子供の“幸せ”って? ②
日曜だけど、いつもよりずっと早く起きた。
元々早い時間に合わせておいた目覚まし時計を鳴らすこともなく目が覚めてしまった…
だから窓の外はまだ真っ暗だ。
それなのに…
洗面台の蛇口からは待つことなく温かいお湯が出る…誰かが給湯器を使ったんだ。
私は昨日、早々に寝てしまった。
だからお父さんがいつ帰ってきたのかは知らない…
ただ、バスルームのドアを開けてみると、ほのかな香りともんやりとした熱気が残っていて…床もテラテラ濡れていた。
私の懸念は当たっていたようで…
私の中で焦げる…チリチリした気持ちがちょっとの間、私を切なくさせたけど…
バシャバシャと顔を洗って、一緒に流した。
身だしなみを整えてからお仏壇に向かい、お水をお供えしてロウソクを灯し、お線香を上げ、手を合わせる。
「安岡くんの遺したグループワーク とても難しい 色々色々考えているんだけど…安岡くんはズルい! こんなグループワークを送り付けておいて『何かしようとしたって無駄な事だ。何もするな!!!』だなんて!! そんな事、できるわけないじゃん!」
私は大きくため息をついて、今度はママと“ベビたん”にお祈りした。
「もし、安岡くんに出会ったら…彼が何か困っているようだったら…よろしくおねがいします」と
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「陽葵! 起きてたの?」
マーちゃんは少し驚いてパジャマの襟元を指で寄せる。
「うん。お父さんは?」
「まだ寝てる…」
言い掛けてマーちゃんはハッ!と口を押えた。
「お母さん。お風呂から上がったら教えて欲しい事があるの…」
「えっ?!」
「課題に関する事だよ」
「えっ! ああ、そうね。うん」
「だから、ね! お風呂行ってきて」
「…わかった」
チリチリした気持ちに押されてマーちゃんにイジワルを言ってしまった…
私、将来、イヤ~な大人になってしまうのだろうか…
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お風呂に入っているマーちゃんを待つ間、昨日教わったオムレツをさっそく作ってみた。
一番きれいにできた物はマーちゃん用
ちょっと焦げ目がついたのは私
そして、一番グニャンとした物をお父さん用にした。
まあ、惰眠を貪っているお父さんが起きてくる頃にはすっかり冷えてしまっているだろうけど…
洗い物をしながら時折廊下に出て、向こうの様子を窺がう。
今はドライヤーの音がしているので、そろそろトースターでパンを焼こう。
だけど
焼き上がりのチン!音がする前にマーちゃんはリビングに入って来た。
「もっとゆっくりで大丈夫なのに…」
慌ただしくドライヤーを掛けたのだろう。モコモコのルームウェアの肩辺りで毛先が跳ねている。
「お母さん、そのルームウェア、かわいい!」
「えっ? 私には似合わない?」
「違うよぉ。ルームウェアを着たマーちゃんがかわいいんだよ」
「あはっ! 陽葵から『かわいい』って言われるとキュン!とするよ」
「ふふ、私はいつだってマーちゃんに胸キュンだよ」
とスリッパをパタパタさせてお母さんにギューと抱き付いた。
そうなんだ。
私だって!
お母さんが幸せなのが一番なんだ。
今はスッピンのお母さん。
顎の傷は…
昔、オトコに殴られて付けられた傷。
他にも
そのオトコに付けられた傷が体中にある。
だけどお父さんはお母さんを優しく抱いてくれているはずだから
私は…いいんだ。
お父さんとは…オムレツのチリチリの焦げとグニャンで痛み分けにしてあげる。
お母さんは抱き付いている私の頭に頬を寄せて聞いてくれた。
「課題って…宿題?」
「ううん。違うの。でもその前に朝ごはん。私の作ったオムレツ食べて!」
まだ辛いお話になっていないのに…既に泣いてしまった。
困った(-_-;)
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