ギフテッド 親睦会
「いやー、久々やー、こんなに美味い酒は(笑)」
「そうですなー、カナタ殿、グラスが空ではないか……それそれもう一献(笑)」
シオリは港近くにある酒場にいる。初めて入る酒場、木のカウンターの後ろにはキラキラした酒の瓶がたくさん並んでいる。思ったより明るい店内の片隅でシオリは小さくなっている。カナタ様もカイゼル将軍も酒に飲まれて……楽しくしている。
シオリは別に萎縮している訳ではない。むしろワクワクが止まらない……大人の空間、それが刺戟的であったのだ。それに……酔っ払いを観察するのは無性に楽しい……クセになりそうだ。
「よおー、シオリ お前も飲んでみるか(笑)」
「カナタ殿、それは可哀想でございます(笑)、もっと薄めたやつなら飲めるのでは(笑)」
(こりゃ近づくとロクな事にならないかな。無視しよう)
戦いを通してカナタ様はカイゼル将軍とすっかり意気投合してしまった。事情を知ったカイゼル将軍は帝国領内のフリーパスの通行手形を条件に酒を飲み交わそうとカナタ様に迫ったのだ。カナタ様はその提案を快く受け入れた。
行き先であるノールダムは帝国領内を横断し、共和国を通過しないとならない。共和国からノールダムまではかなりの距離がある、帝国領内はなるべく早く抜けるのがベストである。
「シオリちゃん……アナタ可愛いわね! お姉さん惚れちゃいそう(笑)」
「ヒナコさん、大丈夫ですか? ロレツが回ってないですよ? はい、これ、お水です(笑)」
今度はヒナコさんに絡まれている。ヒナコさんはカナタ様の従者で、出会った時は勇者一行の1人を名乗ってニセモノを演じていたが……意外に美人さんである。だが、ヒナコさんもお酒の力で常人ではない変人と化している。
ヒナコさんは酔い覚ましにお水を飲んでいる。シオリはその水に少しだけ催眠の魔法を混ぜ込んでいた。水を飲むとヒナコさんは眠ってしまった。
「なんだ、ヒナコ、お前そんな弱かったか(笑) シオリ、寂しいだろ、コッチコーイ」
「はぁ~い」
シオリは呆れ顔でカナタ様とカイゼル将軍の間に座った。この2人にはバレてしまうので催眠の魔法は使えない。暫し、我慢するしかない。
「シオリちゃんはラッキーだな、カナタ殿のような師匠がいて(笑) あの剣さばき、みたか? ありゃ普通見えんよな(笑)」
「カイゼル殿は一太刀見切ったのだ、私の剣を受けるなど大したものだな(笑)」
カナタ様は特にご機嫌である。シオリもその戦いは固唾を飲んて見守っていた。凄まじい剣。
「そうですね(笑) カナタ様の剣は常軌を逸してます! 一太刀目を受け止められたから、二太刀目で兜を割って、最後に剣を折るなんて……奇人ですよ(笑)」
そう話した瞬間、2人の顔が真顔に戻った。
「シオリ……あの剣の太刀筋が見えたのか!」
「え? 一瞬迷ったのも見えましたよ(笑) 先に剣を折ろうとしてましたよね? 返して兜を先にしましたけど」
2人の不思議な反応に首を傾げる。
「そうかー、見えてたかぁ(笑) お前、いいオンナになるぞ(笑)」
カナタ様はまた元の酔っ払いに逆戻り、変なことを口走っている。カイゼル将軍も同じように酔っ払いに戻った。
親睦会は夜まで続いた。シオリは夜更けになる前に眠くなってカイゼル将軍が用意してくれた宿に戻り、目を閉じた。
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「昨日はお急ぎのところ引き止めてしまい申し訳ない。これが通行証だ。私の刻印があるから帝国領内の城門で待たされる事もなかろ 道中気をつけて!」
昨夜は殆ど徹夜であったがさすが勇者の剣と呼ばれるだけある、カナタ殿はケロッとしている。
「いや、通行証は本当に有り難い。イチイチ名乗らなくても済むし、旅程が半分くらい短縮される」
「また帝国に来られる事があったら会いましょうぞ! 帝国は融通効かないからな、困ったことあったら遠慮なく頼ってくれ」
カナタ殿はニコッと笑いカイゼルに握手を求めてきた。剣を交えたこそ培われた剣の絆を改正は感じた。
「そうさせてもらおう」
「それと、シオリ殿…………そうだな、いいオンナになれよ(笑)」
シオリという少女にはかける言葉が思いつかなかった。ギフテッドなのは昨日の会話から理解した。
「はい、傾国の美女目指します(笑)」
「ハハハ、そうか! 帝国もシオリ殿に滅ぼされれば本望だろ(笑)」
何とも愉快な少女である。カイゼルはまたどこかで……この少女と会うような気がした。
「では出発だ。ヒナコ」
こうしてカナタ殿とシオリ殿は大門を出ていった。
「将軍、やはり勇者の剣は伊達ではありませんでしたね。私も凄い体験をしました。あの少女、羨ましいですな(笑) 10年後に皇太子の妃になれるだけの美人になりそうですし」
「そうだな。傾国の美女かぁ……もしあの少女なら、帝国を滅ぼすなど、5年もあれば容易だろ(笑)」
あの少女……カナタ殿よりも遥かに恐ろしい。仮に帝国と敵対するような立場になったらと思うと〜背筋が凍る……カイゼルはそうならないことを願うのみであった。