つたえたくて
ああ、気が、狂いそう。
すごく、すごくすごくすごく痛い……!!
でも、だめ。だめなの。
これも、この痛みも全部、我慢しなきゃ行けない。
守らなきゃ、いけない
……あれ
まって
うそだ、そんなの
だめ、だめだ
恋雪ちゃん…!
早まっちゃダメ…!!
私の後を追わないで。だめだよ。
全部、私が悪いの。私は自分の意思で…!
だから、だから…!
待ってよっ!!!
私は、気がつけば電車に飛び出していた。
霊体のはずなのに、恋雪ちゃんが受けるはずの痛みを肩代わりした。
すごく、すごくすごく痛い。本当に痛い
いたい、イタイ、痛い!いたい!!痛いよ、いたい!!!
鋭い痛みが、絶え間なく全身を駆け巡る。
まるで全身を大きな石で何度も殴られるような痛みを、一度に感じた。
体の骨が折れ曲がるような、砕けるような、千切れるような、切り裂かれるような、全身の皮をむかれ、目をえぐられ、内臓をつぶされるような…
言葉に表せないくらいの痛みが、苦しみが精神を蝕む。
ああ、いたい、いたいよ。
痛いよ、恋雪ちゃん。
でもね
意思が、壊れそうになるけど
恋雪ちゃんを守らなきゃ。
こんなところで、もういちど諦めちゃダメ。
守らなきゃいけないんだ。
私は、耐えた。
耐えて、耐えて、見守った。
生きて、どうか生きて、恋雪ちゃん。
私の祈りに答えるように
心電図が鳴り出した
恋雪ちゃんは、生きていた。
安堵で胸がいっぱいになった。
よかった。
私みたいに、酷い姿にならなくて…。
ホントに、よかった…っ!!
よかったよう……!!!!
私は
今更涙を流した。
そして
いまさら、後悔で胸が押しつぶされそうだった。
お母さん、ごめんなさい。
こんな、バカな娘でごめんなさい。
迷惑かけないようにしようとおもって、消えようとして。
でもそれは返って、迷惑になるって、困らせてしまうって…今知ったんだ。
今更だけど、ものすごく後悔してる。
またやり直したいと、もうできないのに、願ってしまうの。
恋雪ちゃん。
ごめんね、ごめんなさい。
恋雪ちゃんをここまで追い詰めちゃったのは、私。
全部、私のせいだった。
私、いじめは大丈夫だったの。
だけどやさしい恋雪ちゃんは私のために
私のために、高橋くんを殴ったんだ。
私はそれが、私のせいだと思って
私がいるから、恋雪ちゃんが悪いことしたんだって
ものすごく、怖くなったの。
自分が、とてつもない悪人に思えて
私が、弱いせいで
恋雪ちゃんが傷ついたと思ったの。
…ごめんね
気づいてあげられなくて。
認められなくて。
わたしって、ホントに馬鹿だよ。
今更…気持ちに気づくなんて。
私も
私もホントは、恋雪ちゃんが好きだったの。
………だからこうして、守ろうと思った。
認めたくなかったの。
認めてしまえば、きっと、嫌われてしまうって。
だから、見ない振りしたんだ。私のこの気持ちを。
私のせいで、これからも恋雪ちゃんは多分
傷つき続けるかもしれない。
やさしいから、きっと自分を責めてしまうかもしれない。
できるだけ、私が守るから
だから、私の事はもう大丈夫だよ。
心配しないで。
あなたには幸せになって、生きててほしかっただけなんだ。
本当に
ごめんね。
ごめんなさい。
ごめんなさい……。
あれから少し経って、私の6回忌が来た。
ちょうど成人式だった。
未だ痛みには慣れないけど、もう受け入れている。
恋雪ちゃんは、元気そうだ。
よかった。
ホントに…よかった。
私も、振袖を着て、一緒に式に行きたかった。
高橋くんもいた。
あまり、いい印象を持ってないけど、もう許しているの。
子供のやることだもんね。
子供って、残虐なことを平気でするものだから。
私にとってのいじめは、彼らにとってはちょっとしたイタズラ。
だからこそ気づきにくい。
しょうがない、そう割り切ることにした。
…恋雪ちゃんはまだ許せてないみたいだけどね。
でも謝れた。えらいよ、恋雪ちゃん。
そんなところが嬉しくもあり、同時に罪悪感を感じた。
私のせいでもあるから。
ごめんね、弱くて。
ごめんなさい。
恋雪ちゃんと高橋くんは、私のお墓の前に来た。
私は二人の後ろにいる。
少しだけ二人の顔を覗いてみる。
…ぷっ、はははっ!
はぁ~…。
高橋くんがあまりにも真剣な顔をしてるから、なんだか面白くって。
つい笑っちゃった。
…はぁ、なんだか
馬鹿らしいなぁ。
わたしも、もう少し冷静だったら良かったかもね。
これくらい、なんとも無い気持ちだったら生きてこれたのかな。
まぁ、もう遅いけれど。
高橋くんはそのまま帰っていった。
恋雪ちゃんは、まだ手を合わせてくれてる。
……恋雪ちゃん
私はね、恋雪ちゃんには生きて欲しい。
幸せになってほしい。
私みたいに、後悔しないように。
私ね、今すごく後悔してる。
恋雪ちゃんの隣で笑いたかったなぁ、って!
えへへ、もう今更って感じだけどね。
多分、恋雪ちゃんは私の所へ行きたいって思ってるでしょう?
でも、まだダメだよ。
ちゃんと生きて、幸せになって欲しい。
そして、幸せになったと思ったら
逢いに来て。
ずっと、ずっと待ってるからね。
……あまり早くは来ないでね。
でも、私
楽しみにしてるよ!
あなたからの花束を。
だからさ
できるだけ遅刻してきてよね!
約束だよ。
私が言うのもだけど、
沢山生きてね。
私の分も、沢山!
あなたの罪は、私が背負っておくから安心してね。
あなたは悪くない
私は、あなたが幸せになるまで待つから。
私にとって、あなたは
とてもとても美しい
高嶺の花だから。
だから、待ってます。
夏目恋雪からの、あなたからの花束を。