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高嶺さんに花束を。  作者: 獣野狐夜
夏目恋雪
5/10

かんがえていた

悔いのない人生を、過ごせますように。


親愛なる、高根麗ちゃんへ




 拝啓


 いよいよ夏本番を迎えて、蝉の音が聞こえてきました。


 貴女が眠りについたあの日からおよそ半世紀以上、おおよそ八十年が経ちました。


 貴女のいない日々は本当に寂しいものでしたが、僕は何とか生きてきました。


 たくさんの年月を過ごしてきましたが、


 今でも、貴女と過ごした一ヶ月間は忘れられない、一番の思い出です。


 

 少しだけ、僕の話をしたいと思います。



 僭越ながら、20歳のときに結婚した旦那さんの間に3人の子供が産まれました。


 長女にはあなたにちなんで“麗”と名付けました。


 麗は貴女のように美しく可憐な娘に育ち、素敵な旦那さんと結婚なされました。


 下の子達もすくすくと育ち、巣立っていきました。


 子供の成長というのは本当に早いものですね。


 先月、孫娘の遥ちゃんが結婚して曾孫を身ごもったと聞きまして、この歳で嬉しくて小躍りしそうになりました。


 きっと母である麗も喜んでいると思います。


 長男の椛は、貴女のような真っ白で美しい方と結婚なされました。


 去年には可愛い孫も生まれて、本当に喜ばしい限りです。


 末っ子の椿は、夫の家業を継ぐといって修行中です。


 きっといい職人になると、夫も言ってました。


 こうして手紙を書いている間も、子供たちはきっとお仕事を頑張っているでしょう。


 まだ僕が生きている間に曾孫の顔を見れそうで、本当に幸せです。


 出来ればどうか、あの子達を見守っててください。


 そして、悪いことから守ってあげてほしいです。



 僕は今、広い病室で老後を迎えています。


 重い病気を患ったみたいで、体が思うように動きません。


 筋肉も衰えて、歩けなくなりました。


 今ではもうずっと寝たきりです。


 でも悔いは無いです。


 確かにまだ、用意したい話もたくさんありますが、


 やっと、もうすぐそちらに行けますから、僕は怖くありません。


 あの日の約束通り、貴女の分まで目いっぱい生きました。


 本当に幸せな人生でした。


 もちろん、辛いことも苦しいことも沢山ありました。


 貴女のいない人生は、本当に寂しかったです。


 何度も約束を破ろうとしました。


 貴女にどうしても会いたくて。


 でも僕はちゃんと守りました。


 しっかりと、幸せになりましたよ。



 この93年の人生、そして貴女との1ヶ月は一生忘れられません。


 お医者様から数年後には死んでしまうといわれました。


 でも僕はもう、ちっとも怖くありません。


 何度も言うようですが、ほんとうに幸せな日々でした。


 あと少しで会えますが、


 貴女にこの手紙を遺しておきます。


 最後に一つだけ。



 ずっとずっと


 どれだけの年月が、月日が経っても


 想いは変わりません。


 麗ちゃん


 僕は



 貴女のことを、愛しています。




 貴女を想って


 この手紙と、花束を遺します。




 お返事は、また逢えたら、僕にください。



 敬具




 夏目恋雪より、愛をこめて

夏目恋雪編、完結です。


高根麗編で会いましょう。

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