表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの番になりたかった  作者: 片山絢森
2.銀の髪、スミレの瞳
10/32

10.疑問


    ***



「アイナ様、どうされました?」


 その日の夜。

 じっと考え込むアイナに、ファナが不思議そうな顔になった。


「今日はあまり食欲もなかったようですし、何か心配事でもございますか?」

「いえ、そうじゃないんですけど……」


 ファナに聞いてみたかったが、口止めされていた事を思い出す。王子殿下方にもという事は、彼らにも相談できないだろう。


 あの人影を見かけたのはたった一度。

 人目につかないようにしていたけれど、幽閉されていたわけでも、拘束されていたわけでもない。だとすれば、ある程度城の中を自由に動ける人間だ。


 アイナに口止めをし、詮索を禁じた。その理由は。


(やっぱり、私に知られて困る相手ってことだよね……)


 でも、この城に知り合いなんていない。

 ファナやジェイドはともかく、他に知っているのはギルフェルドくらいだ。顔見知りになった侍女や女官もいるけれど、そう数は多くない。そもそも、名前すら知らない相手だ。


 心当たりなんてないのに、会うのを禁じられている。

 それどころか、存在を隠されている。

 そこに隠されているものはなんだろう?


(それに)


 なんとなく、引っかかるものがあるのだ。

 それが何かは分からない。けれど、もやもやとして落ち着かない。


「どうした」

「わっ……!?」


 ふいに耳元で囁かれ、アイナは飛び上がるほど驚いた。


「ぎ、ぎ、ギルさま……っ?」

「考え事をしているようだったので、声をかけなかったが。何かあったのか」


 見ると、ギルフェルドが部屋に入っていた。

 いつ来たのか、ノックの音には気づかなかった。相変わらず神出鬼没だ。夜だというのに、正装のようにかっちりとした服装をしている。ファナは部屋を出たらしく、細く扉が開いていた。


「すみません、ぼうっとしていて……」

「構わない。それよりも、どうした」

 真顔で問われ、アイナが言葉を詰まらせる。


「いえ別に、何も……」

「前に言わなかったか。私はお前のいる場所が分かるが、考えていることもよく分かる」


 言ってません。

 反射的に思ったが、それ以上にどきりとする。


 昼間見ても美しい瞳は、夜に見ても格別だった。

 淡い陰影が刻まれて、一段と深さが増している。その中に散らばる黄金は、夜空を埋め尽くす星々のように鮮やかだった。


 思わず見とれると、「どうした」と再度聞かれる。アイナは慌てて首を振った。


「すみません、つい。見とれて」

「見とれる」

「ええと、その……瞳が綺麗だな、と」

「瞳が、綺麗」

「夜空みたいで、星がキラキラしているように見えて、素敵だな……と」

「素敵」


 なんでこの人はいちいち復唱してくるのか。

 おまけに、本人は無自覚なのがタチが悪い。今も無表情のまま、言われた言葉を繰り返している。さすがにいたたまれなくなって、アイナは顔を赤くした。


「……もういいです。私の口がすべっただけです……」

「待て」

 背中を向けると、静かな声で呼び止められた。


「お前に褒められるのは、嫌ではない」

「……え」

「よく分からないが、心が浮き立つ。私はどうやら、お前に褒められるのが嬉しいらしい」

「……は」


 何を言っているんだこの人、と思った。

 だが、ギルフェルドは真面目な顔をしている。どうやら冗談を言っているわけではないらしい。こちらがたじろぐほどの美貌に見つめられ、アイナはあいまいに頷いた。


「それはまぁ……褒められたら嬉しいです、よ、ね?」

「他の者に褒められても、このような気持ちになったことがない。私は、お前に褒められるのが嬉しいらしい」


 彼は同じセリフを繰り返した。相変わらず、真顔だった。

 対するアイナは戸惑っていた。いや、全力で困惑していた。


 彼が何を言っているのか分からない。いや、理解はできるのだが、なぜそんな事を言うのか分からない。もっと褒めろという事だろうか。それとも単なる感想だろうか? 褒めてほしいという事なら、ねだられている? 褒めるのを? この人に?――まさか、ありえない。


 ひたすら困惑するアイナをよそに、「心地よかった」と彼は真顔で言った。


「お前は私の客人だ。何か願いがあれば言うといい。できる限りは叶えよう」

「いえ……もう十分すぎるほどしていただいているので」

「お前は無欲だが、もう少し自分の意見を持っていい。そちらの方が、皆喜ぶ。特に、ファナは」

「ファナさんが?」


「力の優劣は関係ない。お前の願いを聞くことが嬉しくて、お前のために動きたくてたまらないそうだ。好んだ相手に尽くしたがるのは竜人の性だ。できれば構ってやってほしい」

「それは、もちろん……」

「ファナはお前の世話をすることを楽しんでいる。ジェイドもお前を気に入っていた。――それから、私も」

「え」


 目を上げると、ギルフェルドはアイナを見つめていた。

 どうしてだろう、その瞳が先ほどよりも輝いて見える。


「お前を連れてきたのは私だ。お前がしたいことは叶えるし、できる限り希望も聞く。その上で聞こう。アイナ、お前は今、何がしたい?」

「私の、したいこと……」



 ――あの銀髪の人の正体が知りたい。



 どうして秘密にしておくのか、そこに隠された理由を知りたい。

 それはギルフェルドのような勘だろうか、それとも。


「ギルさま、ひとつお願いがあります」


 アイナの声に、ギルフェルドが目を向ける。

 すう、と息を吸い、アイナは口を開いた。


「実は――」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ