ギフテッド 旅立ち
予定通り1話投稿です。
ミナはシオリの出発を急いだ。この街の衛兵には神父が話をつけてシオリの逮捕を見逃してもらったが、帝都から来る治安部隊には神父の力も及ばない。もし治安部隊が到着しシオリを無理矢理にでも拘束するようなら……また惨事になりかねない。
「シオリ、持ち物は最低限にしなさい」
「うん。母さん、必ず戻ってくるね。私の夢はこの街の学校の先生になることだから……母さんと一緒に(笑)」
「シオリ、そろそろ出発するぞ。お母様、それでは娘さんを私が必ずノールダムまで送り届けます」
「カナタ様、よろしくお願いします」
情報では治安部隊が到着してもおかしくない日数が経っている。あまり感傷に浸っている時間もない。
出発の直前、神父がやってきた。
「治安部隊はそこまで来てる。早く発った方がいい……シオリ、元気でな。カナタ様の言い付けをちゃんと守るんだぞ(笑)」
神父がシオリにお別れの挨拶をしていた時〜急にシオリは神父に抱きついた……
「今まで……見守っててくれてありがとう…………必ず戻るから、元気でいてね…………パパ…………」
ミナは驚いた。シオリが気付いていたとは……偽装は完璧だった。この街の誰にも伝えていないが、やはり血縁とはそう云うものなのか……。
「あぁ、分かった。我が娘よ(笑)」
「これで言い残したことはないな。では出発する。ヒナコ、馬車を…………」
カナタ様はそう言うとシオリを連れて馬車に乗り込んだ。もう二度と会えないかも知れない愛しの娘、しかし旅立ちはいずれ訪れる事と悟っていた〜それが少しだけ早まっただけ。ミナは笑顔で送り出すことにした。
「待ってるね〜」
ミナは馬車に向かって大声で叫んだ。
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「カイゼル将軍、主力部隊も街に到着しました。ご命令を!」
「まず街を封鎖しろ。トコヤミ教の残党がいるかも知れん。それと危険分子の捜索だ。俄には信じ難いが、報告が事実ならその者を捕らえなければならん」
カイゼルは上級将校にそう命じると、自らは街の門の封鎖に加わった。街の衛兵詰所には別の上級将校を使いに送っている。そして自らは戦闘が起こる可能性の高い門にワザワザ残ったのである。
この街にはある噂がある。救国のミゲル大提督が潜伏している、という噂である。カイゼルは街の大門を封鎖した後、市場を視察した。人はまばらであるが、店は開いていて品物も豊富、港町の市場特有の魚嗅がする。
「おい店主、その干し魚をくれんか……」
「兵士様、ありがとうございます。300リアルになります」
「ところで店主、普段もこんなに静かなのか……」
「普段はですねぇ、この時間かなりの人手なのですが、やはり……」
「そうか。私達が来たせいか……すまんな。用が済んだら帝都に戻るからそれまで我慢してくれ……これ取っておけ」
カイゼルは銀貨が入った袋を店主に渡した。ざっと10万リアルはあるだろう。市場から港までよく整備されている、そろそろ大門に戻ろうとした時……危険を知らせる狼煙が上がった。カイゼルは急いで大門に向かった。
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「貴様ら、早くここを通せ!」
一足遅かった……カナタは門の手前で帝国の治安部隊に停められてしまった。ざっと50人くらいか……兵士に囲まれてしまったので、まず攻撃されないよう防御魔法を馬車の周囲に展開した。その場を仕切っている兵士に通せと迫ったが、その権限がないのであろう……押し問答になっている。
「ふざけるな女。ここは我々の監視下だ、通すことは出来ん。立ち去れ!」
「貴様では話にならん……もっと偉いやつ連れてこい」
「何! オンナだと思って下手に出ていれば、ふざけた事を」
兵士はカナタに剣を振りかざした。刹那……振りかざした剣は兵士の後ろの方に突き刺さった。何が起きたのか……取り囲んでいた兵士は意味がわからない。
「貴様……部隊を全滅させたいかっ! 何も言わずに通せ」
今度は多くの兵士が剣を向ける……カナタはうんざり、勇者パーティの者だと言っても埒があかなくなっている。
その時に後ろから大柄な男が現れた。重そうな剣を持っている……恐らく偉いやつだろう。
「何をしている。剣を収めよ……失礼した。名高い剣士とお見受けする。私はカイゼルという、この部隊の責任者である」
「やっと話の分かりそうな奴が現れたな。おい、カイゼルとやら、即刻ここを通せ。私は勇者シルビアの命を受けている、あまり争いはしたくない」
シルビア様の名前を出してみた。しかし……帝国では王国とは違いシルビア様の命が優先される事はない。とにかくこれ以上の殺生はしたくないのだ……それもシオリのために。
「勇者様の命ですと? ハハハ。なら証明してみせよ」
カナタはすぐに察知した。この将軍はカナタと戦いたいのだ。気持ちが分からなくはない……。
「いいだろう……では貴様のその兜を真っ二つにしてやろう(笑) それでよいか!」
「わかった。皆の者手出しは無用、剣を収め跪け」
その一言で兵士は跪く。よく訓練されている。そして兵士はワクワクしているようだ……もちろん、カイゼルの剣技が見られることに。
「では勝負!」
「参られよ!」
その言葉と同時にカナタは動いた。一太刀……
(防がれた?)
カナタは立て続けに剣を振るった……二太刀目に兜を割り、三太刀目には剣を折った。そしてカイゼルの背後の飛んだ。兜はゆっくり地面に落ちる……この速さ、見える兵士はいないだろう。
「ハハハ、何と愉快!」
カイゼルは笑いながらカナタの前に跪き敬意を示した。頭を垂れながら……
「お見事でした。剣士様。まさに勇者様の剣です。名を聞かせてください」
「私は勇者シルビアが剣、カナタと申す。カイゼルと言ったか、一太刀見切ったこと誉めてつかわす。もっと精進せよ、武士よ(笑)」
カナタも満足気に笑った。