ギフテッド 帝都ランドベルク
鬱蒼とした森に突如現れた巨大な壁……カナタ達は帝都ランドベルクまで到着した。旅程としては4日を有したが、女子3人の旅である、これと言って気を使う事もなくここまでやって来た。
「カナタ様、そろそろ帝都の東門が見えますよ」
「そうか……」
帝都ランドベルクには大きな門が6ヶ所設置されている。ここ、東門は港町ミルックに続いていて、ちょうど反対の西門が共和国へと繋がっている。北側には門がない。南には4つの大門があり、それぞれの帝国領内へと繋がっている……そして、東門から西門まではかなりの距離があるのだ。
「でも門に着く頃には日が暮れますね。開いてないかも知れません。どうしますか?」
「仕方ない、今日はこの辺で過ごすとするか。ヒナコ、野営の準備を」
野営も5日目なので慣れたものである。ヒナコはテントを張っている。カナタは食料となる小動物や魚を穫りに行き、シオリは野草や木の実を採りに行く。それぞれが得意分野で分業制、効率がいい。
「シオリ、今日は近くに川があったので魚にしたぞ、後は頼んでいいか?」
「カナタ様、おかえりなさい! あとはお任せくださいつ!」
料理はシオリの担当である。カナタもヒナコも料理が苦手、2人が料理をするとぶつ切りのごった煮が出来上がるが……シオリは見た目も味も良くしてくれる。
「カナタ様、おかえりなさい」
「ヒナコ、1日中馬を走らせてるお前は疲れているだろ。私に構わず休んでろ」
ヒナコの担当は馬車と馬の世話、野営の準備。1番労働時間が長く体力を使う。馬車を御している時に居眠りでもされたらたまらない、旅程も無理のない範囲で移動してきた。
「みなさ〜ん、出来ました! ご飯ですよ〜」
切り株の簡易テーブルに食べ物が並んでいる。豆と野草はサラダに、大きな魚は切り身になって香ばしく焼き上がっている。なにかの葉に巻いて焼いたようで、その葉がそのまま器になっている。
「おー、さすがシオリだな。今までで1番美味しそうだ」
「港町の出身ですからね! 魚料理は得意なんです」
「シオリはいい嫁になりそうだ! どうだ、私の嫁にならないか(笑)」
「またぁ、ヒナコさん、やめてくださいっ! でも流石ですね〜ロマンス詐欺師は伊達ではないです……そんな目をして言われると私もその気になっちゃいそうです(笑)」
ヒナコはどうだ、と言わんばかりの表情をしている。シオリとは年齢差もあったので当初は心配したがとても仲良くなっている。シオリの処世術を見ていると……今は亡き師匠を思い出す。
「よし、食べたら早めに寝よう。明日の夜明けと同時に帝都に入るぞ!」
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次の日、夜明け前に起きたシオリは……寝ぼけながら馬車に揺れていた。シオリの唯一の弱点は、寝起きが悪い事である。こればかりは直らない。
「シオリ、そろそろ大門に着く。街に入るぞ」
カナタに叩き起こされ、寝ぼけながら支度をした。朝日が上がっている途中だというのに多くの人々が並んでいる。どれくらいかかるのであろう……下手すると今日の大門通過は無理そうである。
「ヒナコ、通行証あるか?」
「はい」
「あそこにいる門番にこれを見せてこい。少しは早くなるはずだ」
ヒナコさんは通行証を持って門番のところへ行った。何やら話しているが……門番は慌てて詰所の方へ走って行ってしまった。ヒナコさんが戻ってくる……。
「ヒナコ、どうだった? カイゼルが話してた通りになりそうか? かなり早く入れると聞いたぞ?」
「分かりませんが……」
そんなやり取りの最中の出来事であった。帝都の大門には通用門とは別に大きな門がある。恐らく軍隊や大臣クラスが往来をする門であるが……そこが開いた。
門番の詰所からは100名を超える衛兵が出てきて、通用門でない大きな門に整列し始めた……。
(誰か要人でも出てくるのかな…………)
シオリは相変わらず眠い。
そして門番が戻ってきて馬車に近づき……片膝をついた。
「よくぞお越しくださいました。カイゼル将軍の賓客であらせられるカナタ様、シオリ様、ヒナコ様。皇帝から国賓として遇せよと命を受けております……どうぞ、こちらから街に入場くださいっ!」
シオリはたまげて仰け反りそうになり……流石に眠気も吹き飛んだ。ヒナコさんも仰け反っている。カナタ様は……驚いた様子だが、どちらかと言うと困惑気味であった。どうせまた、ヒナコさんを偽カナタ様にして街を探ろうとか思っていたのであろう……。
「おい門番、街に入れるのはいいが……もしやこのまま城に連れて行かれるなんてことは無かろうなっ!」
カナタの言葉にシオリもドキリとする。城には興味がある、が、皇帝陛下との謁見や貴族からの歓待があったらと思うと暗い気持ちになる。
「何を仰っいますか。カナタ様御一行は最上位の国賓であらせられます。これから近衛隊長のグレインという者の先導でシュトラウト城にご入場ください」
これまでの気楽な旅が一転することが確定した。