時を超えるみのむし
「お姉さまあれを見て。腐った軒先にみのむしがぶら下がっているわ」
「お姉さまにしては目の付け所が凡庸ではなくて? ふふっ。もしかして私がいつの間にかお姉さまになって、お姉さまが私になっているんじゃありませんの? それならば、今は私がお姉さまでお姉さまが私だから、私が瞼を開けば、お姉さまのように外の世界が見えるのだと思うわ」
「ふふっ。お姉さまったら冗談が過ぎるわ。私は正常だし、今まで私は凡庸以上でも凡庸以下の存在でもないわ。でもお姉さまは私にとっては凡庸なんかじゃないわ」
「ええ、私もよ。お姉さま」
「あのみのむしはずっとみのに篭ってるのよ。きっと私たちが誕生するはるか昔、もしかしたら、この世が始まった瞬間から、あのみのの中にいるのかもしれないわ」
「仮定の話。いくらでも言えてしまうわ」
「いいえ、仮定の話じゃないわ。この世が始まった瞬間にいたわけないのよ。明日にいるかどうかわからない存在なのだから、この世の始まりと私たちはつながってないのよ」
「あら、お姉さまったら。詩人から哲学屋さんになったの?」
「人間はいつだって詩人で哲学屋、そして半分だけの過去と、残りの半分の過去のどちらかが寄り添ってるのよ」
「それはとっても面白いわ、お姉さま。私の過去とお姉さまの過去。二つが異なっているからこそ、私たちは完全に近しいのね」
「ええ。でも完全は近くて遠いわ。あのみのむしのように。外へ出るのに、一体いつまで数を数えればいいのかしら」
「ふふっ。そうね、お姉さま」
「さあ、私たちも帰りましょ、お姉さま」
「ええ、お姉さま。二人だけの家へ」