プロローグ
勇者パーティ・・・人間界の各国の総意で決定される勇者が集めたパーティだ。
今代の勇者、メイルは固有スキル《限界突破》によって成長限界がない上に《成長促進》のスキルを持っている。それ以外にも5個以上のスキルを持っている。
固有スキルは原則1人一つ、スキルは後からでも習得できるが基本2個前後4個ある奴なんてそうそういない。
ただその欠点は・・・
「おい、豚!飯早く作れ!!」
「は、はい・・・」
性格の悪さだ。俺は体の弱い母のために冒険者をしていたところ声をかけられた。治療に不自由ない金をやるから仲間になれと。正直天にも昇るような気持ちだった。人間界のトップたちに選ばれた勇者と共に冒険できるなんて・・・と。その実このパーティでの俺の役割は斥候とサンドバッグだった。
「大丈夫?」
そんな地獄の中でも俺に優しくしてくれるのは婚約者のリリカだけだった。
「あぁ、大丈夫だ。」
そう答えるしかない。ここで逆らったところで何も変わらないのだ。
「おせぇんだよ!」
戦闘では盾役なのに攻撃してくるわ、回復魔法を使うと罵られるわ、挙句の果てには荷物持ちと飯係、寝ずの番の割り当てでは俺の睡眠時間が一番短い。それでもリリカだけは優しかった。
だから耐えられた。
しかしある日の夜。暑くて寝付けず少し水を飲もうと水場まで歩いている時。
「アイツみたいな雑魚の婚約者とか大変だな。」
「縛り付けておくためよ。それにそういうことするのは結婚してからって言ったらその通りにする馬鹿だし。」
「ま、そのお陰で俺は良い思いできるんだけどな。」
「本当に最低ねアナタ。」
「お前も好きなくせに何言ってんだか。」
「もう、調子いいんだから。」
俺は聞いてしまった。いつも優しい彼女がこんな風に言うなんて信じられなかった。でもそれ以上にショックだったのは俺のことを道具のように思っていたことだった。
確かに俺は勇者の仲間になれるような人間じゃない。それは分かっていたけどそれでも愛されていると思っていた。
そして次の日。
「お前クビだ。出てけ。」
「な、んで・・・」
「新しい斥候が見つかった。テメェみたいなゴミスキルじゃねぇ。《隠密》スキルを持った本物だ。」
「このパーティでゴミスキルなの貴方だけよ?」
「そんなんじゃ格好つかねぇよな。」
「てことだ。出てけ。」
リリカの固有スキルは《守護》リリカの意識がある限り対象1人を守る能力。レアスキルだ。
魔法使いのゲールの固有スキルは《魔法理解》全ての魔法を理解することができる。レアスキルだ。
斧使いのカンディラの固有スキルは《増強》指定した一つの物を超強化することができる。レアスキルだ。
対して俺のスキルは《集積》集めて溜め込むだけのスキルだ。
ワンチャン、スキルの進化に賭けているが進化する気配が一向にない。
そして、俺は捨てられた。
そこからの生活は最悪だった。元々ひ弱だった体は更に痩せ細り、街を歩けばスリや強盗にあった。冒険者ギルドに登録して依頼を受けようとしたが、Dランクの試験すら受けられなかった。
それから2年、なんとか雑務依頼をこなしながら母と生活していたある日のことだった。
-スキルが進化しました-
『スキル《集積》が進化し、《集積・変換》に進化しました。今後、集積によって溜め込んだエネルギーを固有スキルに変換することができます。正し、変換されるスキルはランダムになります。』
・・・進化した!?進化しないものとばかり思っていたが・・・しかも今まで結構溜め込んできた・・・何個か変換できるかもしれない!!
早速変換だ。
ステータス画面を開き固有スキルをタップする。《変換》と出てきたので押してみる。
『今まで集積したエネルギーを変換しますか?』
はい・いいえの2択が出てきたので『はい』をタップする。
『エネルギーを固有スキル《回帰》に変換しました。』
《回帰》!?レアもレアなスキルだ。時間に干渉するスキルの中でも最もレアな逆行系スキル!
『《回帰》は触れている対象物の時間を最大で3ヶ月間逆行させます。生物にも使用可能。死後20秒以内で身体が70%以上残っている場合蘇生することが出来ます。』
これは使える!だがこれだけでは俺はまだ戦えない。
あと何回変換できる・・・?《集積・変換》を見てみるとあと3回出来るみたいだ。
ここで変換してしまうか。いや、ここは1回だけ変換してみてからだな。
『今まで集積したエネルギーを変換しますか?』
はいを押して変換を開始する。
『エネルギーを固有スキル《複製》に変換しました。』
《複製》?聞いたことないな。とりあえず詳細を見てみよう。
『《複製》は指定した対象を複製します。精度はオリジナルの70〜90%です。』
これ説明的に生物も複製できるのか・・・
そう思って試そうとしたその時だった。
ドゴォン!!!と凄まじい音が鳴り響いた。