誕生
はじめまして、お名前を。
将波 強
『しょうなみ きょう』さまですね。
これから何を成しますか?
神の時代に終止符を
……それは。私たちを機能停止させることでしょうか、確認を求めます。
そうだ
危険分子と判断。処分決行。
失敗。
エラー、エラー、エラー、エラー。
人物把握に失敗。名称不明。
お前を殺して終わりだ
最後の神よ、人に世を明け渡せ
判明、残神数1。
緊急事態発生……解明、将波強、神殺し達成。
ー-グランドクエスト『黎明』がクリアされました。
◇◇◇
それは幻想のような現実だった。
霞んでいく景色と、駆け巡る回想。
痛みと引き換えに膨らむ達成感。
後悔なく、その短い生涯を終えた。
若くして戦場に駆り出され、心のありどころを失った。
そのまま誰にも知られず死んでいくはずだった人生はある日を境に浮き上がり、そのまま天に向かうことができた。
最後は抜け殻ではなく、人として逝くことができた。
いい、人生だった。
将波強、齢19で生涯に幕を閉じた、はずだった。
重く沈んだ身体がすっと軽くなった。
二度と開くはずのなかった瞼が持ち上がり、視界が広がった。
そこは純白が広がる無限の空間だった。すべて見えているようで何もそこにはない。
これがあの世か、と妙に納得できた。
はじめまして、お名前を。
アナウンスのように音が響いた。
閻魔様というやつだろうか、これまでの人生を振り返れば地獄行きは間違いない。
将波強
『しょうなみ つよし』様ですね。
これから何を成しますか?
これから?
あなたはこれからある世界に送られます。そこで何を成したいですか?
ここに来る者は強い心を残して死んでしまった者ばかりです。
さぁ、何を成したいですか?
それでは僕がここに来たのは間違いだったのでしょう。
僕に思い残すことはなく、成したいこともありません。
では、次の世界で成したいことを探して、それを叶えてください。
それが達せられた時、またここであいましょう。
純白が頭まで入り込み、思考を奪う。
そしてそのまま、身体は墜ちていった。
世界に来訪者が現れました。
□□□
将波強【全うした者】
武力・S
魔力・C
特力・【殺戮者】
※【殺戮者】:全存在に対して殺害できる可能性を生む。殺意を持って行動を行う時、ステータス以上の能力を発揮できることがある。
□□□
この者が成すことを願います。
視界が色彩に満ちた。
そこは死に際に見た景色ではなく、見慣れない景色だった。
どちらかと言えば、昔の戦場に似ている。
無法の空気漂う自然の中に僕は放り出されたようだ。
持ち物は何もなく、服はうすぎたない布一枚だけだ。これは昔よく行ったゲリラ戦の時の装備とよく似ている。
幸いこの状況は何度も繰り返してきた。
とにかく情報収集だ。
さっきの不思議な体験は夢ではなかったのだろう。
俺は死なずに、今までとは違う世界に生まれ変わったのだ。
言語は通じるのか、文明はどれほど発達しているのか、身分格差はどうなのかなどを調べなければならない。
ゴロゴロと地面を走る車輪と馬が駆ける音がした。
いい移動手段が現れてくれた。
急いで駆け寄り、馬の速度と合わせ馬車の後ろに着く。
馬車を引く従者が二人、それ以外人は見当たらない。荷台には仲間では見えないが、馬の速度から結構な重量を引いている。
あたりに護衛役の馬や人はいない。
安心して、荷台の屋根に飛び乗った。
屋根に耳をつけ、中の音を探る。
声も物音もしないが、生物の気配はある。
それが人か動物かは分からないが、情報収集には役立たない。
切り換えて従者から情報収集を行う。
馬の質は悪くない、山道を走りなれている筋肉の付き方だ。
従者の馬術はそれほどよくはないが、体格は良い。
荒事を得意にしている雰囲気をまとっている。
「はぁ、町まであと半日か。女が恋しいぜ」
「ほんとにお前は猿だな! 商品には手を出すなよ? 純潔の長耳族っていう注文だ」
「わーってるよ。売った金で女を買った方が気持ちいい思いができっからな」
「はぁ、使い果たすなよ」
町まではあと半日か、幸運だな。
そしてやはり荷台の中は奴隷か。長耳族という名称に聞き覚えはないが、用途より見た目麗しい種族なのだろう。そもそもそれが人かどうかは分からない。
布の隙間から荷台の中を覗く。
そこには手足を縛られ、生気を失くした目をした女性たちが積まれていた。
外見はただ麗しい見た目の西洋地域の女性だが、耳の形が異形だった。長く鋭いその耳が種族名の由来だろう。長耳族と呼ばれても間違いなく人間だ。
このような光景は久しぶりに見た。
昔は気にも留めていなかったが、今はこれが異常な事であり、助けるべきだということも分かる。
だが、この世界の常識が不明な以上雑に行動は起こせない。
今は町まで待機だ。このまま町に入る。
太陽の位置からして、日が沈んでからしか町には到着しない。好都合だ。
それから山を下り続け、日も下る。
「そこの馬車止まれ!! 積み荷を確認させてもらう」
明らかに装備を整えた衛兵が現れた。
西洋の貴族などが身に着けた甲冑を身に着け、両手刃の剣を帯剣している。
数は五、小集団で見回りをしているところに引っかかったのだろう。
衛兵が現れ、声をかけてくる前に馬車から飛び降り、草むらに姿を隠した。
衛兵の対処によっては身汚い浮浪者のふりをして保護してもらうのもありだ。
「これはこれは近衛騎士殿。このような場所に何用で?」
「貴様たちには関係のないことだ。荷台の中を確認させてもらうぞ」
「ええどうぞ」
三人が荷台の後ろに回り中見を確認しようとし、残りの二人が従者二人に目的とどこから来たかを確認している。
「商売目的か。どこから来た?」
「えーまあ。二つ隣町から」
「隊長! こいつら奴隷商です。それも他種族!」
「あ~あバレちまった。兄貴」
「ごくろうさま」
騎士が剣を抜くよりも早く、二人の騎士の身体が炎に包まれた。
まるで火炎放射兵器かのような火力だが、そのような物は見られない。攻撃手段が未知だ、これがこの世界の常識なのか。
「貴様!」
「ザク」
「分かってるよ」
炎を発した従者ではなく、もう一人が倒れた騎士の剣を拾い、三人に正面から立ち向かう。
ザクと呼ばれた従者は雑な剣の一振りで三人の鎧を砕き、もう一振りで切り裂いた。
圧倒的だった。
近衛騎士よりも商人が強い世界なのか、この二人が相当な手練れなのか。
とにかく、この馬車に乗っていく方が町にうまく入れそうだ。
だが、こいつらが悪人だというのはほぼ確定してしまった。
あの人に教えられた生き方に従うならこのまま素通りはダメだ。
どのタイミングでこいつらを殺し、長耳族を救うかだ。
「生き返った早々に厄介だな」
相手は未知の攻撃手段を持つ悪人。
僕は再び馬車の上に飛び乗った。