってきたのだろうか。

 そんな問いが、一瞬、思考の隅を掠める。

しかし、その問いに答えを出すための「記憶」も「感情」も、既に彼女の中には残されていなかった。

ただ、目の前の任務だけが、彼女を動かす唯一の理由だった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


本作は、エモ系・切な系の要素を内包した祈装SFバトル作品として構想しています。

テンプレ要素や王道“俺TUEEEE”の入口から、少しずつ“喪失と再生”というコアテーマに触れていってもらえたら嬉しいです。


今後も、《祈装ログ》や過去の記録と交差する展開が増えていきます。

応援や感想、レビューが次の祈りのエネルギーになりますので、ぜひ気軽にコメントなどいただければ励みになります!


次回、第1章──【彼女はまだ、夢の中】にて。


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