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黒髪の少女

 

「イヤーっ!」


 夜に悲鳴が轟いた。隣で寝ている娘のシオリはよく悪夢を見て、その度に大きな悲鳴をあげる。


「シオリ、シオリ、大丈夫?」


「あっ、母さん……ごめんなさい、また叫んでた?」


 シオリはミナにとっての大切な一人娘、この帝国には珍しい黒髪で目鼻立ちがハッキリしている。まだ13歳なので髪はまだ短めであるが利発で活発、ミナにとっては自慢の娘である。


「母さん、シオリが寝るまで見守ってるから、眠くなったら寝なさい」


「ありがと、母さん(笑)」


 そう言うとシオリはそっと目を閉じる。目を瞑るとシオリはすぐに寝てしまう〜その寝顔は……天使のようだ。ミナは眠っているシオリの頬に手を添えた。




 夜が明けた。ここはミハエル帝国の帝都から東、ウエスト地方と呼ばれる場所にある小さな町ミルック。レンガ造りの建物が殆どで、多くの庶民は集合住宅に住んでいる。ミナ達は町の東側の集合住宅に住んでいた。


「シオリ、そろそろ母さん行ってくるわね。ちゃんと課題は終わらせておくのよ」


「はぁ~い。あーあ、私も学校に行きたいなー」


「あなたはいいの! 私が毎日教えてるでしょ。そんな贅沢な話ってないのよ。学校では人気者なんだからっ」


 ミナはミルックにある唯一の学校で教鞭をとっている。教師という仕事はこの街で尊敬を集める職業ではあるがかなりの重労働、その為、家事の多くはシオリに任せていた。


「それいいから(笑) じゃあ私も教師になりたいかな」


「教師になりたいなら課題を頑張りなさい(笑)」


「ハイハイ、いってらっしゃーい」


 ミナは家を出た。




 ミルック初等学校、ミナが勤める学校である。ミナの住んでいる住宅から坂を登りきった丘の上に建っていて、白い校舎と時計台がこの学校、いや、この街の象徴でもある。殆どの生徒は学校横にある学生寮に住んでいて貴族の子息はいない。誰でも入学出来る訳でもないが、意欲あるものは受け入れる方針の、ごく普通の学校である。


「おはようございます、イリーエ先生」


「おはよう ユーカちゃん いつも元気ね!」


 ミナに挨拶をしたのはユーカちゃん。シオリと目鼻立ちが似ている少女、違うのは髪の色。金髪であるが恐らくエルフの血を引いているのだろう。ちなみにミナは生徒達からイリーエ先生と姓で呼ばれている。


「ねね、先生。聞きました? なんかね、王国の勇者パーティの一人がこの街に来てるみたいですよ! 放課後探しに行こうと思ってるの」


「そうなの? でも繁華街に行くなら一人では行動しないでね。3人以上で防犯ブザー持って歩くのよ。いい?」


「はぁ〜い」


 王国の勇者パーティの一人……ミナはかなり気になった。同時にシオリのことが心配になった。シオリはとにかく好奇心旺盛な娘、何処かでその話を聞きつければ必ず興味を持つであろう……勇者の一員を街中探し回り、トラブルなんかに巻き込まれはしないだろうか、勇者の一員そのものが嘘で街を巻き込んでの騒動になっていないだろうか、心配は尽きない。だが、これから授業がある……ミナはため息をついた。



△△△△△△△△△△△△△△△



「シオリちゃん、今日もお祈りかい? 熱心だね」


「はい、神父さま。お祈りしてると落ち着くんです」


 シオリは家事を済ませて時間があると必ず教会でお祈りをする。教会はシオリの住んでいる集合住宅から少し坂を下りた場所にあり、丘の上の学校の時計台のように、白を基調とした建物で、小さな佇まいであるが、とても綺麗だ。シオリは立ち上がり、神父さまに挨拶をした。神父さまには内緒だが、この「お祈り」は母さんからの課題でもあった。別にこの教会に祀られている絶対神である「ヤマト様」を崇拝している訳では無い、祈りを通じて精神を集中させること、これが目的である。


「シオリちゃん、これから商店街まで降りるけど」


「あ、それなら私も付いていっていいですか? 買い物あって……」


「ではお祈り済んだら行こうか」


「うん!」


 シオリは集中力を増加させて母さんからの課題を早々にすませた。





 ミルックの繁華街は港の近くに広がっている。シオリの住んでいる集合住宅は丘の中腹、学校は丘の上、そして教会は集合住宅の少しだけ下の方にある。繁華街は栄えているが何せ漁師町、決して治安が良いとは言えないが、昼間であれば大きな危険を感じるような事はない。昼間に買い物に来るくらいであるならシオリひとりでも問題はない。


 シオリは神父さまと2人で港近くの市場まで降りてきた。ミルックの市場は活気がある。シオリはここの市場が大好きだ、野菜や魚介類のお店が立ち並び、多くの露店ではちょっとした食べ物や珍しい雑貨まで様々なものがある……その活気、美味しそうな食べ物の匂い、それだけでシオリの心が踊った。


(今日は母さんに何作ろう♪)


「シオリ、ではこれを。私は市長のところに行かないとならんのでな。あまり遠くには行くなよ(笑)」


 神父さまは何かをシオリに手渡した。


「ありがとうございます! はい、神父さま。では夕刻にまたここで!」


 神父さまから手渡されたのは防犯用の御守りである。神父さまは魔法が使える、魔力を込めた御守りはとても強力で、更に神父さまの紋章も刻まれている。この街で魔法が使える神父さまに刃向かえる者など居ないに等しい。


(さあて、まずは乳製品っと!)


 シオリが来た目的は乳製品の購入である。牛乳とヨーグルト、チーズがお目当て。乳製品のお店は市場の奥まったところにある。歩いているとシオリに声がかかる。


「シオリちゃん! 久しぶりね、良い魚入ってるから、後で寄ってよ(笑)」


「サヤさん、では後で!」


「シオー!」


「タマキさん(笑)」


 黒髪で社交性の高いシオリは市場ではちょっとした有名人なのである。愛想を振りまきながらお目当てのお店に向かうが、殆どのお店の人が知り合いである。


 途中、ナニやら人集りが出来ている。シオリは覗き込むように人集りに目をやった。


(なにかあったのかな?)


 よく見ると戦士風の女性が民衆に囲まれているのだ。ケンカとかではなく、歓迎されている?

様子である。


「勇者パーティの人みたい、オレ、握手してもらおうっと」


「本物なのかな? それなら私も……」


 周囲からそんな声が聞こえる……。


(勇者様の仲間さんかぁ。ちょっと見てこよう)


 シオリは人集りをかき分けていく。人集りの中心では……大きな大剣を持った女性がニコニコしながら民衆の要望に応えていた。だが、シオリはそれ以上の興味がわかない……確かに所持品は立派だけれども、どこか弱そうに感じたのである。


(神父さまより弱そう…………)


 シオリは少しガッカリした……きっとニセモノと感じたからだ。興味はなくなった〜その場柄立ち去ろうとした、その時に……


「おい、娘」


 後ろから何者かに呼び止められたのであった。

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