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超常

「突撃!!」


 雄叫びと、足音が響き、約四千の兵士が前進する。

 レオス将軍の攻撃の跡を駆け抜ける。


「ネライ打テ!!」


 両側の丘がそれを許すわけはなく、矢と魔法が降り注ぐ。

 次々に兵士が成すすべなく攻撃を受け、倒れていくが立ち止まるわけにはいかない。


「将波! 先行しろ!!」


 部隊長から声がかかる。

 この部隊の中でも俺の武力は頭一つ抜けている。そのため、最前線にもともと配置されていた。


 そして、奥の丘への進路が見えた今、俺に突撃命令が下った。


 横に並んでいた兵を後方に置き去りにし、森林に紛れる。

 木々が屋根となり、矢を防ぎ、魔法の緩衝材になっている。


 森林の中を進軍しないのは進軍速度が下がることと、相手が伏兵を潜ませている可能性があるからだ。


「敵ダ! カマッ」


 伏兵に見つかった瞬時に指揮官を見抜きその首を短剣で斬り落とす。リーチを考え、支給品の剣を使うことも多いが、木という障害物が多く、速度が大事になる小尾場面では短剣の方が使い勝手がいい。


 そして指揮系統を失い、機能しなくなった部隊を置き去りに丘に向かう。


 これは僕が森の中でも問題なく速度を保ったまま進軍できると考慮されての突撃だ。雑兵にかまっている時間はない。


 部隊を二つ機能停止させ、丘の麓に到着した。

 森側にも柵が建てられ、砦化されているが、注意は中央の大規模な進軍に向いているようだ。



 脚に力を入れ、森から飛び出す。


 右に剣、左に短剣を持ち、身体を回転させながら連撃で兵の首を刈り取っていく。


「敵ダ! 撃テ!!」


 丘の中腹から矢が放たれる。

 敵兵の死体を壁にしてそれを防ぎ、次の矢が装填される前に中腹まで駆け抜ける。

 まだ麓にも敵は残っているが、僕の役割は混乱させることだ。いかに多くの指揮官の首を取れるかが勝負になってくる。


 中腹の弓矢部隊を指揮する兵に向かって剣を投擲する。とっさに手に持っていた盾で防がれたが、盾は砕け、敵の顔が驚愕しているのが見えた。


 その間、攻撃したことによって指示が遅れた間に距離を詰め、一振り目で前列の弓兵を無力化し、二振り目で指揮官の首を斬る。血に沈む表情は何かに祈るようで、かつて宗教団体をつぶした時に信者たちがしていたものと同じものを感じた。

 弓兵が剣に持ち替え追撃をしてくるが、先ほど投擲した剣を拾い、振りぬきそれを防ぐ。


「放テェ!!」


 さらに上から魔法が襲い掛かってくる。

 短剣でそれらを切り裂きながら上に駆け上がる。


「あいつに続け!!」


 そして騎士団も中腹に到達し混戦になる。

 ここまでくれば僕の単独行動も終わりだ。


 下から登ってくる騎士団と挟み込む形で中腹の弓兵たちを狩っていく。


 だが、騎士団の多数がこの丘に到着したことで、背後の丘からも魔法や弓が飛来する。


 混戦になっているのに敵も味方もお構いなしだ。

 死体となった肉の塊も焼けこげ、強烈な血みどろの異臭が周辺に立ち込める。


 そして、この臭いは人を獰猛にさせる。


「怯むな! 目の前の敵を斬って斬って斬りまくれぇ!!」


 混戦でも近接戦である以上、こちらの方が個々の力は上だった。また、魔法も背後からのものは距離のおかげで威力もかなり低い。


 時間をかけすぎているな。



 棒たちの目的は丘を獲ることだ。

 そして、今はまだ中腹。敵の主力は頂上にいるだろう。

 ここの兵力を削ぐのは重要ではあるが、最優先ではない。後続はいないのだ。今ある兵力で頂上を取らなければならない。

 だが、みな力が高ぶり、目の前の敵を殺すことが目的になり、進軍速度が落ちている。


 時間が経てば不利になるのはこちらの方だ。


「ゴウ部隊長!」

「先に行ってくれ!」


 魔法が飛び交い、血が飛び交い、方向感覚と目的を失いながら混戦になってきた戦場はもう部隊長の手からも外れていた。


 さすがにこれは違和感がある。

 そもそも主帝騎士団も近衛騎士団と同じで魔法が得意な者は少ない。つまり、魔法に対する耐性も低いのだ。

 この状況は誰かが意図的に、違和感を抱かせず、狂気を付与している。


 敵の魔法部隊はさらに上にいる。

 襲い掛かってくる魔法がどこから飛んでくるのかを判断するのは今は難しい。


 支給品の剣を鞘に納め、身を低くする。

 そして、最大速度で集団から抜け出し、丘を駆け上がる。


「飛ビ出テキタゾ! 殺セ!!」


 号令とともに火球が飛んでくるが、それが着弾する頃にはさらに距離を詰めている。

 今の僕の速度に魔法を当てるのは難しいだろう。


「壁ヲ作レ!」


 あと少しでというところで敵との間に火の壁ができ、視界がふさがる。


 集団戦において魔法は予想通り、使い勝手がいいものではない。遠距離戦においては掃討手段として大きな戦力になるが、近距離になった場合は連携が取りづらく、大勢を巻き込むためリスクも高い。

 今のように少数精鋭の戦力に対しての対応が雑になり、後手に回ることになる。


 火の壁を丹家で切り裂き、部隊に突入する。


 一回転で三人の首を落とし、変わった形の杖を持つ指揮官に詰め寄る。


「コノ、人間ガァ!!」


 振り下ろしてきた杖を斬り、そのまま首を落とす。


 魔法は解けただろう。少し時間が経てば中腹を制圧し、援軍が来るだろう。


 なら僕は、更にその先の道を切り開く。



 そのまま魔法部隊を放置して上に駆け上がる。


「退ケ、俺ガヤル!!」


 上から、巨躯の猪男が下りてくる。

 獰猛そうな目と凶悪な牙、そして精工とは言えないが全身を覆う鎧と、巨大な肉を切るための包丁のような大きな剣を持っている。

 そして、強者の覇気もまとっている。


「この丘の指揮官ですか?」

「ソウダ。俺ハ、ダカ。ココヲ守ル!」


 しっかりと意思疎通ができ、名前も持つ。姿は二足歩行の猪だが、僕が思っているよりも知能が高いのかもしれない。


 大剣が振り下ろされる。

 勢いも伴って実際よりも大きく見える。


 正面から打ち合うのは不利だ。


 大剣の一振りを避け、距離を取り、側面に回る。

 振り下ろされた大剣はそのまま横薙ぎの軌道で追撃に入る。その軌道はしっかりと僕を捕らえているが、大剣の速度よりも僕の移動速度の方が速い。


 そのまま、追撃に追いつかれることなく、背後に回り、足の腱を斬る。


(浅いかっ)


 短剣では腱を斬り切るとこまでは無理だった。


 腰の剣も抜く。


「人間ハ何故侵攻シテクル!? 何故魔族ト決メ、殺ス!?」


 魔族というのは僕たちが他種族の中でも知能の低い魔獣と言っている者たちや、社会性のない異種族のことだ。

 それを、なぜ殺す? それは敵国だから。人間の国の敵だから。


「敵だから」


 ……敵っていう言葉は便利だ。


 大剣が再び襲い掛かってくる。

 それを真下から飛び上がるように短剣で迎え撃つ。

 脚に傷を負った猪男ならば、十分迎撃することができる。


 大剣を押し返し、そのまま破壊する。

 はじき返され、体制を崩した猪男の首を剣で斬る。

 今回はしっかりと首の筋を斬った感触があった。


「コノ、邪悪ナ生物ガ……」


 猪男はそう言い残し、力を失った。


 ◇


「掃討しろ! 一匹も逃がすな!!」


 こっちの丘は指揮官の死亡が決定打になり、騎士団が制圧した。

 隣の丘はまだ奮戦しているようだが、そっちに援軍を送るほど余裕はない。


 そして、この丘が落ちる直前に本隊による手前の丘の攻略も始まった。

 レオス将軍は本陣から動いていない。何か予測不能の事態に備えての行動だろう。


 これが僕の初陣だった。



「お前か。少年」


 初陣だった。


「あいつの加護を受けているようだが、自己防衛だ。あいつも許してくれるだろう」


 初陣だった。


「血晶爆」


 終わったはずだった。


 声が聞こえ、その姿を捕らえる前に衝撃が奔った。

 視界が赤に染まり、瞬時に衝撃で吹き飛ばされる。


 だが、赤い液体が追撃してきた。

 それが身体に触れれば、同じ衝撃が起こり吹き飛ばされる。


 そのループが終わらない。


 こんな攻撃は生きていて、死んでからも受けたことはない。

 景色が変わるが、すぐに吹き飛ばされ、また変わる。

 三度繰り返され平衡感覚を失い、五度繰り返され、意識を失った。



「出たな、怪物」



 超常、再び相対する。











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