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新戦

「見晴らしがよくなったなぁ」


 戦いの火ぶたが切られてから五日。

 火攻めによって向こうの兵もあぶりだせるかと考えていたが、ろくに戦力を計ることはできなかった。

 理由は明白、敵兵が火攻めに対して後退したからだ。


 広大な森林の面積を削ったが、打ち止めを食らった。


 眼前には三つの丘があり、その後方にはまだ森林が広がっている。

 いま押し込んだ前線を押し進めようとしたが、猛烈な反撃に遭ってしまったのだ。

 まさに自然の要塞、これは攻めづらい。敵もこちらの戦力を最大限に削るために五日間じりじりと後退したのだろう。


「本陣も押し上げる。前線は今の位置を死守。魔法部隊は魔力回復に専念しろと伝えて。ここからが本番になるからね」


 三つの丘の間隔は互いに魔法の援護射撃が通るように位置している。

 つまり、二つの丘を同時に攻略しなければならない。それも連携を始める前に、迅速にだ。


「本陣は左軍に合流。左と中央の丘を獲るぞ」

「お言葉ですが五席将、この地形では長期戦になるのでは? 本陣を中央に構え、ゆっくりと責めるのがよいかと。地の利は向こうにあれど、ここから確認できる敵兵の数は多くても三千、こちらが有利かと」


「全然わかってないな」

「なんですと!?」


「お前たちは人間相手に戦争をしすぎて今回の攻めのリスクを軽視しすぎている。まず、相手の残存戦力は不明、もし仮に王国が援助しているとしたら攻めの速度が重要になる。援軍が届いたら勝ち目がなくなる。そして敵はまだ余裕がある。この火攻めから丘まで退却する判断、おそらくやつらの予想を上回る行動を俺たちは一つもできていない。五日間かけて戦力分析されていたのは俺たちの方だ」

「では、この丘で我らの軍相手に勝てると考えていると?」


「そうだ。だが、俺個人の戦力は必ず見誤っているはずだ。俺が中央の丘を獲る。獲ったのを確認したら左をお前たちだけで獲れ」

「そんな無茶なことを! あなたが死ねば」


「そうだ。俺が死んだら本国に帰ってここに近づくなと報告しろ。だが、一つ言っとくぞ。お前たち一万の兵よりも俺一人の方が強い、万が一にも負けないほど差がある。あまり俺をなめるなよ?」

「っ!? 失礼いたしました」


 本陣が初めて恐怖したのはこの時だった。

 全兵がこの五席将という存在を軽んじているのを見抜かれ、言葉と覇気ですべてを分からされたのだ。

 この目の前の将の手足にすらなれていないことを。


「わかったらさっそく始めるぞ」

「「はっ!!」」


 帝国の主帝騎士団の主戦力の一人がついに動いた。


 翌日、本陣が左軍と合流し、前線の兵たちまでもが左に傾いた。右軍の殿を務める形で一人の男が最前線に立つ。


「五分で終わらす」


 丘の上に見える兵力はおよそ千。個々の戦力を考えると数以上の戦力だと言えるだろう。


 だが、この程度の相手に恐れるようでは帝国で将などという地位には就けていない。

 あと五倍いても俺が勝つ。




「【リ・ロード】開始」



 全力で走る。

 風は、音は、魔法はすべて置き去りにした。


 剣の一振りで丘に築かれた塀を兵ごと消し飛ばし、粉塵の中、敵を身体能力で圧倒していく。

 剣と自分自身に強化魔法を使用し、完全に肉弾戦で敵を屠る。

 様々な方向から援護射撃が飛んできているが、魔力S以上でないと俺の身体に傷を付けることはできない。


「お前がここの将か」

「っ、わが神に栄光あれ!!」


 最期の言葉を叫び襲い掛かってくる相手を跡形もなく消し飛ばす。


「全軍、攻撃開始!!」


 号令とともに多くの歓声とともに左の丘を兵が登っていく。

 このまま丘を制圧することができるだろう。


 丘から先には森が広がり……丘が点在していた。


 これと同じような防衛ラインがあと二つあり、その奥に一層高い山があった。


「【リ・ロード】完了。俺が歩んできた路よ、一閃の剣撃となれ」


 剣が光る。特力が込められた証だ。


 それを片手で上段から振り下ろした。


 今まで幾千万と振ってきた一つ一つの剣撃が一つに重なり、放出された。


 絶対的な力の奔流が森林を、丘を、森林を、丘を、吹き飛ばした。


 外から見たソレは天災そのものだったことだろう。


「止められたか」


 しかし、放った男は満足していなかった。


 二つの丘を消し飛ばし、一瞬で五千以上の命を奪った。だが、男はその奥、巨大な山を吹き飛ばすつもりで放ったのだ。


 そして、それは防がれた。


 剣撃の奔流は何かに衝突し、弾き飛んだ。


「これは俺じゃ無理だなぁ」


 まとっていた覇気はどこへ行ってしまったのか。

 また、部下になめられる無精ひげの男に戻ってしまった。


 彼自身最大火力の攻撃が防がれたことで彼一人で奥に潜む怪物を倒すことはできないことがわかってしまったからだ。



 ◇



 廃城。今日も女は外で戦いを見ていた。


 確実に近づいているのを感じながら、暇つぶしにそれを探していたのだ。


「あれか」


 一気に戦局が動いた。

 一人の男が砦変わりの丘をほんの一瞬で攻略したのだ。


 あれこそ例外の者。自分を殺すことができるというルール内にある者だ。


「だが、弱いな」


 光の奔流が直線的に向かってくる。射線上の自然や丘が成すすべなく破壊されていっている。


「血晶壁」


 発動した防御技の前に光の奔流が吹き飛んだ。

 これしきの威力では戦っても私の前に死ぬだけだろう。


「外れだな」


 女は完全に興味を失くし、廃城に戻った。



 一般兵の知らないところで超常的な男が測定不能の女に敗北した。



 その後、帝国兵は右の丘も奪い、砦とした。

 これによって前線は膠着し、そのまま月日が過ぎていくことになる。

 中立国側の兵は損害が大きく、帝国を追い返す戦力は残っていなかったが、帝国が攻めないため弱化しているものの体制を整えていった。


 数週後、帝国側に新戦力が到着する。

 そして、再び廃城の女は立ち上がった。



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