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再戦

 爆音とともに赤い何かが奥の丘から放流した。

 そして、その赤い液体が触れている範囲から爆音が鳴り響き続ける。


 そして、その一つ、空を飛ぶものがあった。

 赤い流星のように宙を舞う先に少年がいた。


 その少年が本陣まで吹き飛ばされて、地面で落ちた。


 顔から足まで、至るところの皮膚がなくなり、骨と肉が見えている。

 これは元の世界では受けたことのない痛みだっただろう。

 意識はないが、まだ生きている。


「この少年を至急医療班に。なんとか命を繋いでおけ。他の者はそのまま下がってろ。俺一人でやる」

「はっ」

「前言ったこと頼むぜ」

「……はっ!」


 部下を下がらせる。ここに何人いても無駄だ。最低でも将レベルの戦力がなければ足手まといになる。


「お前も資格を持つ者だな。前の攻撃はお前の方か」

「……何者だ」


 丘から丘まで一飛びか。

 最低でも武力SS+の皇帝陛下くらいはあるということだ。


「私は【星悪種】が一人。お前たちが殺すべき存在だ」

「【星悪種】? 聞いたことがないな」

「お前程度の力ではまだなにも知らんのだろう。だから今のうちに殺す」

「部下は帰してくれるのか」

「そんなわけないだろう。私を知った者全員等しく皆殺しだ」


【星悪種】というのは聞いたことがないが、外見はどこかの貴族の令嬢のようなきれいな白肌と流水のように流れる銀髪。年はおそらく長耳族と同じで途中で止まっているのだろう。少年とそう変わらないように見える。


 だが、言葉から敵対されているのは感じるが、殺意は感じない。

 言葉に嘘はないが、その言葉の内容ほど熱量を感じない。


 その虚ろな瞳は俺を見ているようで見ていない、ただ写しているだけ。

 環状に揺らぎはなく、まるで戦いの中にいるとは思えない。覇気も感じない。


 だが、事実として奥の丘の生存者はほぼいないだろう。たったの一撃ですべてを屠ってここにいる。


「【リ・ロード】開始、【向上心身】【自由意志】」


【向上心身】は戦意と共に武力が向上する特力だ。【自由意志】適性のない魔法に関しても想像と同じように適性を得る特力。

【リ・ロード】は一秒で一か月分の斬撃を再現する。こっちに来てから約10年の月日、つまり、240秒稼げば最大火力の一撃が放てる。


 火と氷の槍を生成し、追い風で加速して射出する。


「血晶壁」


 血色の壁がすべてを弾き飛ばす。


「血晶剣・舞の型」


 壁の向こうには【星悪種】が周囲に血色の剣を携え、手を俺に向けていた。


 とっさに土の壁を作り、全力で後退する。剣が触れたところから爆発しているが、形を保ったまま剣は追尾してくる。


 飛んできた剣を一撃で打ち砕き、爆発を二撃目ではじく。一つの剣に対して、瞬時に二回剣を振らないといけない。


 剣で迎撃しながら背後に氷の剣を作り出す。

 触れた場所から氷結させる武器だが、爆発相手では焼け石に水程度のものだろう。


 風の魔法で飛び、氷の剣と自分の剣で血色の剣を撃退する。


 距離がどんどん離される。

 今は全力で魔力も使って迎撃に当たっているが、魔力も無限ではない。


「血晶龍」


 上空まで龍が昇る。

 これは魔法か特力か、どちらにしろ馬鹿げた規模だ。


 龍の大きさは丘を越え、雲を喰った。

 丘二つを丸呑みできそうな勢いだ。


「【リ・ロード】発動!」


 最大火力を以って迎撃しなければ、部下ともども終わってしまう。


 まだ、満足には貯められていないが、仕方がない。


 光の剣を龍に向けて振り下ろす。龍の顎が剣を迎え撃つが、光の奔流が血の爆発を押し退け地面に到達する。


「うおぉぉー-!!!!」


 手に全力を込める。

 ここで倒せなければ、すべて終わる。

 この作戦も、部隊も、志も。



 自由が欲しかった。

 前の世界では自由に動かせる下半身はなく、考えることだけが自由だった。勉学ができても学校に通うことはできず、日光を知ることはできてもそれで身を焦がすことはできなかった。日光でも肌が焼け、眼が見えなくなる可能性がある。一生変わらない景色の中で、動くことなく、ただ知識だけが増え、届かないものだけが増えていく。


 そして、変わらず不自由から脱することなく死んだ。


 そして、俺は純白の中に立っていた。


 声は何を成すかと聞いた。


 けれど、俺はすでに立っている時点で俺の中での最大の自由を勝ち取っていた。

 だから自由のまま生きることを望んだ。


 自由の象徴を体現する。


 前までできなかった身体を動かすことを中心に、戦いの中で何かを勝ち取ることに自由を感じて、その道を突き進んできた。



 そして今、まるで物語のような戦いの中に自分がいる。

 そして主人公のような大立ち振る舞いだ。


 光る剣で龍を斬り、怪物に立ち向かっている。



 まるで物語の英雄のように。



『いい夢ですね。力を与えましょう』



「はぁー-っ!!」


 ここで勝てるなら、不可能を打ち破れるなら、俺は自由だ!


 剣を持つ手に力が入る。武力も魔力も、過去も未来も、すべてを注ぎ込むかのように、剣を下に下に押し進めていく。



 龍が光の奔流の前にはじけ飛ぶ。



「ちっ、これだから嫌いなんだ」


 先日の攻撃とは桁違いの威力だ。

 左手で盾を張り、上からの重圧に耐える。


 これだから資格を持った者は厄介だ。土壇場で力を増し、自らが主人公だ、ヒーローだと言わんばかりに雄たけびを上げる。


 私が何をしたというのだろうか。


「だが、お前も主人公にはなれない。血晶槍・滅の型」


 一本の槍を右手に握る。


 そして投擲する。


 真っ直ぐに、光の奔流の中を一筋の赤い線が伸びていく。無駄なく、白線に赤線を引くように、抵抗なく進んでいく。


「終わりだ」


 爆ぜた。


 光の奔流を内側から弾き飛ばし、その蛇口を打ち砕いた。

 一つの影が空から落ちてくる。


 旧友の加護を受けている者よりもこちらの将軍の方が厄介だった。最後に特力も進化したのだろう。


 だが、倒した。問題なく、無傷で、今回も。


 なら、次にやることは、後片付けだ。


 右手を空に向ける。


「血晶式・大海」


 手の先に巨大な球を作り出し、内側から噴出させる。溢れた血の海は飲み込んでは弾き飛ばし、飲み込んでは弾き飛ばし、すべてを破壊する。


「ちょっと待ってもらおう!」


 掌を握るのを中断する。


「懐かしい声だな」

「久しぶりだな、血鬼姫」


 目の前にいる男。黒い目に黒い髪、そして光のような透明感を持った肌。


「お前こそ久しぶりだな、ドラコエル・プロトタイプ」

「まったく、お前くらいだぜフルネームで呼ぶのは」

「私は名前が好きなんだよ」


 世界が始まった太古から存在しているものの一人で、友人だ。

 ある日、人間の友ができたといい、国を作ったらしい。今もその国で隠居していると聞いていた。


「俺は血鬼姫ってかっこよくて好きだけどなぁ」

「それで、何用だ?」

「その手を止めてくれないか?」

「無理だ」


 旧友の頼みと言えども、この手を止めることはできない。


 そういう運命だからだ。


「帝国にここに近づかないようにさせる」

「殺した方が確実だ」

「そりゃそうだ」


 ドラコエルが言うのなら、帝国はここに攻めてくることがなくなるだろう。だが、殺しておいた方が安全だ。可能性の芽を残したくない。


「じゃあ、抵抗するしかないな」


 血の球が押しつぶされ、豆粒ほどになって、消える。


「……本気か?」

「もちのろん」


 覇気がぶつかる。

 互いに互いを殺せないことは分かっているはずだ。そもそも本気で戦えば、助けたい者たちも全員死んでしまう。


「あの少年か?」

「そうだな。……あいつは力じゃない、心が怪物だ。まるで神のような精神構造をしていやがる。自分を悪って考えてるだけ神よりましか」


「神のようなだと?」

「ああ。悪を罰し、善を助ける。それ自体は悪いことじゃないが、あいつは悪を罰すことを中心に考え、その手段を殺すことしか知らない」


「お前、年取って話が長くなったんじゃないのか? さっさと結論を言え」

「その【星悪種】って運命から逃れられる鍵になるかもしれない」


「なんだと!?」


 私はある存在に決められたルールに縛られ、その運命から逃れることはできない。

 そして、人間が生まれ、繁栄し、衰退するまで、生きてきた。


 その運命から逃れる方法があるだというのなら何よりも優先すべきことになる。


「あいつの生き方と精神構造のせいか、こっちの世界に来るときに力を受け取っていない。特力は自分で得たものだ。つまり、唯一、この世界のルールから外れ、神の加護も受けていない」

「はっ、つまりお前はただの人間が神を打倒すると? 正気か?」


 この世界のルールである神に逆らえる者はいない。

 そして神はゲーム感覚で私という【星悪種】を殺せる主人公を作り出して、送り込んでくる。

 それが資格を持った者だ。


 そんな異次元の力を持つ存在を一人の人間が殺せるわけがないのだ。



 だが



「いいだろう。私が鍛えてやる」



 それに懸けたくなるくらいには長く生きてきた。


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