ギフテッド 善悪
とうとう……恐れていた事態が起きてしまった。ミルは何かのトラブルに巻き込まれれば惨事になると思いシオリを学校に通わせなかった。だが、惨事が起きてしまったという……。
「お母様、委細は以上です。囚われていた他の少女は私の従者が家に送り届けております」
「はい…………」
シオリは自室で泣いている。神父さまが付き添っているのでこれ以上、事を起こすことはないだろう。
「相手は犯罪者集団だから、シオリさんが帝国法で裁かれることはなかろ……だが彼女の心のケアが重要だ」
「はい……」
「それと……彼女の力を帝国が危険視するかもしれん。そうなると……殺される事もあるかもしれんな。これが最もまずいところだ。心の傷は時が解決してくれよう……」
「カナタ様、あの子を、どうすれば…………」
カナタ様が居なければ今頃シオリは治安部隊に捕われているだろう。そして膨大な魔法で20名を超える死者を出したとなると……タダでは済まない。
「では、私が出来ることを提案しよう。まず帝国には私が話しをつける。シルビア様の名を語れば平気だろう。そして、心のケアだが……アルサリア王国のノールダムという所にギフテッド専門の学校がある。そこで心の傷を癒すしかあるまい どうかなお母様」
「はい……少し娘と話をさせてください」
ミナはシオリの部屋に向かった。
シオリの部屋、まだシオリは泣いていた。そしてシオリの手を神父が握っている。とことん泣かせた方が良いという考えであろう。
「シオリ」
「母さん…………」
「あなたは悪くないわ。むしろ正しい事をしたの」
「でも、私のために……たくさんの人死んじゃって……私……人殺しなんだって…………」
また泣き出してしまった。
「シオリ、よく聞いて。あなたは……特別な子なの。帝国ではギフテッドって呼ばれてるけど、魔法が容易く使える子。それも強大な魔力が」
「うん」
「だからね、その制御を学ばないとならないの。カナタ様がその制御方法を教えてくれるって。また同じこと繰り返したくないでしょ」
「うん、分かってる」
「それに、王国にはギフテッドがたくさん通う学校があるんだって。そこで学びなさい……あなた、ずっと学校に行きたいって言ってたじゃない」
「でも……私なんかか……生きてていいのかな……」
「あなたは生きるべきなの。その力を使って人に尽くしなさい。それがあなたがすべき事、ね、神父様(笑)」
「そうだぞ、実はな……私が神父になったのは……たくさんの人を殺めてきたからなんだ。そうだな……この街のよりも多くの命を奪ってきた。だから今はこの街の為に命を使っているんだ」
「神父さまも…………私と同じね…………」
今すべきこと、ミナにはもうなかった。
△△△△△△△△△△△△△△△△
「シオリ、少し話をしたいんだが…………」
「……はい、カナタ様……」
事件から2日が経ってやっとシオリは話が出来るようになっていた。
「お母様から聞いているな……シオリはこれから私達と共に王国にあるノールダムまで来てもらう。そこでたくさん学びなさい」
「はい。聞きました」
「学校に行くことになる。ノールダム女学園、王国内では最高峰の名門女子校だ。本来なら入学が許されるのは15歳だが、シオリは特待生として入学が許されよう。もちろん私の推薦でな」
「カナタ様、ありがとうございます」
シオリは時間が経過したことで落ち着いてきたようだ。
「シオリには知る権利がある。だから話しておく。シオリ達を誘拐したのは……トコヤミ教という集団だ。あちこちで誘拐事件を起こしている」
「誘拐されたら……どうなるのですか?」
「詳しくは分からんが……ギフテッドを探しているようだ。ギフテッドの能力が発動するのは13歳前後だからその年齢の子を攫っていると推測される」
「で、誘拐されたら……」
「その話だったな。容姿や体格によって強制労働させられるそうだ。ギフテッドとして覚醒した者は洗脳教育を受けて教団の特殊部隊の訓練を受ける」
「…………」
「特殊部隊、そうだな簡単に言うと暗殺専門の組織だ。10年前くらいか……シルビア様が壊滅させたトコヤミという組織がここに来てまた活動してる。まぁ云うなれば勇者シルビアがすべき事をシオリが実行したとも言える」
ギフテッドに生まれたからには平穏な人生は送れない。そして、カナタはそのギフテッドが自身の能力を正しく理解し、適切に使用できるようにする訓練をしないとならない、と思っている。
「勇者様のすべき事って……犯罪者と同じなんですね。トコヤミとどう違うのか……あまり変わらない気がします」
カナタは虚を突かれた。その通りである、勇者パーティとは公認された特殊暗殺部隊に他ならない。勇者、そして勇者パーティが正義と思い込んでいたカナタはショックを受けた。そして、同時にこのシオリという少女の深い思考に感銘を受けた。
「正しい勇者の在り方、研究するのもありかもしれんな(笑)」
そう答えるのが精一杯であった。