ギフテッド 晩餐会
2日なんてあっという間であった。シオリはピンヒールに慣れることなく晩餐会を迎えることとなった。最後の望み……誰にも誘われなければ踊らなくていい、ということに気付いた。なのでシオリはひっそり片隅にいる作戦を遂行することにした。
専用の部屋で着替えて部屋に戻ると……カナタ様とヒナさんが先に談笑している。
「やば……カナタ様……お綺麗です…………」
薄い緑のドレス、裾にはピンクの牡丹が大きめにあしらわれている。前の部分は白色グラデーションが掛かっていて……ボロボロのマントしか見たことがないシオリは驚いた。
「ねね、私はどう?(笑)」
ヒナコさんはクリーム色のドレス、オーソドックスではあるが、胸が極端に強調されている……そこまで胸が大きい筈はないのだが、女子力恐るべし……。
「おお、シオリもいいではないか! では私が仕上げをしてあげよう……」
カナタ様はそう言うとシオリに向かって呪文を唱えた。聞いたことのない詠唱……シオリはとっさに胸を触ってみた。
「バカモン、そこは大きくならん(笑)」
カナタ様は大笑いをしている。
「では何を?」
「阻害魔法を解いたのだ。阻害魔法というものは掛けられてても分からないものだ。シオリの美貌が今まで伏せられてきたのは服や装飾品のせいではない……ご両親の愛の魔法が効いてたからだ」
シオリはカナタ様の言葉が理解できない。だが、隣りにいたヒナコさんがポカンと口を空けてシオリを見ている。
「シオリ…………かわいい…………」
ヒナコさんがみつめている。咄嗟にシオリは鏡の前に立った…………あれ? いつもの自分が映っている。おめかしはしているが、基本は何の変哲もない。
「シオリ、自分を見ても変わらんよ(笑) 自分も阻害されたら大変なことになる」
認識阻害魔法は主に少年少女の誘拐防止のために開発された魔法らしい。経年劣化をするそうだが、シオリに掛けられた術式は強力で、下手すると死ぬまで美貌を阻害し続けるらしい。かけたのは……おそらく父であろう。
「シオリちゃ〜ん、今日は沢山ダンスのオファーくるわよ(笑) 頑張ってね♡」
シオリは色々複雑な気持ちになった。
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晩餐会の準備は整った。来賓も少しずつ集まっている。セバスは満足気に会場を見渡す。皇帝陛下に仕えるのがセバスの仕事である。前皇帝が内乱によって崩御されたあと、今の陛下に仕えて12年が経とうとしている。
「セバス殿、素晴らしい会場ですな」
「アレクセイ大公、よくお越しくださいました」
嫌な奴に声をかけられた。大公はアンチ皇帝派の主要人物である。普段は皇帝陛下の主宰する晩餐会は何かと理由をつけて欠席するが……観に来たのだろう、見すぼらしいとウワサされる皇帝の賓客を。
「今夜は皇帝陛下がとても大切にしていらっしゃる賓客の方の為の晩餐会だとか……その麗しいお姿をぜひ拝見したく参加した次第で(笑) 楽しみですな」
「いやいや、今回の国賓は勇者シルビア様の剣と言われた武人が主賓でございます。きっと堂々としたお姿が拝見出来ることでしょう(笑)」
セバスの思った通りであった。噂を聞きつけて陛下を笑いものにしてきたのであろう……馬鹿な奴だ。
「お! 噂の賓客の話かね(笑) 私は謁見の時に会ったが、あんなボロを着て晩餐会に来たら逆に敬意を払わねばな(笑)」
カーリン公爵、またアンチ皇帝派の重鎮が声をかけてきた。モノの見えていない凡人、陛下の敵ではないと心から感じる。
「カーリン公爵、誠にその通り!」
「何やら盛り上がっているな。私も混ぜてくれ(笑)」
「へ 陛下!」
陛下は余裕の笑みを浮かべている。それはそうである〜セバスは12年前カナタ様に会っているが……美形であった。完成形がどうなっているのか、セバスも楽しみである。
「陛下、主賓のお嬢様方はまだお見えにならないのですか?」
「女子は支度が長いからな。入念に美しくなっているのだろう」
「そうですな(笑) 化粧で直すところが多くては時間もかかりますな…………おっと失礼(笑)」
陛下は笑顔であるが腸が煮えくり返っているだろう。そんなやり取りをしていると……会場の螺旋階段の2階部分にある主賓を迎える扉が開いた。
「皆様、お待たせしました。本日の主賓、勇者シルビア様が剣、カナタ様御一行の入場です」
入ってきたのは…………薄い緑のドレスを着たカナタ様、真っ赤なドレスを可愛く着こなしている少女、そして白いドレスを着た妖艶な淑女であった。
「お、おー!」
会場にどよめきが起こった。
アレクセイ太閤もカーリン公爵も驚きを隠せない。それを横目に陛下はカナタ様御一行をエスコートにしいく。
「陛下、エスコートを」
カナタ様は人目を気にせず堂々と陛下にエスコートを頼んでいる。そして後に続く少女と淑女も陛下の派閥の重臣がそれぞれエスコートをしている。この晩餐会でまた陛下の人気が増すことは間違いない。
こうして晩餐会は始まった。