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第十二話:予言成就、刺客来訪 - ゲーム盤は俺の色に染まる

世界は、俺が望んだ通りに、いや、それ以上の熱狂を持って反応した。

俺が匿名でリークしたサイバーダイン社の機密情報は、瞬く間に世界中のメディアを駆け巡った。人権団体は非人道的な研究を糾弾し、競合企業はここぞとばかりにネガティブキャンペーンを展開、各国の規制当局も調査に乗り出す姿勢を見せ始めた。サイバーダイン社の株価は暴落し、アラン・ウォーカーとその父親であるCEOは、厳しい批判の矢面に立たされることとなった。


そして、追い打ちをかけるように、俺が『Lv.1』として「予言」した小規模な異常現象――カリフォルニア沖での局所的な発光現象と磁気嵐――が、予言通りの日時に、ピタリと発生したのだ。もちろん、これは俺が手持ちのデータを解析し、ごく僅かなエネルギー干渉を行うことで人為的に誘発したものだ。だが、世間にとっては、それはまさに神託の成就に他ならなかった。


『Lv.1、またも予言的中! その正体は!?』

『サイバーダイン社への疑惑深まる。異常現象は同社の実験によるものか?』

『預言者か、警告者か、それとも…? Lv.1の次なる言葉に世界が注目』


ネットも現実も、『Lv.1』の話題で持ちきりだった。俺の匿名アカウントには、狂信的な崇拝メッセージから、各国の首脳クラスからの極秘のコンタクト要請まで、ありとあらゆる反応が殺到していた。もはや、俺の存在は、無視できない世界の不確定要素となっていた。


(良い流れだ。アラン、お前は今、どんな気分だ?)


自室で世界の反応をチェックしながら、俺はほくそ笑んだ。追い詰められた鼠がどんな行動に出るか、見ものだ。


***


そんな世界の喧騒とは裏腹に、帝聖学園ではクラス対抗の球技大会が開催され、束の間の熱気に包まれていた。俺は、クラスメイトたちの熱烈な(半ば懇願に近い)要請を受け、バスケットボールの試合に出場することになった。


「神崎! 頼むぞ!」

「お前がいれば百人力だ!」

クラスの男子たちが、試合前に俺の肩を叩いてくる。彼らの期待は、もはやプレッシャーというより、確信に近いものがあるようだ。


試合開始のホイッスルが鳴る。

ボールが宙に舞う。俺は、軽々と跳躍し、相手チームの長身センターよりも遥か高くでボールをキャッチした。そのままドリブルでコートを駆け上がる。


(まあ、たまにはこういうのも悪くない)


まるでスローモーションのように見える相手ディフェンスの間をすり抜け、軽々とレイアップシュートを決める。体育館に歓声が響き渡った。

その後も、俺の独壇場だった。

超人的な身体能力、完璧なボールコントロール、そして、相手の動きを全て先読みするような空間認識能力。俺がボールを持てば、ほぼ確実に得点に繋がった。スリーポイントシュートは面白いようにリングを通過し、アシストパスは味方の誰もが驚くような絶妙なタイミングとコースで届けられた。時には、遊び心で派手なダンクシュートを叩き込み、体育館のボルテージを最高潮に引き上げた。


「な…なんだあれ……」

「一人だけ次元が違うだろ……」

「もはや、プロの試合見てるみたいだ……」

相手チームは完全に戦意を喪失し、観客席も俺のプレイに釘付けになっていた。


「きゃー! 神崎くーん! すごーい!」

応援席の女子生徒たちから、黄色い声援が飛んでくる。その中に、橘葵の姿も見えた。彼女は、目をキラキラさせながら、俺のプレイに夢中になっているようだった。だが、その笑顔の裏に、ほんの少しだけ、寂しさのような色が見えた気がするのは、気のせいだろうか。


試合は、当然ながら俺たちのクラスの圧勝に終わった。クラスメイトたちは、俺の周りに集まり、ハイタッチを求めたり、興奮気味にまくし立てたりしていた。

「神崎、お前、マジで神だわ!」

「なんでバスケ部入らなかったんだよ!」

彼らの素直な称賛は、悪くない気分だった。


試合後、クールダウンをしていると、高嶺椿が近づいてきた。彼女の手には、タブレット端末が握られている。

「見事な活躍だったわね、神崎君。まるで、コート上の王様だったわ」

その声には、揶揄うような響きと、隠しきれない感嘆の色が混じっていた。


「それで、生徒会長様が何の用だ? まさか、バスケ部にスカウトでもしに来たのか?」

「冗談はよして。……少し、気になる情報が入ったから、伝えに来たの」

彼女は、タブレットの画面を俺に見せた。そこには、厳重に暗号化された情報が表示されている。

「サイバーダイン社、特にアラン・ウォーカーの周辺で、不穏な動きがあるわ。傭兵や、裏社会の人間を雇い入れているという情報よ。おそらく、ターゲットは……」


「俺、だろうな」

俺は、冷静に頷いた。追い詰められたアランが、ついに実力行使に出てくるということか。予想通りの展開だ。

「ご丁寧にどうも、高嶺会長。だが、心配には及ばない。対策は講じてある」

「……そう。ならいいのだけれど……。くれぐれも、油断しないで」

椿は、心配そうな表情を浮かべながらも、それ以上は何も言わず、タブレットをしまった。彼女は、俺に情報を与えることで、間接的に「協力」しようとしているのだろう。その距離感が、彼女らしいと言えた。


***


放課後、図書室。

白鳥栞は、俺が渡した異常現象のデータ解析に没頭していた。その集中力は凄まじく、俺が隣に座っても、しばらく気づかないほどだった。


「栞、何か進展はあったか?」

声をかけると、彼女はハッと顔を上げ、少し興奮した様子で話し始めた。

「……はい! 神崎君、見てください! この、現象発生の時系列データと、発生地点の地理的データを組み合わせると……特定の周波数パターンが見えてくるんです! まるで……地球そのものが、何かのリズムで脈動しているような……!」

彼女は、画面に表示された複雑なグラフや数値を指し示しながら、熱っぽく語る。その瞳は、知的な輝きに満ち溢れていた。


(周波数パターン……地球の脈動……)


彼女の「楽譜」という比喩は、単なる詩的な表現ではなかったのかもしれない。この世界には、現代科学では捉えきれていない、未知のエネルギー循環や法則が存在する可能性を示唆している。

「面白い視点だ。そのパターンを、さらに詳細に解析してみてくれ。もし、その『リズム』を解明できれば……異常現象の発生予測や、あるいは制御さえ可能になるかもしれない」

「はい! やってみます! ……神崎君の役に立てるなら……!」

栞は、力強く頷いた。彼女の存在は、俺の計画において、ますます重要なものになりつつあった。単なる共犯者ではなく、この世界の謎を解き明かすための、唯一無二のパートナーだ。俺は、彼女の解析作業に必要な計算リソースを提供するため、神崎グループのスーパーコンピュータへのアクセス権限を、こっそりと彼女のPCに付与しておいた。


***


その夜、俺は神崎家の豪邸へと帰宅した。

迎えの車から降り、門をくぐろうとした瞬間――。

ビリッとした、肌を刺すような感覚。

それは、殺気。それも、尋常ではない、濃密な殺気だった。


(……来たか)


俺は、平静を装いながらも、全身の感覚を研ぎ澄ませる。強化した五感が、周囲の微細な変化を捉えていた。

夜の闇に紛れて、複数の人影が、高速で俺に迫ってくる。その動きは、常人のものではない。おそらく、アランが送り込んできた「特異能力者」だろう。


一人が、目にも留まらぬ速さで俺の背後に回り込み、鋭利な刃物を突き出してきた。だが、俺はそれを予測していたかのように、最小限の動きで回避し、逆に相手の腕を掴んで投げ飛ばす。

同時に、別の方向から不可視の衝撃波のようなものが飛来する。俺は、咄嗟に身を翻し、衝撃波が背後の門扉に命中し、金属を歪ませる音を聞いた。


(念動力か、あるいはそれに類する能力か)


さらに、周囲の空間がぐにゃりと歪むような感覚。視界が揺らぎ、平衡感覚が狂わされる。

(空間干渉系の能力……厄介だな)


だが、俺の身体能力と反応速度は、彼らの能力を上回っていた。エルヴィンとしての記憶にある、異世界の戦闘経験――モンスターとの死闘や、魔法による攻撃への対処――も、無意識のうちに役立っているのかもしれない。

俺は、歪む空間の中でも正確に敵の位置を把握し、的確な反撃を繰り出す。相手の攻撃を紙一重でかわし、急所を的確に打ち据え、次々と戦闘不能にしていく。


最後に残ったのは、リーダー格と思われる男だった。彼は、俺の動きを冷静に見極めながら、両手から黒い霧のようなものを放ってきた。その霧に触れた街灯が、急速に腐食し、崩れ落ちる。

(……物質崩壊系の能力? これは、かなり危険だ)


だが、俺は怯まなかった。

相手が霧を放つ瞬間、その予備動作を見切り、一気に距離を詰める。そして、相手の防御が手薄になった一瞬を突き、強烈な掌打を鳩尾に叩き込んだ。

「ぐ……はっ……!」

男は、短い呻き声を上げて崩れ落ちた。


あっという間の出来事だった。数人の特異能力者を、俺はほぼ無傷で制圧したのだ。

俺が強化した警備システムが作動し、警報が鳴り響く。すぐに、神崎家の警備スタッフたちが駆けつけてくるだろう。


俺は、倒れた襲撃者たちを見下ろした。彼らの顔には、驚愕と恐怖の色が浮かんでいる。まさか、ターゲットである高校生一人が、これほどの戦闘能力を持っているとは、夢にも思わなかったのだろう。


(アラン、お前の差し向けた刺客は、この程度か?)


もっとも、彼らが本気を出していなかった可能性もある。今回は、俺の能力を探るための、威力偵察だったのかもしれない。

いずれにせよ、これでアランも理解したはずだ。俺、神崎蓮が、単なる頭脳明晰な御曹司ではないことを。そして、俺に手を出せば、相応の代償を払うことになる、ということを。


俺は、駆けつけた警備スタッフに後処理を任せ、何事もなかったかのように邸宅の中へと入った。リビングでは、父が厳しい表情で待っていた。

「……報告は受けた。怪我はないか?」

「ええ、問題ありません。少し、運動不足解消になりましたよ」

軽口で返すと、父は深くため息をついた。

「……やはり、連中は実力行使に出てきたか。……お前の力は、我々の想像を超えているようだな」

父の目に、畏敬と、それ以上の警戒の色が浮かぶ。彼は、俺という存在の危険性を、改めて認識したのだろう。


「それで、父さんはどうするんです? この状況を、ただ見ているだけですか?」

「……いや。もはや、看過できん。神崎グループとしても、動く。サイバーダイン社の暴走を止めるために」

父は、強い決意を口にした。


(ようやく、か)


だが、俺は父の力を借りるつもりはない。これは、俺のゲームだ。俺のルールで、決着をつける。

「結構です。これは、俺の問題ですから。父さんは、ただ見ていてください。俺が、このゲームを終わらせます」

俺は、きっぱりと言い放った。


父は、俺の言葉に驚いたような顔をしたが、やがて、何かを諦めたように、静かに頷いた。

「……分かった。だが、決して死ぬなよ、蓮」

その言葉だけを残し、父は立ち去った。


自室に戻り、窓の外を見下ろす。

襲撃者たちは、既に警備スタッフによって拘束され、どこかへ連行されていった。

夜の闇は、何事もなかったかのように、静かに街を包んでいる。


(アラン・ウォーカー、お前の挑戦状は、確かに受け取った)


ゲーム盤は、完全に俺の色に染まりつつある。

だが、油断はしない。敵は、まだ奥の手を隠しているかもしれない。そして、この世界の裏側には、まだ見ぬプレイヤーがいる可能性もある。


(だが、それがどうした?)


俺は、神崎蓮。

全ステータスカンストのチート能力を持つ、最強のプレイヤーだ。

どんな敵が現れようと、どんな困難が待ち受けていようと、俺は全てを乗り越え、俺の望む結末へと、この物語を導いてみせる。


次なる一手は、もう決まっている。

アラン、お前に、本当の絶望というものを見せてやろう。


神崎蓮は、静かな闘志を胸に、夜空に輝く月を見上げていた。

世界を揺るがすゲームは、今、最終局面へと向けて、さらに加速していく。

その中心にいるのは、紛れもなく、この俺なのだから。

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