陽葵の“場所”
今回は“伊麻利さん”視点です。
あ、今
くちびるがコクコク動いた。
陽葵は…
夢の中で
幼子に返って
おっぱいを飲んでいるのだろう。
その指も柔らかく私の胸を包んでいて
私を甘やかな安らぎに誘う。
しかし私の胸の…そのわずかに下の奥が…今、陽葵が夢の中で抱かれているであろう奥様に対する嫉妬で痛む。
だけど実際に今、陽葵を抱いているのは私で…
陽葵が甘えているのは私の胸
そして康雄さんをこの家に繋ぎ留めているのも私の胸だ。
ああ、まただ!
こうして私の中の…
下卑た愚かな女の思いを目の当たりにするたびに
私は自分自身を突き刺す。
「お前は見境なく愛されることを渇望しているだけだ。だから簡単に我が身を男の手にゆだねるし…いたいけな子供は手篭めにしようとする」
「そして、その両方から自身のアイデンティティを保障させ、甘い快楽の果実を享受しているに過ぎないのだ」
「いたいけな陽葵に今日したことは…お前のよこしまな心が発端のchild abuseじゃないのか?? 少なくとも健全な心身の発育を阻害しているのではないか? そうやって陽葵の心をいいように自分に縛り付けて置いて…そのうちまた…康雄さんともいたすのだろう?? それが陽葵の心をどれほど傷つけるのか!!分からないわけではないだろう!!」
「…それは…あと数年後の未来に…身を焦がす嫉妬として逆に私が味わう事になるから」との“もう一人の私”の言い訳は…
「それこそがabuseじゃないの?!!」と瞬時に捻じ伏せられる。
「分かっているよぉ~ でも弱くてダメな私は…どうしようもないだもん…」
うっかり落としてしまった涙が陽葵の頬の上で跳ねて…
陽葵は…あの“ベビたん”みたいに「くわあ」とあくびをしてコシコシと目をこすった。
でも…
目尻だけじゃなく自分の頬にも涙の破片があるのを不思議そうにするので…
私は必死に涙を抑えた。
陽葵は…目の前の私に段々と意識の焦点が合って来て
「ふっ」と息をもらした。
「あのね! 私ね! 赤ちゃんだったの! 夢の中で! それでね! おっぱい飲んでたのコクコクコクって!」
「…うん」私は必死に必死に涙を堪えた。
「私ね。おっぱい飲みながら何度も何度も見上げたの」
平静を装う私はその言葉を掬う。
「『ママ』が優しく見つめてくれてたのね」
「違うの。何度見てもそれは…『ママ』じゃないの…見つめてくれていたのは…『お母さん』、マーちゃんだったの!」
私はこぼれ出そうになる嗚咽を必死で飲み込んで、代わりに言葉を棒のように吐き出した。
「それは…奥様に失礼な事をしてしまったわ…」
陽葵は…少し瞳を陰らせて私を見つめる。
「マーちゃんは…イヤなの?」
飲み込み切れなかった嗚咽がしゃくり上げとなって私の口からこぼれ落ちた。
「嬉しいに決まってるでしょ!」
陽葵はパアーっと満面の笑みになって、その頬っぺたをポンポンと私の胸の上で跳ねさせた。
「マーちゃんがね、『いつまでもいつまでも一番』って言ってくれたからだよ。だからここはとっても甘い私の場所!!」
ああ…やっぱりダメ
涙、止められないし
私の“好き”も止められない。
泣きながら陽葵の顔を胸に抱きかかえる。
「もっと飲んでいいよ」
陽葵は私の胸の上でゴロゴロじゃれながら呟いた。
「今はもうお腹いっぱいだから、また後で!」
「後で?!」
「うん!後で!」
そう言って陽葵は…
私を見上げてコロコロと笑った。
。。。。。
イラストです。
陽葵ちゃん
今回も落ちてます。
次回からラスボにとりかかれるかなあ
というか…こんなおはなし
書いていいのだろうか…(-_-;)
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