水銀浴する子ら
「お姉さまあれを見て。子供たちが水銀浴をしているわ」
「楽しそうな声が聞こえてくるわ」
「ええ、お姉さま」
「ところで、水と水銀はどのように違うのかしら。お風呂で水の感触は知っているけど、私は水銀については無知なの。有毒であることくらいしか知らないわ」
「そうね。なだらかな丘陵を踏破した登山家の瞳のような色をしているわ」
「それならわかるわ、お姉さま。私にも瞳がありますもの。全く使い物にはならないれど」
「様式美ね。無駄なものというのは、すべて等しく美しいものよ」
「それなら、子供たちのあの姿も美しいのね」
「ええ、きっとそうに違いないわ。けれど一番ではないわ。よくある美しきものの一つに過ぎない」
「そうね。彼らがこの世にとって不必要なものとなったときに、それが実現されるの」
「風は民の味方であるとともに、稲穂の敵でもある。また、風は稲穂の味方であるとともに、民の敵でもあるのよ。お姉さま」
「ふふっ。今日はいつもに増して、お姉さまの詩人としての感性が光っていますわ。光なんてものを私は知らないのだけれど」
「でもそれは愛すべき記憶ではないわ。神様の気まぐれの産物よ」
「全く神様というものは残酷な存在ね、お姉さま」
「ええ、お姉さま。でも、創造主は私たちを裏切らないわ。きっと」
「そうね。子供たちも、この世界の単なる装飾品になり果てたわ」
「ああ、この世で一番美しいものの形成の場に立ち会えるだなんて。私たちは今、この世で一番幸せなのかもしれないわ、お姉さま」
「そうね、お姉さま。あまりの幸福に体の震えを止めることができないの」
「私もよ、お姉さま」
「あんなのを聞いてしまったら、私たちも喜びたくなってしまいますわ」
「さあ、私たちも帰りましょ、お姉さま」
「ええ、お姉さま。二人だけの家へ」