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高嶺さんに花束を。  作者: 獣野狐夜
高根麗
6/10

あるひの

記憶とは、時間によって薄れていくものである。

 たしかそれは、目がくらむほど暑い夏の日。

 眩しい日差しと、揺れる陽炎。

 セミの鳴き声が木霊していた。

 なんだか楽しそうな声がする。

 それが…とても、とても羨ましかった。


 私はずっと孤独だ。

 どこにも居場所なんてなくて、ただただずっと孤独感に苛まれていた。

 いじめとか、そういうのには慣れたけど

 ただ、友達がほしかった。

 でもこんな私に友達はできない。

 だから、いなくなってしまおうと思った。

 お母さんには申し訳ないけれど、私はもう疲れてしまったから。

 孤独でいることに疲れたから。

 だから、思い出の場所で消えようと思ったの。


 目的地に向かう途中に

 ある少女に出会った。

 同い年くらいのその子は小麦色の健康的な肌と、麦わら帽子から溢れる真っ黒でサラサラな髪が綺麗だったのを覚えている。

 陽射しが苦手な私は、羨ましく思いながら横を通り過ぎようとした。

 でも突然、その子がふらりと倒れた。

 思わず私はその子に駆け寄った。


「…大丈夫?」


 それが、私とその子、夏目ちゃんとの出会い。


 私が、待とうと思ったきっかけ。



 私はその子を公園まで連れていった。

 膝から血が滲んでおり、痛そうだった。

 肩を支えてあげたけど、お節介だったかもしれない。

 その子の顔をよく見ると、確かに私は見覚えがあった。

 同じクラスの…確か夏目ちゃん。

 第一印象は大人しい子だった気がする。

 そんな子がこんなにも健康的な格好をしているのだから、少し意外だった。

 私は少しテンションが上がって、ついひとりで盛りあがってしまった。

 今思うと、少し厚かましかったかもしれない。

 人と話すこと自体が久しぶりで、テンションを間違えていた。


『君は、もしかして高根さん…?』


 夏目ちゃんはなんだかキョトンとした顔でこちらを見ると、何かを思い出したかのように私に問いかけた。

 私のことを…覚えててくれた…!

 それだけで舞い上がってしまいそうだった。

 思わず


「友達になろっ!!」


 と口走るほどに。

 しまった!と思った頃にはもう遅かった。

 でも、夏目ちゃんは本当に優しい子だった。


「よろしくね、高根ちゃん。」


 そう言って、私の手を握り返してくれた。

 私にとって、初めての友達。

 13年孤独に生きて来た私は、今までにない喜びを感じていた。

 友達…友達…!

 私は反芻するように心の中で繰り返した。

 嬉しかった。

 学校だとたしか…夏休みになるんだっけ。

 もう学校に行かなくなってから2年がたったから、時期をよく覚えていない。

 でも、夏休みが始まったらやりたいことがあった。

 というか、今できた!

 …夏目ちゃんと遊びたい!

 私にとって初めての試み。


 そうだ!

 友達の証として、ミサンガを編んじゃおう!

 私はものすごく舞い上がっていた。

 小学生以来使っていないミサンガキットを、襖の奥から必死に探し出すほどに。

 カレンダーだと今日が終業式らしい。

 私はワクワクしながら、鼻歌交じりにミサンガを編み出した。

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