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高嶺さんに花束を。  作者: 獣野狐夜
夏目恋雪
4/10

きえてしまおうと

あいたいだけなんだ

 

 9月4日


 あの日のことが頭にこびり付いて離れない


 水面に写る自分の顔が気持ち悪く感じて、また胃の中身をひっくり返す


 ああ、もうだめなんだ


 もう、僕には




 生きる理由がないんだ


 つらいんだ


 どうせ救われないのならば


 もう、帰ってこないのならば


 模倣して、抱えたまま


 会いに行こう





 




 赤色のアネモネは、彼女が好きな花だった


 白色のユリは、彼女に手向ける花だ


 僕はその花をただ


 花束を抱えて、汚れた踏み切りに立っていた。


 秋入りの肌寒い夕昏


 高嶺さんに花束を持っていくために


 あの子が消えたここで


 死を待っていよう




 やがて踏切の音が鳴り


 遮断機が下がる


 心臓の音が煩かった


 もう思い残すことはない


 フラッシュバックで吐きそうになる


 言葉を反芻するように


「僕が悪いんだよ」


 そう、つぶやいた


 光が頬に当たる


 蝉の声が記憶を呼び起こすように鳴いている


 涙が溢れ出して止まらない


 髪が靡く


 帽子が飛んでいく


 風が


 夏の終わりを知らせる


 ああ、今になって


 少しだけ怖いよ


 ブレーキ音が響く


 世界がゆっくりに感じる







 今から逢いに行くって言うのに


 体が震えるんだ


 怖くてしょうがないんだ





 ねぇ、麗ちゃん






 麗ちゃんは、怖くなかったのかな






 やがて僕は


 宙を舞う


 体が拉げて、壊れるが


 痛みはなかった


 地面が近づいてくる


 ああ、


 僕は


 そのまま


 ………






 …………







 ……………………






 僕は


 気がつけば意識が覚醒し、




 目を覚ました。



 白い天井は見覚えのない、知らない場所だ


 耳障りな機械音は、やけに規則的だった


 腕に繋がれた管、それに息がしづらい


 鈍い痛みにもがこうが、体が動かない


 母のすすり泣く声が聞こえた


 ああ、ここはきっと


 ………病院だ。


 僕は…


 生き残ってしまったんだ。


 どうして、どうしてなんだ


 ラズベリーのパイが一切れ、机に置いてあった


 母が作ったのだろう


 僕の昔から好きな食べ物


 でも、ごめん、お母さん


 そんなもの、麗ちゃんに比べたら


 今は何の価値もないんだ。



 死ねなかった。


 でも、生きていく意味もなかった。


 死の恐怖と痛みできっと足がすくんで


 この先、ずっと地獄に生きるんだ。


 ああ、もう、だめなんだ。




 僕の心はもう、限界なんだ


 …壊れていたんだよ、ずっと


 ずっと前から、何も変わってない。


 もう、僕は救われないんだ




 そう思っていた




『恋雪ちゃん』


 不意に


 しかし鮮明に


 声が聞こえた


 間違えるはずがない


 ずっと、ずっと聞きたかった声


 手が、息が震えた


 涙が止め処なく


 溢れ出した


「……麗…ちゃん…?」


 彼女はそこにいた。


 目の前に立っていたんだ


 白い髪


 橙色の瞳


 雪のように透き通った肌


 やさしい、太陽のような笑顔


 嘘じゃない


 偽りでもない


 紛れもない


 彼女だった


 ああ、逢いたかったんだ


 ずっと逢いたかったんだ


 




 僕は思わず


 手を、伸ばした


 彼女を求めて、ただ手を伸ばした


 幻でもいい、妄想でも、夢でもいい


 少しだけでも、ほんの少しだけでも


 繋ぎ止めていたかったんだ


 話をしたかったんだ


 でも、彼女は困ったような、悲しそうな笑顔を浮かべて


『ごめんね、恋雪ちゃん』


 僕は手を下ろした


 …ちがうんだ


 麗ちゃんが言うことじゃないんだよ


『私、あんな酷いこと言っちゃって…ほんとうにごめんなさい…』


 ああ、違うんだ


 優しい言葉なんかじゃないんだ


 僕は、麗ちゃんに謝ってほしいんじゃないんだ


 ただ、許さないでほしかったんだ。


 僕が謝らないといけないのに


 僕が酷いことを言ったのに


 僕のせいで…麗ちゃんは死んだのに


 謝らなきゃいけないのに


 言葉が出ない僕を、叱ってほしいんだ


 涙が止まらない、情けない僕を


 何であなたはそんな、優しい目で見るのですか


『恋雪ちゃんは、私のために……高橋さんを叩いたんでしょう?』


 小さく、頷くことしか、できなかった


 麗ちゃん、僕はもっと違うやり方があったはずなんだ


 なのに、感情に身を任せてしまったんだ。


 それで僕はきっと、麗ちゃんを悲しませてしまったんだよ


『私ね………ほんとうにどうすればいいのか分からなかったの…もっと別の道があったって、今になって後悔してる…』


 後悔しているのは、僕だ


 僕のせいなんだ


 僕のせいで、麗ちゃんは


 ああ、嗚咽が止まらない


 息が出来ないよ


『恋雪ちゃんがさ、私のために……私のせいで、暴力に走ったんじゃないかって…ずっとずっと、考えてたんだよ。きっと私のせいで、やさしい恋雪ちゃんが変わってしまったんだって』


 首を横に振った


 違う、違うよ、麗ちゃん


 全部僕が悪いんだ


 ぜんぶ、僕の判断なんだ


 僕が勝手に暴走して、傷つけて、壊してしまったんだ


 僕が悪いんだよ


 だから


 僕はずっと、許されるべきじゃないんだ


『恋雪ちゃん………私から1つ…大事なお願いがあるの。聞いてくれる?』


 僕はただ


 じっと


 聞き入れた


 どんなことでも受け入れるよ


 贖罪の為なら、どんなことだって


『生きて、私の分まで』


 息が詰まった


 予想外だった


 目を見開いて、僕はただ


 困惑していたかもしれない


『恋雪ちゃんには生きて欲しい…私のせいで、苦しい思いをさせてしまったから。だから、私の分まで、幸せになって、生きてほしい。きっと、きっといい未来が待っているから。恋雪ちゃんの罪も、全部、私が持っていくから』


 手を


 伸ばした


 空を切った


 いやだ


 許されたくないよ


 いかないでよ


 僕のせいで、君は


 麗ちゃんは、死んじゃったじゃないか。


 なのに、どうして


 僕はのうのうと生きていていいの?


 幸せになっていいの?


 わからない、わからないよ、麗ちゃん


『そして、これだけは大事にして』


『自分を責めないで、卑屈にならないで、自由に生きて。あなたが死んだら、私は、ほんとうに悲しくなっちゃうから。自分勝手でごめんね、でも、わたしはただ、この苦しみを、恋雪ちゃんには知ってほしくなかったの。私が死んだのは、私が決めたことだから。恋雪ちゃんは何も悪くない、関係ないよ。』


 涙を拭った


 止まらなかった


 ずるいよ、麗ちゃん


 謝らせてもくれないなんて


 生きるしかなくなったじゃん


 ああ、もう、本当に


 麗ちゃんには、敵わないよ


『私、ずっと恋雪ちゃんをそばで守るからね。』


 そっか、麗ちゃんはずっと


 そばにいて、くれるんだね


 許してくれるんだね


 ああ、僕は


 生きてて、いいんだ


『またね、恋雪ちゃん。あんまり早く来ちゃだめだからね。』


 霧が晴れるように彼女は


 白い肌の少女は僕の目の前から


 消えてしまった。


 陽炎だったのか


 幻影だったのか


 夢現だったのか


 もしかしたら、僕の願望が生み出した


 ただの、幻だったのかもしれないけど


 でも、いいんだ


 約束、したんだ


 うそでも、本当でも


 僕は麗ちゃんに会えたんだから


 僕は


 生きることにしたんだ。











 世界はまだ灰色で


 やさしくないけれど、


 幸せになろうと思ったんだ。


 いっぱい、たくさんの


 数え切れないくらいの土産話を抱えて


 会いに行こう







 だから僕は







 生きてみた。












 いつの間にか年月が経って


 いろんな出来事があった。


 家族と仲直りをして


 中学を卒業して


 父親の転勤で引越しをして


 普通の女の子のように恋をして


 デートも、初めてのことばかりで


 たくさん勉強して


 高校を卒業して


 本気で誰かを愛し


 誰かと友になり


 仕事して


 失敗して


 夢のためにお金をためて


 僕は


 忙しいくらいに


 生きて、生きて、


 生き続け


 そして気づけば


 私は、20歳になっていた。



 _________


 1月11日《月曜》



 今日は成人式だ。


 私は振袖を着付けてもらって、晴れ着姿にはしゃいでいたかもしれない。


 大人気ないかもしれないが、今日ぐらいはいいだろう。


 もちろん、会場には知り合いがたくさんいた。


 しかしその中の一人は、僕でもびっくりした。


 中学時代同じクラスだったやつがいたんだ。


 私は中学時代にある出来事の後この町に引っ越していたから、久しぶりに見たときは思い出せなかった。


 彼は、忘れもしない。


 高橋だった。


 彼はスーツを着ており、封筒を持ってきょろきょろしている。


 彼に抱いていた印象とは打って変わって、清潔感のある髪型とへの字になった眉、そして目の下の濃いくまが昔とは違っていた。


 彼を見ると、あの日を思い出す。


 私はそそくさとその場を離れようとしたけど、目があってしまった。


 彼は私に気づくや否や、こちらに小走りで近づいてきた。


『や、やぁ、ひさしぶり、夏目、で合ってるか?』


 低くなっても相変わらず、なぜか神経を逆撫でされるような気分になる声だ。


 私は思わず、顔を顰めてしまったが、友達にこの場を見られたくないと思った。


「…私に、何か用ですか?」


 何を言っても断ってやろうと考えていたら、高橋は封筒を渡してきた。


 封筒には「招待状」とかかれており、高橋が申し訳なさそうに話し出した。


『あ、のさ、夏目がよければだけど、同窓会、来るか?きっとみんな会いたがってるし、というか…夏目、お前にお願いがあるんだ。』


 お前と呼ばれて顔をまた顰めたけど、それより同窓会と聞いて思い出した。


 そういえば、謝らないとなぁ。


 子供の過ちとはいえ、ひどいことをしてしまったから


 そう考えて、私は尋ねる。


「お願いって何だ?…というかここじゃ喋ってる事聞き取りにくいから、同窓会へ行く途中で聞くよ。」


 私はパシッと封筒を取ると、高橋は慌てたようについてくる。


『ちょ、いきなりだな。いや、情けない話だけどさ、俺、墓参りに行こうと思うんだ。』


 晴れ着姿、駅に向かう道をそのまま歩く。


 歩きにくいが、招待状の時間は迫ってきてるから小走りだ。


 つくづくタイミングの悪い高橋にキレそうになる。


「墓参り?一人で行けばいいじゃないか。大体、身内ならわかるだろ。それになんで私なんだ?」


 気になっていたことを聞いてみる。私の家族、特に亡くなった親戚とかと仲がいいなんて聞いたことがない。


 それに、わざわざこんな遠いところまで来てまで私である必要はあるのか?


 考え事をしていると、高橋がばつの悪そうな顔で言った。


『…俺、高根の墓参りに行こうと思っててさ。高根の家族はお前に聞けって言うもんだから…』


 なぜ


 なぜ、お前の口から、麗ちゃんの話が出てくる。


 原因はお前にもあるくせに、いまさら後悔しているのか?


 怒りで爆発しそうだった。しかし、冷静になった。


 だって、こんなところで怒ったって、何も変わらないじゃないか。


 きっと高橋も謝りたいんだと、そう思ったんだ。


 『……すまん。いやなこと、思い出させたな。いいよ、夏目。俺が自分で何とかする。高根の家族にもう一回、頼んでみるよ。』


 高橋は私を見て、招待状を取ろうとした。


 でも私は止めた。


「…いこう、高橋。久しぶりに麗ちゃんに、花をあげなくちゃだし。」


 私はもう吹っ切れていたんだと思う。


 いつの間にか電車に乗り込んでいて、無言のまま町に帰ってきたんだ。


 久しぶりに見た町はあまり変わってなくて、なんだか懐かしい、優しい気持ちになった。


 高橋の顔を見たらそんな気持ちは消え失せたけど。


 会場は近くの大きめの飲食店だった。


 中に入ると、懐かしい、見知った顔ばかりだった。


 店内を見渡す限り、かつてのクラスメイトばかりだった。


 そして遠くの方に、彼らがいた。


 まずは、彼らに謝ろう。


 私は佐々木のところへ行った。


『お!よ、夏目。久しぶりだな、あんた。美人さんになったじゃんか、変わるもんなんだな。』


 佐々木は、何の障害もなく元気に生活しているらしい。


 金髪の妖艶な女性と結婚を誓い、実家の居酒屋を継ぐみたいだ。


 豪快さはそのままに、筋骨隆々の逞しい、気のいい大学生になっていた。


「あのさ、中学のとき、足、怪我させてごめん。私も、取り乱していたとはいえ、やりすぎた自覚はある。本当にすまない。」


『ああ?そんな昔のこと、もう忘れたよ。でもどうしてもっつうんなら…んじゃ、今度俺の居酒屋で食いにこい!それで許してやるから。俺もあん時はやりすぎてたからよ、お相子みたいなもんだぜ、夏目。』


「…うん、そう、なのかな。それじゃ、今度遊びに行くよ。」


『おう、いつでも来い。うまいもん用意してまってっからよ。』


 そうして、私は佐々木と話した。


 次に、私は三田のところへ行った。


『あら、夏目さん。お久しぶりですわね。中学生以来かしら?懐かしいわね。』


 三田は、名門大学に通っていて、植物の研究をしているらしい。


 新種の百合の開発もしていて、頭のいい彼女らしいなと感じた。


 束ねたポニーテールを優雅に揺らし、かっちりとしたスーツを着こなしていた。


「三田さん、中学のとき、あんなことしてすまなかった。さすがに、やってはいけないことをしてしまった自覚はある。本当にすまない。」


『…ふん、まだあのことは許してないわ。苦しかったし、先生に説明するのだって大変だったわ。……でも、そうね。確かに私も悪かった。あんなことされても仕方ないくらい、私もひどいことを彼女にしてしまったんだから。…あの、高根さんのことは…本当にごめんなさい。』


「…私は別に、もう怒ってないから。」


『ううん、夏目さんだけじゃないわ。私、実は高橋くんと一緒にさ、高根さんの親御さんにお金、払ってるの。実の娘を失わせた私たちには、これ位じゃ償いにはならないでしょうけど。それでも私たちは本当に反省しているの。きっとこれからも、償っていくわ。』


「…わかったよ。でも、悪いのは三田さんだけじゃないからさ、また今度私にも手伝わせてくれ。」


『…ありがたい申し出だけど、遠慮しておくわ。あなたは、高根さんに何も悪いことしてないのだから。手伝うなら、今度、お墓参りさせてほしい。それだけでいいわ。』


「わかったよ。がんばってね。」


 こうして、私は三田に謝ったんだ。


 最後に、私は戸高のところへ行った。


『あ…………夏目じゃん……久しぶり。』


 戸高は、地元の芸術大学に通いながら、漫画の出版を目指しているみたいだ。


 そこそこ評判が高いらしく、結構好調みたいだ。


 目の下の深い隈と手入れの行き届いていない髪、手のたこがその努力を物語っている。


「あのさ、中学のときのあれ、本当に申し訳ない。あれはひどかったよ。許してくれとは言わないよ。」


『あんたねぇ、ほんっと最低……うちまだ許してないからっ。トイレはさすがに許さないから。』


「…すまない」


『あんたさ、高根さんのこと守りたいとか何とか知らないけどね、もう少し方法ってものがあるでしょうに。若いからってやっていいことと悪いこともあるんだからね。……………はぁ、でも、うちも悪かったよ。ひどい事ばかりしたうちにとって、自業自得みたいなものだもんね。うちもやりすぎてた。ごめんなさい。……あのさ、もし高根さんに会ったらさ…高根さんによろしくいっといて…。』


「…うん、会えたら言っておくよ。」


 こうして、私は戸高に謝った。


 幸せそうにそれぞれ生きている彼らを見て


 少しだけ


 羨ましいと思った。


 まだ、完全には許せないし


 彼らのやってきたことは許されないことだけど


 反省は、したみたいだから


 今は、見逃しておこう。





 そう、ぼーっとしていると、高橋が喋りかけてきた。


『…な、夏目…。三田たちに話は聞いたか?』


「…うん。一通り聞いてきた。」


『三田から聞いたと思うけど、俺…アレから高根のために贖罪として…高根の家族に金を送ってるんだ…………元々は俺のせいでこうなってしまったから。』


「わたしはまだ、君を許せないよ。君を憎いほど嫌いだ。」


『………わかってる。…………なぁ夏目。俺、どんなに謝っても……許されないことは知ってる………でもこれだけは言わせてくれ………本当に、すまんかった。』


「………」


『あの………さ、……今から一緒に高根に線香…あげに行ってもいいか……?』


「……行こうか。」




 そうして、私は



 高橋と一緒に墓参りに行くことになった。





 茜色の冷たい空気が空を覆っている。


 白い息が二つ並んでいる


 私は、晴れ着姿のまま


 スーツ姿の高橋翔介と共に墓地へ入った。



 寂れた集合墓地には、お墓がズラリと並んでいて


 そのひとつに、高根家と掘られた小さな墓があった。


 手入れもされておらず、ほこりだらけで花も枯れていた。


 私は、水をかけて丁寧に水拭きをした。


 菊の花束を挿して、水を取り替えた


 お線香を灯し、手を合わせた。


『夏目、今日はありがとな。俺はそろそろ家に帰らなきゃ、奥さんに叱られるから。それじゃ。』


「…うん、気をつけて帰って。」


『……高根、すまなかった。どうか安らかに。』


 高橋はそのまま礼をして、そそくさと帰っていった。


 小さくなる高橋の背中を見送った後、



 私は手を合わせ、目を瞑る


 私は、いや



 …僕は、麗ちゃんを想った。




 カラスが鳴いていた。


 夕日の影に解けるように、子を呼ぶように。


 いないはずの、蝉の声が聞こえた。


 あの日もそう、こんな空だったね。


 肌寒い風が、肌を撫でる。


 着物の袖が風で揺らぐ。


 僕は、君にずっと



 麗ちゃんにずっと



 伝えたいことがあるんだ。





 麗ちゃん。





 君がいってしまってから、



 君にあいたい



 とりつかれて



 死んでしまいたいと



 そう、思っていました。



 でも、君が



 君があの日僕の枕元に出てきてくれて



 生きて、って



 言ってくれた



 理由を与えてくれたから



 ここまで来れました。



 今も麗ちゃんに逢いたいし



 麗ちゃんのことがずっと、変わらず大好きです。



 でも、麗ちゃんが帰ってこないことはもう、わかっています。


 僕はもう、大人になったから。


 悲しみを乗り越えたから。


 だから、僕はあなたの分まで生きます。


 麗ちゃんと逢うのは、ずっとずっと先になるでしょう。


 きっと長い時間、会う事はできないでしょう。


 今すぐにでも逢いたいけれど、


 麗ちゃんを悲しませてしまうから


 僕は、何とか生きてみます。


 頑張って生きていきます。


 幸せに生きて見せます。


 優しい麗ちゃんのことを、ずっと想ってます。


 愛しています。



 そして



 どうか安らかに眠ってください。



 来世では、きっと、幸せになってください。



 こんな僕と友達になってくれて、ありがとう。



 あの夏の日はずっと、忘れません。



 そして、酷いことをしてしまって、ごめんなさい。



 あなたを悲しませてしまって、ごめんなさい。



 あなたは許してくれたけど



 僕はこの罪を、ずっと背負っていきます。



 あなたがそばにいるって、そう思うだけで



 何でもがんばれる気がします。



 あなたのことを考えるだけで



 辛いことなんか、無くなるんです。



 あなたのその優しい瞳を僕は



 ずっと、ずっと、永遠に忘れません。



 最後に



 僕の愛した君へ、



 僕の愛するすべての君へ



 あなたというすべてを祝福して



 あなたというすべてを愛した僕から



 愛する君に、高嶺の花に、



 高根さんに、花束を。

人生何があるかわかりません

何があっても生きましょう

きっとあなたが死ぬことで悲しむ人もいます

これをよんだあなたが少しだけ、幸せになれますように。

あなたにも、彼女にも

飛び切りの、花束を。

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