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初戦

 まだ人々が眠りに着くには早い時刻、馬車は町、いや都市に到着した。


 城壁が高くそびえ、まさに城塞都市と言うべき見事な外観だ。

 自分が生きた時代にはなかった光景だった。


 このような戦争を視野に入れた都市の近衛騎士団のレベルが引くいとは考えにくい。

 この世界の中でこの二人の従者はかなりの強者のようだ。


「やっと着いた!!」

「まさか近衛騎士があんなとこまで見回りに来てるとは思わなかったぜ」


 馬車は城門から外れた道に入り、大きな屋敷のような場所の前に停車した。


 ここまでか。


 このような奴らが正面から入れる都市ではなかった。

 町というものだから、もっと警備の薄い関門かと予想していたが当てが外れた。


 ここからは、こいつらを潰す。


「ほらお前らさっさと出ろ」


 奴隷の長耳族が屋敷に運び込まれる。


 城門の外にあるが、大きさからしてそれなりの者の屋敷だろう。

 この商売に絡んでいる黒幕とまみえる可能性が高い。


 馬車から運び込まれる奴隷を隠れ蓑に屋敷の二階に侵入する。


 部屋に明かりはない。

 侵入した部屋にも、その両隣の部屋にも生物の気配はない。


 ここは書物庫か、棚に本が整理されているだけの部屋だ。

 背表紙には見慣れた言語と、見慣れない言語のどちらも書かれている。


 だが、書物の背表紙の言語の割合は見慣れたものの方が多い。

 おそらく、聞き取りも書き取りも問題なければ、この世界に馴染むのはそう難しくないだろう。


 音を立てず次々と部屋を調べていく。


 だが、商売に関するものはなく、特に気になることもない。

 これではおそらく来客が部屋を散策しても奴隷商に気づくことはないだろう。


 二階を調べ終わったがどこにも怪しい点はなく一階に向かう。

 一階には従者の一人と、屋敷の主らしき人物が見えた。

 奴隷とザクと呼ばれていた従者の姿はなかった。おそらく、商売の本陣は地下にあるのだろう。


「今回もご苦労だったな。ザジ」

「こちらこそ毎度ありがとうございます。話は変わりますがここに来るまでに近衛騎士と遭遇しました。何か心当たりは? 近衛騎士団長殿」


 近衛騎士団長、その名前からしてかなりの大物だろう。

 道の途中で戦闘になった近衛騎士の親元が奴隷商の黒幕とは、中々に闇が深い状況のようだ。


「それはすまなかったな。最近この都市の近辺で盗賊団が暗躍しているのだ。金を弾む、許せ」

「平和が取り柄の都市が物騒ですな。金は有難くいただいときますよ」


 二人は笑い話をしながら階段を下りて行った。


 近衛騎士団長のまとう雰囲気はあきらかに従者の二人よりも強者である。

 三対一となるとかなり厳しい戦いになるだろう。


「解放と脱出だな」


 地下の奴隷を解放し、城門の門番までたどり着けば僕の勝ちだ。

 今の会話とこの屋敷で密会していることから、部下の騎士はこの商売を知らないのだろう。

 それに盗賊団が勢力を増している現在の状況なら奴隷商もそっちに擦り付けることができるだろう。


 地下に降りた。

 ここからは音が反響するので情報が収集しやすい。


 話声と笑い声が響いている。だが、奴隷のうめき声は聞こえない。

 ここまで連れてこられるまでに散々躾けられたのだろう。


 地下は整備されていない土道であり、不格好な鉄格子だけが設備されている。

 だが、地下はかなり先まで道が作られているようだ。


 地下に降りたすぐの鉄格子の中には見たことない生物が閉じ込められている。


 同じような牢が続き、奴隷商たちとの距離が近づいた。そして数メートル先で足が止まった。


「それではこれで。また御用があれば」

「ああ、いい仕事をありがとう」


 階段を上がり二人の従者が消えた。


 すぐ横には縄に縛られた長耳族が四人とらえられている。



 動くならここか。


 これから新たな戦力が現れる可能性もある。従者の二人が消えたこのタイミングが最良だ。


 ダッシュで入口に戻り、入り口付近にあった牢の鉄格子を蹴り飛ばし破壊する。


 地下に音が響き渡り、近づいてくる足音が聞こえてくる。

 だが、男が到着するまでに僕は五つの牢を破壊し、見たことのない生物が解き放たれた。

 ライオンや熊などを超える獰猛な生物たちが暴れ始める。


 自分たちを管理していた元主人を目に収めた生物たちは怒りを宿し襲い掛かる。


「ふむ、ネズミが紛れ込んだか。何者だ?」


 男は焦りを一切見せず、侵入者の僕に問いかける。

 だが、すでに僕は男の背を取り、奴隷に向かって走っている。


 気配を消すことは戦うことよりも得意だ。

 そしておそらく、正面からの戦いになれば僕に勝ち目はない。


「お前たち、何も聞かずに今すぐその階段から逃げてくれ」


 縄をほどいて助けている僕に対しても怯えて震えている。


「ニゲル? モウ国ニハ帰レナイ」

「僕の都合だ。頼むから急いでくれ」


 戸惑いながらも一人また一人と階段を上がっていく。


 最後の一人の足音が消える時、生物たちが襲い掛かる声も消えた。


 コツコツと足音が響く。

 思ったよりもあの獰猛に見えた生物たちが弱かったのか、時間が稼げなかった。

 これでは長耳族が逃げ切ることはできない。


「あと三分だ」

「気配の消し方が上手いな。暗殺者か? 誰の差し金だ?」


 暗さと土の色が気配を消すのに役立っている。

 片手にある鉄棒しか武器はない。


 三分も厳しいかもしれないが、男は武装していなかった。

 ザジが騎士に使った不思議な炎の力のようなものを使える前提で動かなければならない。


 地面を蹴り砕く。

 粉塵が舞い、完全に姿を隠す。

 これに乗じて鉄棒を投擲する。


「ん? 俺のことを知らないのか?」


 地下にあり得ない突風が吹き荒れた。


 その風は粉塵とともに鉄棒をも吹き飛ばし、両者正面から相対する。


 15秒。


 男と僕が正面から向き合うまで稼げた秒数だ。

 だが、ここまでで不思議な風の力を使うことが分かった。投擲した棒を吹き飛ばすほどの勢いだが、直接的な殺傷能力は炎よりも低い。風以外にも使ってくる可能性はあるが、時間稼ぎならば遠距離を保つのがよさそうだ。


「ふっはは! ステータスを隠そうともしない! 東の人間には暗殺者が多いと聞くが、ここまで間抜けなのか? 将波強!!」


 ……なぜか名がバレた。

 男の話ぶり的にステータスというものを見たのだろうが、それが何かは分からない。おそらく身分証と同じように、普通は晒しておくものではないのだろう。


 表情には何も出さないが、内心ではかなり驚いていた。

 かなり厳しい状況の中で新たに得られる情報が多いこと、僕が間抜けすぎるせいで時間が稼げていることにだ。


 後2分。


 ステータスというものをさらしたおかげで相手が油断している。

 ならここは、大胆にいこう。


「ステータスってのはなんだ」

「……本気で言っているのか? お前は今、全員に名前を晒している状況だぞ? 武力と魔力はなぜか読めないな、ネームドか?」


 晒しているのは名前だけ。

 ステータスは名前に加え、武力と魔力というものがあるらしい。

 武力と魔力のどちらかが不思議な力を使うための元になるのだろう。


 僕が武力と魔力を読まれないのはネームドというやつだかららしい。


 残り半分。


「ネームドっていうのはなんだ?」

「世界に名付けられた存在だって、なんでこんなことまで聞く? 生まれたての子供でも知っているぞ。もういい」


 ネームドっていうのは結局よくわからない。

 だが、時間は稼いだ。


「死ね」


 さっきの数倍の威力を持つ風が迫ってくる。

 体勢を低くし、風の影響を最小限に抑える。

 後ろの壁が風で砕ける。殺傷能力が低いというのは見積もりが甘かったようだ。


 風が通り抜けた直後、地面を再び蹴り砕く。

 粉塵が巻き上がっている間に階段を少し上り、天井にあたる階段の側面を蹴り砕いた。


 一撃で亀裂が走り、天井が落ちる。


 階段の先には小さな小屋があり、その外に出ると平野が広がっていた。


 城壁に続く方向に逃げている長耳族が見える。


 残り三十秒。


「まさか奴隷を逃がすためだけにこの俺と戦ったのか?」

「何がおかしい」

「いやおかしくはない。それがこの世の常識で悪は俺だ」


 小屋から出てきた男に戦意は見えない。


「いいだろう逃がしてやる。お前は良い毒になりそうだ」
















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