07
「お祭りだ!」
十七時に会場に着いたから長く楽しむことができる。
いやぁ、どの県であったとしても、慣れない場所だとしても、こうしてみんなで集まるだけで楽しめるものだなぁと早くも内で呟いた。
「お待たせ」
「うぇっ、や、やぁ」
「む、なんでそんな反応なの?」
「べ、別に? ちょっと浮かれていたところを見られて恥ずかしくなっただけだよ」
駄目だ、あの日から彼が目の前にいるといつも通りではいられない。
でも、誘ったのはこちらだし、お祭りが開催されているのに帰るなんて選択をできないから無理やり腕を掴んで歩き出した。
「二十時まであるからちょっとゆっくりしたい」
「そうだね、急いでも意味はないよね」
生活費の中からちょこーっと使わせてもらう形になるから軍資金的にもその方がよかった、僕だっていつだって冷静に対応ができないというわけじゃないのだ。
「一緒にいられて嬉しい」
「ぼ、僕だってそうだよ」
ま、複雑なそれを忘れてしまえればそういうことになる、四月から安定して一緒にいられる友達ということで仲良くしたいという気持ちが強くある。
「だけどけんの態度が変で気になる」
「だ、だって」
「だって?」
僕からしたら大胆に動いた側がこんな感じで困ってしまう。
これならまだちゃんと分かっていてそのことでからかってくるぐらいの子の方がいいと言えた、分かっていない風だからこうなっているのだ。
「だ、だってさ……山本君が好き……だとか言うから」
もうこの時点で駄目だ、というか初めての夏休みがこれじゃあ駄目だろ。
だけど自分でどうこうできるようなことじゃない、あの発言がずっと残ってしまっていていつでも引っ張られている。
だからいま必要なのはここではっきりとしてもらうことだった、このタイミングを逃したら学校生活にまで影響が出るから駄目なのだ。
「事実だから、そう思っているのに隠しても意味がない」
「あ、あくまで友達としてなのは分かっているよっ? でも、なんか最近はずっと落ち着かない毎日でさ……」
「ん? うーん」
「そういうつもりはなかった」とか「勘違いしないで」でいい。
はっきりと言ってくれればこちらだって同じようなミスをもうしない、このことで迷惑をかけないと誓おう。
お祭りも真っすぐに楽しむことができる、仲のいい男の子同士のグループを見て変な想像をしなくて済むのだ。
いつも通りに戻ってほしいのであれば彼も頑張るべきだった、勝手に自爆的なことをしておいて馬鹿かと言われればそれまでのことだけどね。
「つまり、けんは僕が口にした好きだという言葉を重く捉えてしまったということか」
「ま、まあ、そういう感じもないわけじゃないよね」
「ふーん」
お、おいおい、間を作ってくれるな、それと自分で出しておきながらあれだけど会場でなにをしているのかという話だ。
向こうでは美味しい食べ物を買って食べたり、射的なんかをして楽しく一緒に来た人達と遊んでいるというのに僕らは人気の少ないところでこんなことをしている。
今更だけどお祭り前に解決しておけよという話だ、時間はあったのに何故先延ばしにしてしまったのかと後悔していた。
結局、口先ばかりの自分に呆れる。
「あ、お腹が鳴った」
「ふぅ、焼きそばでも食べようか」
「うん」
これでいい、少なくとも楽しもうとしているところに出すことじゃない。
焼きそばだけじゃなくかき氷なんかも買って戻ってきた。
ゆっくりと食べつつ、静かな方を見ていたらやっと落ち着けた。
「山本君はこのお祭りに毎年行っていたの?」
「うん、お兄ちゃんとお姉ちゃんが付き合ってくれた」
「いいね、僕なんてあっちのお祭りにほとんど一人で行っていたから羨ましいよ」
微妙だったのは一人で行ってもからかわれる、両親と行ってもそれはそれで言われるという連続だったことだ。
迷惑をかけたくなくていつからか誘うのをやめた、両親もそのことでなにかを言ってこなかった。
「あの子と遭遇したりしたの?」
「内宮さん? うん、会場がそこまで広くなくてもお祭りなら集まるものだからね」
「なにかを言われたりしなかった?」
「ないない、向こうだって楽しんでいるときに変なのと関わりたくはないでしょ」
「そうなんだ、それならよかった」
実際のところはそういう相手とばかり顔を合わせてしまうものだけどね。
それでも仕方がない、コントロールできるようなことじゃないからだ。
あとは美味しい食べ物を食べてしまえばどうでもよくなる――はないとしても片付けられるのが大きかった。
「今年は気にせずに楽しめるから――」
嬉しいよ、そう言おうとしたときのこと、急に「藤長君っ」と声をかけられて飛び上がりそうになった。
「あ……お姉さんでしたか」
「ごめん! それと、今日もこうといてくれてありがとう」
ほっ、よかった。
ただ、結婚をして出て行っているはずなのにここにいて大丈夫なのだろうかという余計な考え方をしてしまった。
彼のためだとは分かっていてもついつい、ね。
「いえ、僕がいてもらっているんです」
「ふふ、そっか――あ、楽しむのはいいけどあんまり遅くまで外にいないようにね、それじゃ!」
別に一緒でもよかったのに走って行ってしまった。
「今日、友達と会うって言っていたからだと思う」
「なるほど、それなら走るか」
「僕もけんと会うために走った」
「ごめん、僕はゆっくり歩いちゃったよ」
「別にいいよ」
彼が目の前に現れた途端に変な感じになるなんて露骨とも言える。
踏み込んでなんとか足を戻した状態だけど、次はないことは分かっていた。
そのため、この距離感からは変わらないということが分かって安心している自分もいたのだった。
「よし、課題終わり」
少し時間をかけてしまったものの、やらなければいけないことは終わった。
七月のときと違って余裕はないとしてもゆっくり休むことができる。
みかんやしもんも弱らずに元気でいてくれているからありがたい。
だけどたかは……。
「な、なんか余計に変な見た目になっていない?」
「今年の夏は暑すぎる……」
「能力を使っているわけじゃないのにそこまで弱っているのは心配だよ」
「いや、別に弱っているわけじゃないんだが、暑いんだ」
冬というわけじゃないからもふもふを抱きしめたりなんかしたら余計に暑くて気になるだけだろう。
つまりこういうときに最強のカードを使えないということだから困ってしまった。
「エアコンもなるべく使わないようにしているからなぁ」
「それも気にしなくていいぞ、ちょっと涼んでくる」
ああ、行ってしまった。
「けん君、こう君は今日来ないの?」
「約束をしていないからそうかもしれない」
「そうなんだ、じゃあたか君に付いて行こうかな」
「その場合は気を付けてね」
「うん、けん君もお出かけをするなら気を付けてね」
はは、飼い猫にこんなことを言われるとはね。
とにかく、これもたかのおかげだからできることがあるならしてあげたい。
暑さなんかどうでもよくなるぐらいの価値があるみかんならなんとかできるかも。
その場合だと特になにかができているというわけじゃなくなるけど、元気でいてくれるならそれでいいのだ。
「けん、動くつもりはないんだね」
相変わらずしもんの声が格好良すぎて慣れない。
僕なんかは中途半端で高いような低いようなという感じだから格好がつかなかった。
「うーん……」
「それもまた一つの選択だね」
分かりやすく問題にならない選択をしただけだ。
一方的に好意をぶつけられなくて山本君的にはいいし、僕も友達のままでいられるのだから悪いことじゃない。
「しもんは寂しくなかった?」
「途中からみかんも加わったけど最初から自分だけだったからね」
「なんか後悔していることってある?」
「そうだね、ないこともないけど口にするようなことでもないかな」
「ありがとう」
彼は「どういたしまして」と口にしてそれきりなにも言わなくなった。
じっと見られていても気になるだろうからと寝転んで天井を見ていたら「けん、開けて」と声が聞こえてきて玄関に向かう。
「よ、課題を終わらせてから来たよ」
「偉い、そんな君にジュースをあげよう、今日はケーキもあるよ」
「ジュースもケーキも大好き」
うんうん、口にしなくてもそれは分かるよ。
明らかにご飯を食べているときよりも楽しそうだから、って、そんなにじっと見ているわけじゃないけどねと内で言い訳をする。
「だけど残念だね、みかんは君が今日来ないのだと予想してたかとお出かけしちゃっているんだ」
「いいよ、みかんだって一緒にいたい相手と過ごしたいというだけでしょ」
「はは、それじゃあまるで山本君が僕と過ごしたいみたいに聞こえるよ?」
「その通りだよ、だから僕はここに来たんだよ」
はぁ、怖いなぁ、それと自覚をしてしまった身からすれば残酷なことをする子だ。
だけど悪いのは全て僕だ、全て隠して上手くやろう。
「しもん元気?」
「にゃ」
「そっか、けんのためにも長生きしてね」
そうだよ、求められないことなんかよりもその方が大事だ。
いなくなったらそれこそ家にこもりかねない、自惚れでもなんでもなくそうなったら彼が来てしまうから駄目だ。
「今日ね、お姉ちゃんが帰ったんだ」
「なんか安心したよ」
「うん、『流石にこれ以上は無理だから帰るけど、あんた、藤長君に迷惑をかけないようにね』って言っていた」
「お姉さんは一貫しているね」
「大人だから余裕がある、でも、僕は同じようにできない」
お? これはまたなんとも珍しい。
あれか、なんとか課題を終わらせてきたけど何回も脱線してしまって本当のところが分かってしまったということかと片付けようとしつつ、彼は元から勉強などが好きじゃないと分かっているはずだと否定をする自分もいる。
「本当は課題のことなんて嘘なんだよ、課題は七月中に終わらせていたから」
「じゃあ――」
「……けんがあんなことを言ってくるからだよ」
「それはごめん」
うん、本当にごめんよ。
だけど相手から出されてしまったら守り続けることはできないということも分かってほしい。
なんて、自分を守るためだけに動いていてとにかく自分勝手だった。
「待たせたな」
「ううん、来てくれてありがとう」
山本君と出会ったという場所まで出てきていた。
直接ぶつかると暗い顔になるからとりあえずはたかと、ということにした。
「なんか最近はぎこちないよな、原因を作ったのはどっちだ?」
「えっと……」
勘違いをして好きになってしまったこちらが悪いから原因となればやはりこちらになるのではないだろうか?
「まあいいや、いまのままだと気になるからどうにかしろよ」
「そう言われても……」
「はっきりとしてやればいいんだよ」
後か先かという話でしかないからたかの言う通り、はっきりしたとして、真っすぐに拒絶された場合にいままでと同じようにいられるのだろうかという不安がある。
まだまだこのままでいられるということならぶつかる――それはそれで相手のことを考えていないことになるけどずっと隠したままというのは無理だと分かったから。
しもんにあのように答えておいてあれだけど……僕はずっとこうだ。
「けんは少年のことを好きになったんだろ? それなら言うしかないだろ」
「でも、同性だからさ」
「同性を好きになっている人間がなにを言っているんだ?」
「……手厳しいね」
「そりゃそうだろ、いまのままのけんならみかん達に悪影響を与えるからな」
仮に一方的に告白をして一緒にいられなくなったとしてもそれも仕方がないことだ。
「山本君の家はここから近いから行ってくるよ」
「おう、俺はここで待っているぞ」
「先に帰っていて――あ、面倒くさい人間が見たくないなら出て行った方がいいかも」
「知らん、また後でな」
ふぅ、行こう。
九月にまで持ち込んだら小中学生時代と同じようになってしまうから今日、頑張るしかない。
敢えて別行動をして出てきたのも最初からこうするつもり――ということもないけども、うん、全てそういう風に考えてしまえば楽だ。
「はい――あなたもしかして藤長君……?」
「はい、藤長けんと言います」
「ちょっと待ってて、こうを呼んでくるから」
まだお姉さんの方がよかったけどどちらにしてもやることは変わらない。
「けん、珍しいね」
「ちょっといいかな」
「あ、じゃあ部屋で」
へ、部屋かぁ、でも、言い逃げは卑怯だから文句は言えない。
ただ、もう亡くなっているのに片付けなくていいのかと言いたくなる部屋ではある。
そのまま使用しているということならいいだろうけど、使用しないでそのままにしておくのも問題があるとかないとかそんな話を見たことがあるからだ。
「ちょっと待ってて、お茶を――」
「待って、すぐに帰るから大丈夫だよ」
「うん」
彼の部屋だから座ってもらってから好きだとぶつけさせてもらった。
もちろん、最初に決めていたように逃げたりはしない、じっと彼を見続けた。
「その好きって……」
「うん、男の子として好きなんだ」
いつでも「けん」とこちらの名前を呼んで来てくれていたのも大きいし、可愛い見た目にばきばきの肉体のぎゃっぷにやられたのもある。
小中学生時代に上手くやれていたらこうはなっていなかったかもしれないものの、それが実際のところだったのだから言っても意味はない。
安定して安心して一緒にいられる相手の彼を求めてしまっているのだ。
「ちゃんと言ってくれてありがとう」
「うん、聞いてくれてありがとう」
「でも、僕は――」
「ま――あっ、ごめん、止めないようにしようとしていたんだけどつい……」
強ければ本当にこんなことにはなっていなかったのにっ。
はぁ、どれぐらい時間がかかるのだろうか? 同性に告白をして振られたということで異性に告白をしたときよりも多くかかるよなぁ……。
いやでも馬鹿な自分が悪いからちゃんと聞いて帰ろう、たかはああ言ったら本当に待っているだろうから早く行ってあげなければならない。
「どうぞ」
「あのさ、僕がする方じゃないかなって、というかもうしたよね?」
「いや、あの好きは友達としてでしょ」
その好きが僕と同じならこうはなっていないのだ、今日も今日とて自分から求めて安心して過ごすことができていた。
「誰も友達として、なんて言っていないけど」
「待った、落ち着こう」
「うん、けんも落ち着いて」
それだ、落ち着こう。
とりあえずちゃんと逃げも隠れもせずに返事を聞いたからということでたかのところに行くことにした、何故かそのまま山本君が付いてきたけどずっと待たせたままになるよりはいいから気にならなかった。
「一緒にいるってことは上手くいったのか?」
「上手く……うーん」
「けんが勘違いをしていただけだよ、たか、行こ」
「お、おう」
帰るか、外にいても無駄に汗をかくだけだ。
家に着いたら緊張で硬くなっていた体をなんとかするために寝転んだ、するとお腹の上に彼とたかが座ってきて物理的にきつかった。
「なんで僕じゃなくてけんがここまで気に入ってくれているんだろう」
「そりゃ可愛げのある少――いや、俺に対しては可愛げなんて微塵もないがな」
こちらはこちらで素直じゃない。
「でも、僕は僕らしくいただけだよ?」
「からかってきたりしないからよかったんだろ」
「なるほど、だけど僕的には頑張らなくて済んでいいけどね」
「いや、頑張れよ、少年がそんな感じだからこそけんがこうなるんだぞ」
うんうん、自分云々と言うなら頑張らなければなにも始まらない。
今回はこちらが馬鹿で単純で一緒にいてくれれば気になってしまう人間だからよかったものの、そうでもなければなにも始まっていなかった。
「たか、というわけでけんはもう僕のだから」
「少年のだけじゃないだろ、俺とみかんとしもんと両親のだ」
「ご両親よりは無理だけど少なくとも他動物組には勝てる」
「当たり前だ、寧ろ同種なのに負けていたら虚しいだろ」
あ、うーん……個人的に言わせてもらえばみかんと彼が同じぐらいかな、だからといってたかやしもんに興味がないというわけじゃなくてと内で言い訳をした。
「けん君おめでとう」
「ありがとう」
「あ、だからといってたか君と、みたいなのはないから安心してね」
「そ、そう」
出会う前、付き合う前と同じだけの熱量で向き合うつもりだけど上手くできるかどうかは分からない、だから個人的に言わせてもらうとたかと仲良くしてくれた方がいい。
し、しもんはもうお爺ちゃんだし、家族だということでイケない関係のように見えてしまうから……って、こちらも同じだけど。
「おいみかんっ、お前はいつも無駄な一言が多いなっ」
「たか君なんて知らないよ、べー」
「おいけんっ、みかんになんてことを教えてんだ!」
好きな子が相手だと上手くできないということが今回のことでよく分かった。
だからたかがこうなってしまってもそれはもう仕方がないことだった。




