表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの番になりたかった  作者: 片山絢森
4.番の資格
19/32

19.望まぬ再会


    ***



 連れて行かれた部屋は、埃っぽくて薄暗かった。

 広さだけはあるけれど、どことなく息苦しい。床には厚手の絨毯が敷かれており、アイナはその上に投げ出された。


「痛っ……」

 打ちつけた肩が痛んだが、レフリレイアは鼻を鳴らしただけだった。


「下等な生き物は、近くで見てもやっぱり下等ね。叫ぶ声まで品がないわ」

「私を、どうする気ですか……?」

「髪も目も黒くて、獣のようだわ。本当にみすぼらしい小娘だこと。こんな小娘がギルフェルド様になど……そんなおぞましい話、あっていいことではないわ」


 レフリレイアは自分の艶やかな髪に触れ、満足そうに撫でた。そのまま、きっとアイナをにらみつける。


「お前のせいで、わたくしがあの方のご不興を買ったのよ。それどころか、お前に手出しをするななんて……。お前のどこにそれだけの価値があるというの?」

「私は、何も……」

「お黙り!」


 その瞬間、レフリレイアから怒気が放たれた。

 刺し貫かれるような衝撃に、アイナは思わず息を呑んだ。


 体が震える。息ができない。今すぐ目の前の相手に這いつくばりたくなるような恐怖と重圧。すさまじい冷気を浴びて、アイナは喉を喘がせた。


「竜気を味わうのは初めてかしら? 心配しなくとも、たっぷり味わわせてあげる。屈辱と絶望にまみれた中で、十分に思い知るといいわ」

「私に、何を……」

「お前、狼の番がいるのでしょう?」


 いきなり指摘され、アイナは驚いた。


「狼の国で暮らしていたけれど、番に疎まれて奴隷になった。そこから逃げ出して、この城へ来たのね。違うかしら?」

「どうして、それ……」

「それくらい、調べれば分かるわ。呆れたこと。番から逃げ出して、自由に生きようだなんて。これだから人間は駄目なのよ。番というものを分かっていない」


 あの忌々しい銀髪の娘もそうね、とレフリレイアは唇を歪めた。


「獣人とは違い、人間には番が分からない。それならば番に従い、番のために生きるのが当然ではなくて? それをただ一度の勘違いで疑われ、奴隷に落とされたからといって、番を捨てて逃げ出すなど、本来は許されないことなのよ」

「そんな……」

「まして、お前たちは人間でしょう。新たに竜人の番に選ばれるなどありえないわ」


 汚らわしい、と吐き捨てる。


「一度番を得たなら、死ぬまで尽くすのが当然でしょう。そこに人間ごときの意思は関係ないわ。お前も、あの銀髪の娘も」

「そんな……だって」

「妙な先例ができたから、誰もかれもが期待するのよ。お前がギルフェルド様の番だなど、あっていいはずがないのに……」


 ギリ、と唇を噛みしめる。


「お前が狼の番なのは間違いないわ。だとすれば、ギルフェルド様の番ではない。少なくとも、狼の番でいるうちはありえない」


 そうよね、と美しく微笑む。アイナは答えられず固まった。


「……確かに、私はガルゼルさまの番でした。でも……今、そうかどうかは……」

「いいえ、そうに決まっているわ。でなければ、そこの男が竜の国に入り込んでいるはずがない」

「え……?」

「始めなさい」


 レフリレイアの合図と同時に、アイナは絨毯に押し倒された。

 手足を押さえられ、うつぶせに押さえ込まれる。反射的に暴れたが、まったく歯が立たなかった。逆に力を込められて、強い痛みに息が詰まる。


「喜びなさい。お前に償いの機会をあげる」

 レフリレイアが唇を持ち上げた。


「やり直しをさせてあげるわ。今度こそ、己の立場をわきまえなさい」

「何、言って……」

「上を向かせて」


 レフリレイアの命令に合わせ、強引に体を返される。仰向けにされると、後ろにいた男の顔が明らかになった。

 アイナの腰にまたがり、膝で体を押さえつけている男。アイナを見とめ、小さく息を呑む気配がした。


 銀色の髪、柘榴(ざくろ)石の瞳。

 前王によく似た精悍な顔立ちと、日に焼けた浅黒い肌。


「ああ……」

 感極まった声に、アイナの目が見開かれる。


(どうして)


 どうして――ここに。


「アイナ……!」


 歓喜と熱情に満ちた声。それは。


「……ガルゼルさま……?」


 狼の国にいるはずのガルゼルが、満面の笑みを浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ