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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ミエヌモノ

作者: 左之

私は生まれつき目が見えない。そんな私を村は忌み嫌った。この村では眼は神聖なものであり視力のない私は邪悪なものとして扱った。そんな私が口減らしされなかったのは(ひとえ)に両親のおかげである。両親はそんな私の事も満遍なく愛を注ぎ込んだ。私は幸せ者だ。

だがそんな幸せは永くは続かない。村中に流行り病が蔓延した。例に漏れず母が感染した。母の乾いた咳は日に日に酷くなる。たいした仕事は出来ないが母の看病に全力を注ぐ。萎れた優しい声でありがとうという母の声は弱くなるばかりであった。そんなある日起きると隣の身体が冷たい。先に死んだのは父だった。食い扶持3人分の仕事と薬代、1人の手にはあまりに重労働だと気付いたのは父の死んだ後だった。その後、母は後を追うように亡くなった。


全てを無くした私を村人は生贄として差し出そうとした。昔、父から聞いたことがあった。近くの山の頂上にある井戸の中には邪之神が住んでいる。生贄を捧げる事で願いを叶えてくれると。村の男衆に交代で担がれ井戸に着く。全てを無くした私には逃げる気力はなかった。白装束というものに着替えされ、村長が祝詞を唱える。


そして井戸に突き落とされた。ああ、もし天国に行けるなら父と母ともう一度暮らさせてください。


ーーー



ここが天国というやつだろうか。そうはいったものの目は見えないのでよくわからな。湿気をおびているものの変わらず山の匂いが漂っている。


「お主は新しい生贄か?」


下方から聞こえたその声は周りに響き、何重にもこだまする。


「は、はい。左様であります」


「なんとも哀しい顔をしておる。悔いは無いという顔だな」


私はコクリとうなづく。これが邪之神とやらなのかと少し緊張してきた。威厳があり重々しい声だが恐怖はさほど感じない。


「名は?」


「はい?」


「名前は何という?お主名前はないのか?」


「あります。一緒の緒に心で緒心(つぐみ)です。思いやりのある子になるようにつけられました」


思いがけない質問に動揺する。名前など父と母以外から気にされたことすらなかった。その後に放たれた言葉は更に私の心を揺れ動かす。


「ふむ悪くない名だな」


自然と顔が緩む。私に残してくれた数少ないモノを褒められて私はこの上なく嬉しい。


「妙な奴だな。なぜ笑っておる。正直、気色が悪い」


若干引き気味な邪之神さまは正直に述べた。緩んだ頬を下に引っ張り顔を戻そうとするが口角は言う事を聞かない。


「私の両親は死にました。そんな両親が残してくれたモノを褒められて私はどうしようもなく嬉しいのです」


「なるほど、お主は不幸であったしな。そもそも、お主はわしの姿を見ても怖くないのか?」


「怖いですか?私は生まれつき盲目のため、姿はわかりません。それに・・・。あなたからは敵意を感じません」


私が生まれてから絶えず浴びてきたそれは目が見えなくても痛いほど()()()。そんな村人が日夜放ってきたものを皆に恐れられる邪之神とやらからは感じない。むしろ両親に近いもののように感じられる。


「そもそもあなたはどんな見た目をしているのですか」


皆から嫌われているそれは私のように醜い風貌をしているのだろうか。それとも鬼のように荒々しく根底的な恐怖を呼び覚ますのだろうか。


「お主はさっきから触っとろう」


はて・・・?


360度回りながら手を振り回すが何も触れるものはない。


「なるほど幽霊というやつなのですね!それは大変な無礼を働きました。誠に申し訳ございません」


土下座の姿勢をとり、今までの行いを詫びる。勝手に実体があると思い込んでいたが確かに常世の存在なら霊体だということも考えられる。今まで身体を突き破っていたと考えると少し笑えてくる。

いかん…耐えろ、私。


「何を馬鹿な事を言っとる。下じゃ、たわけが」


下?土下座の体制のままに少し触感を確かめる。


モフモフ?


化物は硬かったり、ドロドロしてたりそんなものを想像してたがあろうことかモフモフしてる。


私はその体制のまま大きく息を吐きこむ。


「お主どうしたのじゃ?なっ」


そのままの勢いで深く息を吸い込む。香ばしく何とも癖になる匂いだ。全身の細胞に酸素と謎の栄養素が巡っている。久しぶりの栄養素で身体中が活性化しているのがわかる。


「辞めぬか。流石に無礼ぞ」


ブヘッ


後頭部を軽く打たれ、モフモフから落とされる。今のはもしかして尻尾か?尻尾なのか?


「お主はもっと暗い奴だと思っていたがいや、従来はそういう奴だったの」


「先ほどからなぜ私の事を知ってるような口振りなのですか?」


先程からの妙な言葉遣いに疑問を口にする。


「わしはお主らの事をずっと見ておったからな。わしは元々は村を守護する神であったがいつしか忘れられて…邪之神と呼ばれておった」


元気のないその声は先ほどの自分と重なる。考えるより先に声が出ていた。


「名前は?貴方の名前は?」


「フッ。生意気な小娘じゃ。わしの名は伊奈利(いなり)じゃ」


「ふむ、悪くない名じゃな」


「お主馬鹿にしとるのか?」


伊奈利さまの声を真似して返してみたが予想以上にお怒りのようだ。 


「すみません、でも本当に良い名だと思います」


「自分の名が褒められるというのは存外悪くないのー」


笑う伊奈利さまは邪之神というには晴れ晴れらしく感じられる。そんな伊奈利さまをこんな所にいさせて良いのだろうか。


「伊奈利さま。私を食べるのはいつでも出来ます。でもそうしたらまたあなたは1人になってしまう。あなたは悔いがないかを私に初め聞きましたね。今の私には貴方の1人残すのは悔いとなります。どうか私を救って下さい」


「久しぶりに人に純粋に願われた。小娘、1人の願いも叶えれなかったら神の名が聞いて呆れる。良かろう。伊奈利の名の元にその願い叶えてやる」


こうして緒心と伊奈利の生活が始まった。



恋愛描くはずが全然恋愛してないかもです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ト◯ロ的な不思議生物を想像してほっこりしました(*´ω`*)
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