0 婚約破棄(※ただし想定内)
連載版始めました。
のんびりお付き合いいただければ幸いです。
「レベッカ、僕は今、この瞬間をもって君との婚約を破棄し、君の妹・フローラと婚約する」
卒業生の送別パーティーの真っ只中。
最後まで壁の華でいたかったのに、有無を言わさずずるずると中央に連れ出され、それでもできる限り空気と同化しようとしていた私の努力も虚しく、冒頭のこれである。
(だから言ったじゃない……)
心の中でそう毒づきつつ、私の隣で俯きがちに肩を震わせている男を半目で見遣る。ヒールでその足を思いっきり踏みつけたい衝動に駆られたが、この場で不敬をするわけにはいかないと、何とか抑え込んだ私を誰か褒めて欲しい。
小さく咳払いをして、淑女の微笑みを浮かべて声の主へ向き直った。
「……申し訳ありません。よく聞こえませんでしたわ。もう一度おっしゃっていただけます?バ……パトリックさま」
「何度でも言ってあげるよ。君との婚約は破棄だ。僕はこの、愛するフローラと結婚する」
危ない、いつもの癖でバカって言いそうになったわ。
ていうか愛するとか言っちゃってますけどこの人。婚約者がいる身分で堂々と浮気していました、と宣言したようなものですけど。しかもこんな大勢の方々の前で。
まあ今さらと言えば今さらなのだけど、それにしても頭大丈夫かしら……と本気で心配になってくる。そんな私の視線をどう勘違いしたのか「今さら同情を引こうとしても無駄だよ」なんて言葉が返ってきた。なかなか重症らしい。
「ごめんなさいお姉さま、わたし、パトリックさまを愛してしまったの……」
眉を八の字にし、目薬でもさしたのか?と言いたいほど無駄に潤んだ瞳でパトリックさまの後ろからおずおずと申し出てきたのは、案の定異母妹であるフローラ。
鈴の音が鳴るような可愛らしい声は、私には逆立ちしても絶対に出せない。やはりこういう、庇護欲を掻き立てられるタイプの方が男性は好ましいのだろうか。でもこの演技を見破れない男性は、悪いけど本当に見る目が無いと思うわ……。
というか、やっぱり今日も当たり前のようにパトリックさまの隣にいるのね。
「ショックで言葉も出ないようだね。でも元はと言えば君が悪いんだよ、レベッカ。魔力を持たないからといって妹を妬み、あまつさえ虐げていたそうじゃないか。そんな悪魔のような女、絶対にお断りだよ」
「パトリックさま、それは言わない約束ですっ!」
「大丈夫だよフローラ、僕に任せて。もう絶対に君を傷つけさせたりはしない」
「パトリックさま……」
呆れて返す言葉も見つからないでいると、目の前で勝手に愛の劇場が開幕していた。別にいいけど、そろそろ周りとの温度差で風邪を引きそう。お二人さん、ここは学園ではないのよ。
そんな感じでとにかく周りの見えていない残念な二人と、未だに笑いのツボから抜け出せないでいるらしい隣の男を見て、私の口からは思わず大きなため息が漏れた。
何故こうなったのか。
事の発端はおおよそ半年前に遡る。
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