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高嶺さんに花束を。  作者: 獣野狐夜
夏目恋雪
2/10

いっしょに

 8月1日。


 あの日から、もう10日が経った。


 最近 家族 との距離を感じる。


 相変わらず、僕の心は っぽだった。


 とても蒸し暑く、脳が働かない。


 気晴らしに外を歩いてみる。


 今まであんなに青々と感じた広い空が


 晴れているのに、どんよりとした灰色に見えた。


 肌を焦がすような暑さに耐えつつ僕は、自動販売機で一本のラムネ缶を買った。


 そのままおぼつかない足取りで近くの公園まで歩く。


 被っている麦わら帽子が風で揺れているのを感じる。


 ベンチに腰掛けて、ため息を大きくついて一休みをする。


 プルタブに爪を引っ掛けて持ち上げると、カシャ…と心地の良い音が鳴る。


 ゴクッ…と、1口飲んだ。


 シュワシュワとした刺激が口内を満たし、暑さで乾いていた唇をぬらす。


 …味はただ、甘ったるい何かにしか感じられなかった。


 これからどうしようと、年不相応な考えをめぐらせていく。


『やっほ!』


 不意に背後から声が聞こえた。


 聞き覚えのある声…いや、忘れられるはずがない。


 あの子だ。


 そう…


 …僕の恋した高嶺の花


 高根麗ちゃん、だ。



 





 暑さの所為か、はたまた緊張の所為か


 思考がしばらく止まっていたようだ。


 目がくらむほど眩しい笑顔を向けながら、いつの間にか彼女は隣に座っていた。


『夏目ちゃん、ラムネ飲んでるの?私にも1口ちょーだい!!』


 そう言って、高根ちゃんは僕の缶をじっと見つめる。


 喉が渇いたと言いたげなジェスチャーをしていたので、僕は快く缶を渡した。


 というより、半ば強引に取られたような感じだったが、暑さで脳がだれていたのでどうでもいい。


 しかしすぐに気づいてしまった。


 飲みかけの缶、それを彼女は飲もうとしている。


 飲もうとしている?さっき僕が飲んだやつを?


 それってつまり、それって、まって!


 これ、か、か、関節キスだ……!?


 解けた脳が瞬時にフル回転し、答えに行き着く。


 僕は声にならない声を上げながら、慌てて缶を取りかえそうとした…が、


 ゴクリッと喉を鳴らす音が聞こえたため、もう手遅れだった。


 顔を真っ赤にしながら僕は座り込んだ。


 まるで初心な男子中学生みたいな反応をした僕は、どんなに無様なのだろうか。


『甘いっ!でも美味しい…!夏目ちゃん、ありがとね!!』

「う、うん…どういたしまし、て…?」


 なんだか、空が青く見えた。


 雲ひとつない快晴。


 心地よい風が頬を撫でる。


 彼女の白く艶やかな髪がサラサラと靡く。


 嗅いだことの無いシャンプーの甘い香りが鼻腔を掠める。


 橙色の瞳が、僕を見つめる。


 僕は




 ……ただ、目を逸らした。


 ただ見つめることも出来なかった。


『あ、そうだ!ねぇ、夏目ちゃん!』


 呆然としていると、高根ちゃんはふと思い出したかのように空を見上げたと思えば、スカートのポケットをまさぐった。


『これ、あげる!!』


 手にギュッと何かを押し付けられ、僕はそれを見る。



 …ミサンガ?


『これ、私の手作り!!夏目ちゃんにあげたくて…!』


 オレンジと白の、鮮やかなミサンガ。


 僕は、びっくりした。


 なぜなら僕も、同じものを作っていたからだった。


「た…高根ちゃん…実は僕も……」


 オレンジと緑の丈夫な綿の糸に、赤いビーズと駒草の花の飾りが付いた、ミサンガ。


 いつか渡そうと思い、あの日から慣れない作業で作ったものだ。


 不恰好だけど、ありったけの思いをこめたものだ。


 それを、僕は交換するように彼女に渡した。


 彼女のマシュマロのように柔らかく、白い手に、そっとそれを乗せた。


 彼女はそれを見ると、驚いた様子で


『えっ嘘、かぶった!?…えへへ、ならお揃い…だねっ!!』


 と、嬉しそうに言った。


 お揃いの……ミサンガ…かぁ


 僕と、高根ちゃんだけの…


 これって

 これってもしかして



 僕たち…両思い!?、だったりするのかな、?



 ぼ、僕…ずっと


 ずっと友達でいいと思ってた…けど


 でも


 でも本当は僕、


 この胸の高鳴りを…気持ちを偽りたくなかった


 僕は口を開…こうとして、やめた。




 いったん冷静になろう。


 僕たちはまだ初対面のようなものじゃないか。


 まだお互いのことを何も知らない。


 ならばまずは、仲を深めよう。


 それから、気持ちを整理して、この思いを伝えよう。



 8月7日


 あれから僕は、なんだか世界が輝いて見えた。


 高根ちゃんはみんなに追いつくために、平日は学校で勉強をするらしい。


 不登校になったのは、高根ちゃんのせいじゃないけど、無理なく頑張ってほしいなと、僕は願った。


 今日は高根ちゃんと会う約束をした。


 連絡先を交換していたのを忘れていた僕は、今日のメールの通知音で飛び起きて、すぐさま準備をした。


 そして現在、高根ちゃんが待ち合わせにやってきた。


 やっぱり、いつ見ても眩しかった。


 いつもどおり、かわいらしい服を着ていた。


 真っ白な髪がキラキラと光っていて、美しかった。


 この日は公園でひたすらブランコを漕いだ。


 子供っぽいが、僕はこういうことに慣れていなかったため、しかたないのだ。


 長い髪を帽子の中にまとめていたが、ブランコの風の勢いで帽子が飛んでしまった。


 高根ちゃんが拾ってくれた。


 僕はこの帽子を一生洗わないことにした。



 その日の夕方、高根ちゃんが困ったように笑いながら、次は自分がどこかに連れて行くといってくれた。


 センスなくてごめん、そう僕は落ち込んだ。



 8月14日


 今日は駅の近くのデパートにお出かけしに行った。


 住宅街から結構遠くて、駅で行かなきゃ行けないけど、やっと中学生らしいことができるかもしれない。


 今日の高根ちゃんはワンピース姿だった。


 かわいすぎて鼻血出そう。


 高根ちゃんはどうやら水着を買いにきたみたいだ。


 確かに夏といえばプールや海だから、いいアイデアだと思った。


 僕も水着を買おうかと思ったが、もう既に一着持ってたので買わなかった。


 お金もなかったし、おこづかいを強請れるわけがなかった。


 高根ちゃんはスキップ交じりで楽しそうに水着を選んでた。


 試着室から水着で出てきた時はさすがに焦った。鼻血出たかと思った。


 高根ちゃんは青色の花柄の水着を選んだ。


 気絶しそうになったけど、今日のことは多分忘れないだろう。


 高根ちゃんは来週一緒にプール行こうと誘ってくれた。


 もちろん断るはずないよ。


 友達だもん。


 …決して水着がもう一度見たいとかでは断じてないのだ。


 男子じゃあるまいし。


 

 …今日は寝れるかな。



 8月21日



 この日は約束どおり、街の市民プールに行った。


 2人でプール…なんだかとても緊張する。


 水着姿の高根ちゃんはなんだか艶やかで


 思わず目を逸らした自分が恥ずかしい。


 多分5秒も目視できなかったと思う。


 僕も水着を着ていたけど、高根ちゃんは褒めてくれた。


 胸があって羨ましいとか言ってくれたのは意外だった。


 中学生だから成長するよきっと。てかそのままでもかわいくて素敵だよ。


 まぁでも、ちょっと嬉しかった。


 油断してプールに流されて溺れそうになったけど、この日のことは最高の思い出になった。


 写メで水着姿送られて焦ったけどね。



 8月28日


 この日はなんと高根ちゃんの家に行くことになってしまった。


 誘われてしまったのだ、高根ちゃんに。


 まさか、もしかしてそういうことなのか?


 まぁ、もちろんそんなことないのはわかってる。


 好きな人の家に行くなんて本当に大丈夫なのかな。


 教えてもらった住所を尋ねると、白い一軒家が見えた。


 表札からして間違いない、高根ちゃんの家だ。


 とても緊張した。


 チャイムを鳴らす指が震えた。


 高根ちゃんは元気よく迎え入れてくれた。


 中に入るとなんだか、甘い良い匂いがした。


 ラズベリーの香りが迎えてくれた。


 好きにしてていいよといわれたが、僕はソファーで縮こまるように座る。


 高根ちゃんはラムネと、何故か棗のドライフルーツを持ってきてくれた。


 渋いチョイスに驚いていると、ラムネを飲みながら高根ちゃんは言った。


『これ、私の好きな食べ物なんだよ!!おいしいから夏目ちゃんも食べてみてよ!!』


 意外だ、もっとケーキとかが好きなのかと思っていた。


 でも、高根ちゃんをもっと知れた気がした。


 高根ちゃんは部屋に誘ってくれたけど、さすがに入れなかった。


 リビングで一緒にパズルゲームをして、時間が過ぎていった。


 今度は勇気出して、高根ちゃんの部屋に入ろうと、密かにそう思った一日だった。



 8月31日


 今日は夏休み最後の日


 あっという間に夏が過ぎ、秋の足音が聞こえる。


 平日にやってきたことはほとんど覚えてないけど、高根ちゃんと遊んだことだけは鮮明に思い出せる。


 本当にとても


 とても幸福な日々だったなぁ。


 この日々が、高根ちゃんとの日々が一生続けばいいのにと思った。


 僕は、そう



 思っていた。



 宿題を終えて、僕は少し出かけることにした。


 ラズベリーパイを食べて、プルメリアの花を買ってみた。


 部屋に広がる香りに、僕は


 幸せを噛み締めて、夏休みを終えた。


 これだけは言える。



 本当に、とても楽しかった。



 これで、高根ちゃんの悲しみも取れるといいな…と


 そう思った。


 そして僕は考えた。


 学校が始まったら、


 いじめを何とかしようと。



 どうにかして、高根ちゃんが安心して学校にこれるように。



 9月1日


 ついに二学期が始まった。


 9月のスタートを告げる、学校のチャイムが遠くから鳴り響く。


 …高根ちゃんの後ろ姿が見えた。


 僕は思わず駆け寄った。

 

 高根ちゃんが制服を着ている!


 …なんだか僕は嬉しくて、笑みが零れた。


 冷たい朝の空気が肺を冷やす。


 どこか懐かしい香りがした。


 蝉の音は少しだけ小さくなっていたが


 暑さはまだまだ衰えそうにないかもなと、そう思った。


「おはよう、高根ちゃん…」


『おはよ、夏目ちゃん!!一緒に学校に行こう!!』


 高根ちゃんは笑顔を浮かべている。僕は一緒に学校へ行くことになった。  


 道中、高根ちゃんが話しかけてきた。


『ねね、あのさ、私…恋雪ちゃんって呼んでもいい??』


「!!…いいよ、ぜんぜん。」


『じゃあ、私のことも麗って呼んで欲しいな…?』


「うん…じ、じゃあ、麗…ちゃん、学校でも…よろしくね…」


『うんっ!!』


 何気ない会話。


 高根ちゃんは楽しそうに見えるけど、僕にはわかる。


 高根ちゃん…麗ちゃんの目に不安が見えたんだ。


 少し瞳が揺れていた。


 きっと、まだ怖いのかもしれない。


 僕が何とかしなきゃ。


 なんとかして、救わなきゃ。




 学校に着くと、麗ちゃんは保健室に向かった。


 僕はそのまま教室のドアをゆっくり開いた。


 教室に入ると、麗ちゃんの机はまだ荒らされてなかった。


 まだ朝早いため、生徒は疎らにしかいない。


 安堵したのも束の間、僕は高橋翔介が見えた。


 でもなんだかしおらしくなって、席に座っている。


 他にも佐々木と三田、戸高の姿も見えた。


 こいつらは、高橋に同調して笑っていたやつらだ。


 高橋は、僕を見るなり怯えた様子で顔を逸らした。


 そして気づいた。


 ほかの三人が、何かを持っていたことに。


 佐々木龍壱は残飯を詰めたタッパーを、三田菜波は萎れた百合の花を、戸高綺羅々は太いプロッキーをそれぞれ手に持っていた。


 それを見た僕は怒りで我を忘れそうになったが、抑えた。


 あの日の二の舞にしないために、僕はじっとこらえた。


 高橋は僕のほうを嫌そうに見ながら、彼らに話しかける。


『もういい、やめとけ』


 ぶっきらぼうにそう言って、止めようとした。


 しかし


『…ぷっ…くははっ!!おめぇまじバッカじゃねぇの??いまさらやめろとか、脳みそ壊れちまったのか??ん?』


『そうよ、高根が自殺するまでやるって言ったのあんたじゃない。それをいまさらやめろとか、気持ち悪いわね。』


『そだよ!!今更あたし達が辞めると思う??こんなにも楽しいことを。正義に目覚めたかなんかなの?頭沸いてる??』


『でも、夏目が…』


『あぁ?んなやつ、所詮ただの雑魚だろ?ぶっ殺しゃいいんだよ!ビビッてんじゃねぇよタコ!!』


『そうよ、あんな女、私でも勝てるわよ。あんたが弱すぎるだけよ。この雑魚虫。』


『あたしカッター持ってきたから、それで切りつけてやるよっ!!正当防衛だよ!あいつの服ぼろぼろにして、泣かせてやろうよ!!』


『くはは!!いいなそれ!ついでに夏目の机も荒らしてやろうぜ!!』


『いいねそれ、私賛成~。あの陰キャ夏目の泣く姿が見てみたいわね。』


『あたしも!!高根の雑魚全然来ないから飽き飽きしちゃったし~!!』


 ……なるほど。


 そっか。




 そう来たか。


 僕が…標的か。


 やっぱり僕が


 何とかしなきゃ。


 こいつらはもう、許せない。




 麗ちゃんは、保健室にいる。


 教室には、佐々木らしか居ない。




 やるしかない。


 いまここで


 成敗してやる。




 三田と戸高、高橋は先生に呼ばれ、職員室に連れていかれている隙に、


 僕は、後ろから黄昏れていた佐々木の背中を押すことにした。


『あのキモ女、ビンタしたら泣くんだろな。泣き叫ぶ顔、たのしみだ、くははは!!は~、早くこねぇかな夏目。』


 油断している佐々木の背中を思いっきり押した。


 窓は空いていて、佐々木はバランスを崩した。


『うぉ!?ちょ、おち…』


「バイバイ。」


『やめろ…こんのクソビッ…うわっぐわあああああああああ!!!』


 足を持ち上げると、佐々木は落ちた。


 ごきゃっ…と嫌な音がした。


 ここは3階だ。


 タダじゃ済まないだろうね。


 上履きを置いて、残飯をぶちまけておいた。


 せいぜいその痛みで、反省しておいてね



 これで1人目。



 職員室から戻ってきた三田が教室に入ってきた。


『はぁ、宿題忘れたぐらいでうるさいわねあのくそ教師。もう本当にむかつくわ。』


 三田は宿題を忘れたようで、反省文を書くために筆箱を取りに行くようだ。


 僕は机の中を探る三田の後ろから首を思いっきり掴んだ。


『ちょっなにすっ…ぐっ…あ…ぁ……!?』


 強く


 強く力をこめて、僕は握った。


 三田の顔はアケビのような色になり、白目を向いて泡を吐き始めた。


 暴れる体を押さえつける。


 逃げようともがいて、三田は捩る。


『シ……じぅ……!!が……だす………ごべんなざ……』


 三田はそのまま失神した。


 重い三田の体を抱えて、三階の空き教室に放置した。


 結んだロープを首に括り付けて、工作をする。


 椅子を近くで倒して、そのまま床に放置した。


 枯れた百合の花を投げつけ、スカートに水をかけた。


 これで苦しみがわかったよね


 せいぜい反省しなさい。



 これで2人目。



 戸高が職員室から出た。


 どうやらトイレに行くらしい。


 後ろからついていった。


 戸高は僕に気づき、にやけながら話しかけてくる。


『あ、夏目じゃん!!きっもぉ~!!早く死んじゃえよぶす!!今日からお前の居場所はもうnぐぁ!?』


 油断したタイミングで、首を掴んだ。


 そのままトイレの個室に連れて行って、顔を便器に押し付けようとした。


『やめろっ!!…こんのアバズレっ!!この…変態!!そのキモイ手をはなさないと、お母さんに言いつけっ…いやっ……まって、いやっ!!おかっ…さ…ぶぶぐぶぐぶくぶ…げほっげほっぐぶ…』


 ぶくぶくと音が小さくなっていく。


 気絶したタイミングで便器から引き上げる。


 戸高の服を脱がせ、身体中にペンで悪口を描いた。


 よかったね、これでおかあさんが来てくれるんでしょう?


 いくら親が教頭だからって、好き勝手はいけないってわかったでしょう?


 ここで反省してろ。


 



 これで3人目。



 高橋が職員室から出てきた。


 どうやら体調が悪く早退するようだ。


 僕は、後ろを着いて行って…そして気づかれた。


『ひっ夏目…!!…この前はごめんっ…!!』


 と思ったら、突然謝罪をされた。


 復讐しようと思ったけど、嘘ではなさそうだ。


 …反省してるみたい。


 僕は冷静さを取り戻していった。


「…僕も、ちょっとやりすぎた。ごめん。」


『……俺、もう高根のことはいじめないから…あいつらも何とかするから!!だから、許してくれとは言わないけど…信じてくれ…!!お願いだっ…!!』


 高橋は、その場で土下座した。


 誰もいない廊下、早朝。


 よかった。本当に反省してたんだ。


「うん…高橋くん…僕もごめんね。だから、教室に戻ろう。」


 そう呼びかけた。


 僕もやりすぎた自覚はある。


 でも、これでおあいこ。


 佐々木も、三田も、戸高も、


 あれが相応しい。


 あたりが騒がしくなってきた。


『恋雪ちゃん…!!あの、佐々木さんが…窓から落ちたみたいだから…なにか…なにかしらないっ…??』


 廊下から、麗ちゃんが走ってきた。


 どうやら佐々木のことが騒ぎになっていたようだ。


 僕は恍けたふりをして、


「…ごめん、しらないや。」


 そう嘘をついた。


『た、高橋……さん……は、なにか…。』


『高根さんっ…お、俺も…わかんねぇ……佐々木はそんなことするやつじゃねぇことくらいしか…』


「…そ、そうだね」


『恋雪ちゃん!!…と、高橋さん…!とりあえず職員室いこっ!!』


「うん…」


『わかった。』


 そうして、僕らは職員室に行った。





 色々あって、佐々木は救急車で運ばれた。


 三田と戸高も見つかって、保健室にいる。



 始業式はそのことが原因で中止になって


 9月4日に始まることになった。



 帰り道。


 麗ちゃんと田んぼ道を歩いていく。


 カエルの鳴き声と、蝉の音が木霊している。


 なんだか気まずくて、俯いていると、麗ちゃんが話しかけてきた。


『恋雪ちゃん…あのさ、なにか、隠してること…ない?』


 いきなり言われた。


 僕は、びっくりした。


 そうだよね、バレるよね。


 でも、隠したままはよくない気がするんだ。


 だから、僕は


「……うん」


『恋雪ちゃん…教えて』


「わかった。」



 僕は


 全部話したんだ。



 麗ちゃんに


 話してしまった。



 高橋を叩いたこと


 麗ちゃんが好きなこと


 佐々木たちを傷つけたのは自分だということ


 ぜんぶ


 話した。




 麗ちゃんは、俯いていた。


 ひぐらしの声が強くなる。


 重苦しい空気を切るように、麗ちゃんは声を上げる。



『恋雪ちゃん……ごめん、私……行かなきゃ』


「…麗ちゃん……ごめんね…!!わ、悪気はないんだ!!ただ、麗ちゃんと学校に行きたくて…」


『……恋雪ちゃん。明日、公園で会お?』


「…わ、わかった。ごめんね、麗ちゃん。」


『…ばいばい』


「…またね」



 セミが鳴いていた。


 夕暮れが、目に焼き付いた。




 僕は…


 僕は、やっちゃいけないことを


 してしまったんだ。


 そう、理解したんだ。


 嘲笑うかのように、ヒグラシが鳴いていた。

暴走、それは思春期であれば起こりえる事象だ。それでも、やってはいけないこともある。

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