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空の神兵

夜になると、男子寮で風呂上がりに先輩達に指導してもらっていた。

三浦(みうら)先輩が俺を見てさらりと言った。

「佐々木ってデカイよな」


身長じゃない事は分かりきっている、何を言われているのか分かっているけど聞き返した。

「何がですか」


「アレ……」北川(きたがわ)先輩が察しろと言ってきた。


木口(きぐち)先輩も察しろとツッコミを入れてきた。

「戦闘服がレオタードだから目立つよな」


俺はチビなのにアレだけはデカイ……

俺が男として唯一誇れる美点だ。


江下(えした)先輩が変な事を聞いてきた。

「いつも立花遙香(たちばなはるか)と組んでるけど付き合ってるのか?」


俺はぶっきらぼうに答えた。

「付き合っていません、立花も首席を狙ってるから、衝突するだけです」


北川(きたがわ)先輩が酷い事を言ってきた。

「巨乳と組めるの羨ましい!」


「邪魔で羨ましくありません!」


作江(さくえい)先輩は『ぷっ』と吹き出しそうになって俺を笑った。

「巨根と巨乳のカップル……」


木口(きぐち)先輩も悪ふざけをしてきた。

「巨乳の戦車兵って珍しいよな」


「二年と三年には居ないんですか?」


「戦車兵は痩せてるから居ないな」


「普通なら入学出来ないだろ」


「立花のオッパイって戦車のハッチに引っかからないのかな?」

言われて見ると、立花は身長だって規定ギリギリまで大きいし、体重もありそうだ。

身体測定で不合格にならなかったのが不思議だよな。


作江(さくえ)先輩が軍人らしい事を聞いてきた。

「佐々木は陸軍を目指しているのか?」


「当然です、戦車と言えば陸軍です」


作江(さくえ)先輩は少し残念そうに言った。

「そうか、僕は空軍志望なんだ」


俺は意外な話に驚いた。

作江(さくえ)先輩は空軍戦車兵を目指していたんですか」


江下(えした)先輩が事情を教えてくれた。

作江(さくえ)は初代空軍大臣になられた園田直(そのだすなお)閣下に憧れて入学したんだ」


俺には聞き覚えのある軍人だった。

「剣号作戦で敵飛行場に決死の空挺降下をなしとげ東京空襲を阻止した園田閣下ですか」


作江(さくえ)先輩は嬉しそうに語り出した。

「佐々木は園田閣下をご存じか!」


俺も力強く返事をした。

「はい、軍人として基礎教養です」


作江(さくえ)先輩は目を輝かせていた。

「空挺戦車はブリキ缶と言われるけど大好きなんだ」


俺も嬉しくなって答えた。

迅雷(じんらい)空挺戦車の活躍は存じております!」


江下(えした)先輩は容赦なくツッコミを入れてきた。

迅雷(じんらい)空挺戦車は戦後になって杉本五郎の軍記物に登場した俗称だぞ、制式名称は特三号戦車だからな」


俺が容赦のないツッコミに押されると、作江(さくえ)先輩は俺の無知をかばってくれた。

「現代の70式空挺戦車は制式に迅雷(じんらい)の名前が与えられているからいいだろ」


寮監が親切に教えてくれた。

「空軍に行く卒業生は毎年1人だけだが、作江(さくえ)で決まりだろう」


俺は意外なほど難関な事に驚いた。

「1人だけですか、精鋭ですね」


作江(さくえ)先輩は少し残念そうにしていた。

「不人気だからだよ、空挺戦車部隊は12輌、一個中隊しかないからね昇進は諦めるしかない」


江下(えした)先輩が残念そうに作江(さくえ)先輩をなだめた。

「皇軍の歴史上、空挺戦車が実戦に出たのって剣号作戦の一回しか無いよな」


先輩達は次々と残念な事実を並べ始めた。

「空挺戦車でも無双出来たのはアメリカ軍の飛行場警備隊が小火器しか装備してなかったからな」


「たった一回の強烈な成功体験から空挺戦車を維持してる感じだよな」


「空軍に戦車があるのって園田閣下が空挺部隊出身だからだろ」


「空軍設立時に陸軍航空隊と一緒に空挺旅団まで付いていったからな」


三浦(みうら)先輩が残念な事を言った。

「空軍が出来た一番の理由って、パイロットじゃ将官になれないからだよな」


「空軍が出来る前は大佐どまりだったもんな」


「それで海軍航空隊も移籍したんだよな」


「海軍は戦艦か空母の艦長経験が無いと将官になれないからな」


「ソレを言ったら、俺たち戦車兵なんて中佐どまりだぞ」


北川(きたがわ)先輩は残念そうにしていた。

「ああ、将校になっても戦車大隊の大隊長より上は無理だからな……」


「チビじゃ歩兵が言うこと聞いてくれないか」


先輩達の話題が暗くなってきたから、俺は作江(さくえ)先輩の期待に答えようと話題を振った。

「俺は富士の大演習で空挺戦車が降下するのを見ました」


「そうか、格好よかったよな」作江(さくえ)先輩は嬉しそうだ。


北川(きたがわ)先輩は微妙なツッコミを入れてきた。

「空挺戦車は年一回しか降下訓練やらないから貴重だよな」


北川(きたがわ)先輩の言葉に作江(さくえ)先輩が抗議した。

「園田閣下はぶっつけ本番で成功させたんだぞ、シミュレーターがあるから訓練に問題はない」


北川(きたがわ)先輩は厳しいことを言い出した。

「やっぱり予算がないよな……」


江下(えした)先輩も微妙な顔をしていた。

「空挺戦車はバカ高いジュラルミンとチタン合金の塊にガスタービン・エレクトリック駆動で一両14億円もするのに、落下傘事故が起きたら全損だろ、怖くて出来ないよ」


先輩達は残念なほどネガティブだった。

俺は先輩達に突きつけられた現実に少し失望した。

これが平成32年の皇軍なんだ……


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